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妖縁奇縁  作者: T&E
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第七話 勝負 後編 その3

少年が目覚めるまでの間、三人は様々なことを話し続けた


「まあ・・・、史陽様と真狐様はそのような出会いをなされたのですか」


「うむ、あれはまさに、運命と呼ぶに相応しい出会いじゃった」


好きなことや身近なこと、少年のことといった、

楽しそうな話題を探して会話に花を咲かせる


「ボクは辛い物も平気っていうか、むしろ好きかなぁ、

玲ちゃんはどう?」


「私はそうですね・・・、辛い物も平気ですが、

和風なものの方がより好みに合います♪」


話題は尽きることなく、次から次へと会話が弾み、

気が付けば完全に熱が入って来た


「ええ・・・、私の両親も、そのまた両親も、ご先祖さまも、

みんな霊を見たりする力があったと聞いております」


「ほう、先祖代々そういう家系だったわけか」


「もしかしたら、玲ちゃんのご先祖様に、

退魔師みたいな人がいたのかもね」


楽しそうな笑い声はしばらく続き、段々と日が暮れ始める


「ふむふむ、つまり優しくて、尚且つ頼れる男がお主の理想か♪」


「は、はい・・・♪」


「そこで寝てる史くんも、優しいし、頼れるときは頼れるよ~?♪」


「そ、そんな・・・、私・・・、

いえ、第一史陽様は真狐様の恋人ですし・・・」


「くっくっ♪ そう紅くならんでもよいではないか♪

誰かを好きになるというのは悪いことではない、

それに、好意を持つくらいなら構わんぞ?♪ わしと史陽の絆は、

ちょっとやそっとじゃ切れんのじゃからな♪」


「そ、そうなのですか・・・?」


「そうそう、あ、ボクは史くんも好きだけど、真狐ちゃんも好きなんだ♪

それから、玲ちゃんのことも結構好きだよ~?♪」


「まあ、ありがとうございます・・・♪」


ぎこちなさもすっかり消え、まるで全員が旧知の仲と思えるほど

仲良く話が盛り上がって来たころ、話し声に気が付いた少年が

ようやくゆっくりと起き上がる


「おお、史陽、ようやっと目が覚めたか」


「おはよう、気分はどう?」


「あ、史陽様・・・、さきほどはどうも・・・」


少年が起き上がったことにすぐ気が付くと、

それぞれが思い思いに声を掛けた


全員から次々に話しかけられ、少年はぼんやりとした頭で

それぞれに受け答えをする


しかし、意識がはっきりしてくると、直前のことを思い出し、

突然玲香に謝罪を始めた


「ふ、史陽様、お顔を上げて下さい・・・!

