第一話 邂逅 その5
食事を終えていつもと同じように入浴し、
部屋に戻って再びがらくたを眺めていると、
就寝を促す母親の声が聞こえてくる
興奮冷めやらぬ状態ながらも、
言われた通り少年は就寝することにした
がらくたを片付け、歯を磨き、涼しい風を入れるために窓ガラスを開け、
部屋の明かりを消してベッドの中に潜り込む
さすがに疲れていたのか、少年はすぐにまどろみ始め、
そのまま深い眠りに就こうとしていたが・・・
そんな少年を窓の外から眺める一つの影があった
月明かりに照らされたその影は、はっきりとは分からないが
人の形をしているように見える
「・・・ここじゃ、ここで間違いない・・・」
「おう、いたいた、この匂いは確かに昼間の・・・」
謎の影は何かをぶつぶつと呟きつつ、少年の眠る部屋へ入ろうと身を乗り出した
開かれた窓ガラスから音もなく部屋の中へ侵入すると、
そのまま物音一つ立てず少年の側までゆっくりと近づく
「よう眠っておるの・・・、起こすのはちと心苦しいが、
やはり今宵のうちに話しておきたい」
その影はゆっくりと少年の側へ近づくと、
耳元に顔を近づけてこう囁いた
「夜分にすまぬが、起きとくれんか・・・?♡」
突然耳元で囁かれた少年は声の主を母親と勘違いしてしまったのか、
瞼を擦りつつ、母親だと思い込んだまま声を掛けた
「くっくっ・・・♪ わしはお主を生んだ覚えなどないぞ♪
寝ぼけとらんで、わしの顔をよう見ておくれ♪」
少年は寝ぼけた頭と眼で影にしばらく顔を近づけていたが、
次第に目が覚めてくると、見たことのない相手だということに気が付く
影に近づけていた顔を少しだけ離しつつ、
少年は影に向かって誰なのかを尋ねた
「うむ、その様子では、一応目覚めたようじゃな」
「そうさなあ、わしが誰かと言えば・・・、一言で表すと・・・」
謎の影が名乗り出すと同時に、
月明かりに照らされた影の形が少しだけ変わっていく
「狐、かのう・・・、昼間お主と出会った狐じゃな・・・♪」
頭に耳を生やし、腰から尻尾を伸ばしつつ、
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、謎の影はそう呟いた