第六話 決意 その4
ジュースを飲み干し、支払いも終えてから、
二人は無事に店を出る
「いや~、思ったよりも美味しかったね~♪
これならまた来ようかな~?♪」
海狸の恐ろしい発言を、少年は羞恥を理由にやんわりと拒否した
「え~? そんなに恥ずかしかったの~?♪
じゃあ絶対また来なきゃ~♪ ・・・あはは、うそうそ♪」
真っ赤になっていた少年の顔が青ざめ始めたのを見た海狸は、
さすがにからかいすぎたと判断したのか、すぐに訂正する
よほど恥ずかしかったのか、少年は嘘と聞いて胸を撫で下ろしていた
「随分恥ずかしかったんだね~、でも、周りの目なんて
必要以上に気にすることないと思うよ~?」
「だって・・・、人ってさ~、自分が思ってるほど周りのことなんて
いちいち気にしていないもの・・・」
そう言う海狸の顔に寂しそうな笑顔が浮かんでいるのを感じて、
少年は思わず声を掛けてみる
しかし、その声で自分がどんな顔をしてるのか気付いたらしく、
海狸の顔は即座に笑顔へ変わってしまう
「あはは、なんでもないよ~?♪ さあさあ、お腹いっぱいになったことだし、
次は何から遊ぼうかな~?♪」
先ほど浮かんだ寂しそうな顔がどこか引っかかる少年だが、
精一杯楽しもうとしている海狸に合わせ、自分もこの時間を楽しもうと
面白そうなアトラクションを探し始めた
すると突然、小さな子供の泣き声が聞こえて来たので、
思わず二人同時にそちらを向く
「なんだろ・・・? あれっ? あの子、迷子なのかなぁ・・・?」
視線の先にいたのは、両親とはぐれてしまったのか、
しゃがみ込んで泣きじゃくる小さな女の子だった
(ああいう、困っている人に手を差し伸べる人も
随分減ってきてるけど・・・)
海狸が少し寂しそうな目で子供を見ていると、
少年がすぐに女の子の方へ駆け寄っていく
(史くんは・・・、どうやら例外みたいだね・・・?)
少年の後に続き、海狸も女の子に近づいていった
「う~ん・・・、どうしたものかな~」
二人は女の子に話しかけ、何があったのか尋ねようとしているが、
泣きじゃくるばかりで何も答えない
「まずは落ち着いてもらわないとね、お、いい物があった、
史くん、ちょっとその子を見ていてくれる?」
少年が返事をすると、海狸はすぐに走り出す
そして、5分もしないうちに戻って来た海狸の手には、
大きな風船が握られていた
「はい、泣き止んでくれたら、お姉さんがご褒美にこれをあげるよ?」
色鮮やかな風船が目に入り、気が紛れたのか、女の子は少し泣き止み、
風船に手を伸ばす
「うん、偉いね~♪ はい、じゃあ約束のご褒美よ~♪」
風船を受け取った女の子の顔に、ほんのわずかな笑顔が戻った
「そっか、おとうさんとおかあさんからはぐれちゃったんだ」
女の子が話せるくらい落ち着いた所を見計らい、
目線を合わせながら、海狸が簡潔な言葉で現状を聞きだす
「怖かったね、でも大丈夫よ~? おとうさんたちが見つかるまで、
お姉ちゃんと、こっちのお兄ちゃんが側についていてあげるからね~」
海狸に言葉に合わせて少年も声を掛けると、
女の子も少しずつ笑顔になっていく
女の子の様子を見て大丈夫だと判断したのか、
海狸は立ち上がると少年に話しかけた
「迷子センターまで行って園内放送をかけてもらおっか、
それに、ご両親のどちらかでも居てくれれば話が早いし」
その提案に少年が頷くと、海狸がすぐに女の子へ話しかける
「お姉ちゃんたちと一緒に、おとうさんたちを探しに行こう?♪
きっと二人共心配してるだろうから、早く見つけてあげようね♪
・・・立てるかな~? うん、偉いぞ~」
海狸の手を握りながら、女の子は力強く立ち上がった
「ほら、こっちのお兄ちゃんとも手を繋いで、
三人で探しに行こうね~♪」
その言葉通り、女の子が手を伸ばしてきたので、
少年も慌ててその手を握る
「じゃあしゅっぱ~つ♪ まずはあっちの綺麗な方から行こう♪」
こうして、海狸の先導で、三人そろって手を繋ぎながら
迷子センターまで歩き始めた
道中も、女の子の気を紛らわせるためか、子供番組の歌を歌ったり、
色とりどりの綺麗なオブジェに目を向けさせたりと、
海狸はあの手この手で上手く導く
そうこうしている内に、無事迷子センターまで辿り着き、
事前に聞いておいた女の子の名前を告げ、職員に放送をかけてもらう
そして、両親が駆け込んでくるまでの間も、
海狸は徹底的に女の子をあやし続けた