謝るのはこちらの方でして・・・」


「史陽よ、玲香の言う通り顔を上げておくれ、

玲香には、わしらからも謝罪を済ませたのじゃ」


「そうそう、それで誤解も解けたし、

さっきからみんなでおしゃべりしてたの、

だからもう心配いらないよ?♪」


少年は恐る恐る顔を上げると、自分を見る全員の顔が

微笑んでいることに気が付き、少し安心したように表情を和らげる


「あ、あとね? ボクたち二人とも玲ちゃんのお友達になったんだ♪

史くんと玲ちゃんはもう友達だから、

これでみんなお友達になったってことだね♪」


海狸の言葉に少年は笑顔で頷くと、玲香の方を向き、

少し改まって挨拶をした


「は、はい・・・、こちらこそよろしくお願いします、

皆様とも、史陽様とももっと仲良くなりたいと思っておりますので」


「ね、玲ちゃん、史くんはもうキミのこと友達だって

思ってたでしょ?♪」


「はい・・・♪」


海狸と玲香は、お互いに顔を見合わせ、自然な笑顔を浮かべている


二人の会話について尋ねようとした少年だが、

結局気にしないことにして、真狐に時間を尋ねることにした


「おお、まだご両親の帰ってくる時間には少し早いのじゃが、

なにかするべきことでもあったのか?」


真狐は何の気なしに答えると、そのまま少年に質問を返したが、

少年が答える前に、時間という言葉に玲香が反応する


「まあ、いけない、そろそろ帰りませんと、皆が心配するかもしれません!」


「えっ、もう? 玲ちゃんの家、門限とか厳しいんだ?」


「いいえ、そうではないのですが、歩いて帰らなけれいけないので・・・、

それに、暗くなる前には帰るとは伝えておきましたから」


「歩いてここまで来ておったのか、

よくよく考えれば史陽と一緒にここへ来たのじゃから、

確かに歩きでないとおかしいのう」


「じゃあ、また今度遊びに来てね? それかこっちから行くよ♪」


「はい、どちらでも、喜んで♪」


名残惜しそうにしていたが、玲香は次の約束を取りつけたことで笑顔になり、

嬉しそうに立ち上がった


見送りをしようと少年も立ち上がるが、わずかによろめき、

すぐ真狐に抱き留められる


「おっと、大丈夫か・・・? 倒れておったのじゃからそう無理をするでない、

見送りはわしらでやっておく」


「そうですわ史陽様、どうかご無理をなさらないで下さい」


二人の言葉に意を唱えようとした少年だが、

これ以上気を遣わせるのも良くないと思い、

渋々ながらも了承した


「うん、いい子いい子、じゃあ史くんはボクがベッドまで運んでおくよ♪」


言うが早いか、海狸は少年の体を抱きかかえ、軽快な動きで

自室まで運んで行く


「わしが運んでやりたかったのに、あやつめ・・・、まあ良いか、

さて玲香よ、海狸はすぐに戻ってくるじゃろうから、

お主も準備をしておいた方が良いぞ?」


「はい、真狐様、と言っても、私の荷物は

確か玄関に置いたままでしたね・・・、ではこのまま参りましょう」


そう言いながら二人が帰る支度をしていると、

玲香が靴を履いた辺りで、海狸が騒がしく戻って来た


「見送り、間に合った~、あ、史くんはばっちりベッドへ寝かせたよ~♪」


「ご苦労じゃったな、それでは玲香よ、また好きな時に尋ねてくるが良い」


「はい、ありがとうございます、真狐様も、海狸様もお元気で、

史陽様にもよろしくお伝えください」


「うん、もちろん♪」


「では、楽しいひと時をありがとうございました、

それと・・・、麦茶、ご馳走様でした♪」


「ふふ、また来たらご馳走してやるからな♪」


「じゃあ、ばいば~い♪」


「さようなら、またお会いしましょう♪」


三人とも笑顔で別れを告げると、玲香が頭を下げながら

扉を開け、外へ出ていく


「行っちゃったね・・・」


「うむ・・・、好感の持てる純粋な女性であったな」


扉が閉じると同時に、少し寂しそうになった真狐と海狸だが、

すぐに気持ちを切り替えて居間へ戻る


二人はそのまま座り込むと、玲香について

気になった点を話し合う


「しかし・・・、最初に感じた、あの得も言われぬ

奇妙な感覚はなんだったのじゃろうか・・・」


「あれ? ひょっとして真狐ちゃんも何か感じたの・・・?」


「と言うと、お主もか・・・?」


「うん・・・、何かこう、どうしても悪戯せずには

いられない感覚がさぁ・・・」


「わしと同じじゃのう・・・、誤解が解けた頃には

もうすでに綺麗さっぱり消えておったのじゃが・・・」


「案外、ご先祖様がほんとに退魔師だったりして、

それも昔ボクらを懲らしめたことのある奴だったとか」


「それで恨みつらみを晴らしたと? だとしたらわしらもまだまだじゃのう、

子孫に罪はないというに・・・」


何故自分たちが玲香をからかう気になったのか原因を探る二人だが、

結局答えは出ず、気に留めないことにした


「まあ、もう過ぎたことだよね、玲ちゃんとは仲良くなれそうだし♪」


「そうじゃな・・・、人の友達、か、出来るのは初めてじゃが悪くないのう♪」


「真狐ちゃんはそもそも友達少ないものね、

そりゃ人だろうと妖怪だろうと嬉しいでしょ」


「ふん、お主とて、真に友と呼べるものはわしと史陽以外におるのか?」


「あはは、確かにボクも人のこと言えないや♪」


二人で談笑を続けていたが、何かを思い出したのか、

不意に海狸が話題を変える


「そういえばさ、真狐ちゃん、さっき史くんを誘惑した時、

