第八話 看病 その2
「海狸よ、箱に入った小瓶はあったがこれでいいのか?」
「ん~・・・、ちょっと違うっぽい・・・?
でも使えそうだから一応出しとこうか」
台所に到着した真狐は、海狸から聞いた大雑把な情報を頼りに
引き出しを片っ端から開けつつ薬を探している
風邪薬や栄養剤など、使えそうなものは
一通り揃い始めていた
「え~っと・・・、やっぱり栄養剤の方がいいかなぁ・・・、
後はドリンクと、何か食べ物もいるね、
ボクは冷蔵庫調べるから、真狐ちゃんはこれとこれ以外、
出した物を引き出しに戻してちょうだい」
「よし、心得た」
手にしたスマートフォンであれこれ調べつつ、
少年の病状に役立ちそうなものを集める海狸
戸棚を探し終わると、
今度は冷蔵庫を軽く開けて食料品の調達に入った
「ん~・・・、栄養ドリンクはあったけど・・・、
丁度いい果物みたいなのはないかなぁ・・・」
「どうした、食べ物が足りんのか?」
中身を確認しつつ悩むような声を出す海狸に、
出したものを片付けながら真狐が尋ねる
「うん、簡単に食べられて栄養になるやつが
見当たらないんだよねぇ・・・」
「ううむ、それはいかん、どこかで調達してこねば・・・」
「ああ、でも待って・・・、梅干しがあるから・・・、
そうだ、お粥でも作ればいいんだ」
「お粥・・・、そうかそれならぴったりじゃ」
目当ての物は見つからなかったようだが、
他の物で料理を作ることに思いが至り
海狸が嬉しそうに手を叩く
真狐もその考えに同調し、早速白飯が入っているはずの
炊飯器を覗いてみた
「確か、こうやって開けるんじゃったな・・・、
おお、きちんと米が入っておるぞ」
「ばっちりだね、じゃあ・・・」
材料が揃っていたことを喜びつつ、
二人は同時に口を開く
「海狸、頼むぞ」
「真狐ちゃん、お願いね」
「「・・・え?」」
そこから放たれた言葉は、奇しくも同じ内容のものだった
「いや・・・、お主、料理は出来んのか・・・?」
「ボク生まれてこの方やったことないよ・・・?
真狐ちゃんこそ、昔はやってなかったっけ?」
「もう百年以上前の話ではないか・・・、
おまけにこの火を起こすための道具は
あまり近づかぬよう史陽に言われておってな・・・」
「これそんなに危ないものじゃないんだけど・・・、」
史くんらしいと言えばらしいのかも・・・」
現代的な知識を持っているが、料理の経験は皆無な海狸と、
料理をしたことはあるようだが、現代の器具など
使用したこともない真狐
二人は共に頭をひねり、ある一つの答えを出した
「じゃあ・・・、ボクが道具と場を整えて、
真狐ちゃんが調理する・・・、っていう作戦で行こうか?」
「う、ううむ・・・、よし、それでとにかくやってみよう」
なんとか放心も決まり、海狸がコンロの前に立つ
「えっと、火を点けるにはここを押せばいいんだったよね・・・、
・・・あれっ? 変だな、全然反応しないや」
「どうした? 故障でもしておるのか?
母君は昨夜普通に料理しておったぞ?」
「ちょっと待って・・・、う~ん・・・、
だめだ、分かんないから調べてみよう」
点火のスイッチを押しても反応しないため、
故障を疑う二人
真狐はコンロを前に首を傾げ、
海狸はスマートフォンで原因を調べ始めた
「コンロ、点かない、・・・・・・、
電池切れが原因、かなぁ・・・」
「でんち? とはなんじゃったかのう、
ともかく今度はそれが必要なのか?」
「多分そうだと思うけど・・・、
電池はどこにあるんだろう・・・」
「ええい、こうなれば片っ端から
探してみるのみよ」
海狸に大まかな原因と解決策を伝えられ、
家の中をひっくり返しそうな雰囲気で腕をまくる真狐
そこへ、玄関のチャイムが家の中へ響き渡った
「む? こんな時に誰じゃ?」
「ちょっと史くんに化けて出てくるよ」
来客の対応をするべく、少年の姿に化けた海狸が
足早に玄関へ移動する
そして、扉を開けた瞬間に誰が来たのか気付き、
思わず笑みをこぼした
「どちら様・・・、って玲ちゃん♪」
訪れたのは、先日知り合った人間の女性、
玲香だった