魅了の術を使ってなかった?」


海狸の言葉に、真狐は少しだけ表情が強張ったが

すぐに表情を取り繕いながらはぐらかすような返事をした


「はて・・・、どうじゃったかのう・・・」


「じゃあ・・・、もし使っていたとしたら、

どうしてそんなことしたんだと思う・・・?」


続いての質問にも答えることはなく、

代わりに別な答えを出す


「分からんよ・・・、じゃが・・・」


「もしわしが魅了の術を使ったとしても、

史陽は見事それに抵抗してみせた、その結果だけが残るのではないか?」


「それは・・・、うん、確かに史くん頑張ったね・・・」


何か言いたげな表情を見せた海狸だったが、

結局真狐に合わせる形で会話を終える


「・・・・・・」


「・・・・・・」


しばらくの間沈黙が続いていたが、

再び海狸が口を開いた


「まだ、真狐ちゃんの呪いは完全に解けていないの・・・?」


「・・・・・・」


海狸の質問にすぐ返答せず、思案するような様子を見せる真狐だが、

やがて、どこか憂いのある表情を見せながらこう答えた


「そうじゃ・・・、わしの呪いはまだ完全に解けてはおらん・・・」


「妖力自体はもうほとんど戻ってきておる、

それこそ昔と遜色のないほどに」


「うん、ボクから見ても、もう充分力は戻ってきてると思う・・・、

でも・・・、それでも呪いはまだなくなっていないんだね・・・?」


「ああ・・・、体の中に、はっきりと呪いを感じるのじゃ、

ちょうどこの胸に、楔が突き刺さっているような感じがする・・・」


真狐が苦々しい表情で胸元を抑えるのを見て、

海狸の表情も段々と悲し気なものへ変わっていく


「どうして・・・、どうしてなんだろう・・・、

真狐ちゃんも史くんも、もう充分お互いのことを想い合ってると思うのに」


「・・・少なくとも史陽の方はもう充分にわしのことを想ってくれておる、

わしよりも・・・、きっと自分でも分かっておらぬほど強くな」


「利己的な理由で近づいてきたわしに寛大な心を見せ、

これ以上ないほどの愛を与えてくれているのじゃ・・・」


「でも真狐ちゃんだって、史くんのことすごく愛してるじゃない」


「そのつもりじゃ・・・、そのつもりなのじゃが・・・、

それでもまだ足りないらしい・・・」


「じゃが・・・、何が足りぬのかさっぱり分からん・・・、

わしはまだ、史陽との「真実の愛」を手にするに

相応しくないということなのか・・・」


次第に表情が暗くなっていく真狐につられ、

海狸の表情も変わりかけるが、すぐに気持ちを改め、表情に力を戻した


「ほらほら真狐ちゃんダメだよ? お顔が暗くなってきてるぞ~♪

そんな顔、史くんには見せられないでしょ?♪」


「・・・そうじゃな、いつの間にか情けない顔になっておったようじゃが、

こんなもの見せるわけにはいかん」


「そうそう、それに「真実の愛」なんて、

そう簡単に育めるものじゃないだろうし、

もっと時間をかけてみたらいいと思うんだ♪」


「確かにそうかもしれんな・・・、思えば気ばかりが焦って

大事なことを見落としていたのかもしれん」


海狸に励まされ、真狐の顔にも少しずつ力が戻ってくる


「その調子だよ♪ やっぱり真狐ちゃんや史くんが楽しそうにしていないと、

ボクも悪戯のしがいがないもんね~♪」


「お前と言う奴は・・・、まあ良い、励ましてくれたことには

素直に礼を言おう」


海狸の言葉に苦笑しつつも、少しずつ元気が戻って来たのか、

真狐の表情が和らいできた


そこへ玄関から声が掛かり、二人は史陽の両親が帰ってきたことに気付く


「ご両親のご帰宅か・・・、今史陽に無理はさせられんから、

代わりにわしが化けて応対しよう、お主はこっそり2階へ上がって

そう伝えておいてくれ」


「うん、りょうかい♪」


すぐに少年の姿へ化けて玄関へ向かう真狐に返答しつつ、

海狸は音を殺しながら移動を始める


そして玄関で普段少年がしている通り、両親の応対をする真狐に一瞥をくれると、

すぐ階段を上り始めた


(真狐ちゃん、結構落ち込んでたな・・・)


少年の元へ行く最中、海狸は心の中で静かに考える


(自分に良くないところがあるから、史くんを心の底から

愛することが出来ていないから「真実の愛」を得られないって、

悪いことばかり考えないといいけど・・・)


(この呪いをかけた人は意地悪だよ・・・、

真狐ちゃんが史くんのことを好きになればなるほど、

呪いが完全に解けないことを、「真実の愛」を手にできていないことを

気にするようになっちゃうんだから・・・)


(やっぱりボクら妖怪には、「真実の愛」なんて分からないのかなぁ・・・)


(今度はボクが二人の力になってあげる番だけど・・・、

ボクだって心の底から人を愛したことなんてないからさっぱり分かんないや)


(玲ちゃんも・・・、恋とか愛とか経験なさそうだしなぁ・・・、

でも、ボクらとは違う観点から何か意見を出してくれるかもしれないし、

今度電話してみようかな)


あれこれと考えながら、海狸は少年の部屋の戸を静かに開けた


そして、ベッドから起き上がろうとしている少年に、

真狐が応対していることをこっそりと伝えて

少年をもう一度寝かしつける


夕飯が出来上がるまで、少年はしばらくの間微睡みに包まれていた


少年の騒がしい日常は、少しずつ変化していく

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