第六話 決意 その3
「ふう、思ったよりすぐに入れて良かったよ~♪」
あまり混んでいなかったためか、すぐに中へ入って席に着けた二人は、
出された水を飲んで一息ついていた
「このお水、冷たいからすっごくありがたいんだけど、
やっぱり美味しくはないかな・・・、
真狐ちゃんだったらちょっと文句言いそうだね?」
「いや、史くんの前だと恰好付けて我慢するかも♪
「うむ、まあ冷たいから充分じゃのう」とかなんとか言っちゃってさ」
真狐がどういう反応をするか少年も容易に想像出来るのか、
海狸の物まねに思わず笑ってしまう
「ま、例え美味しくないのを我慢しても、
デザート食べる頃には忘れてるだろうね、
さあ史くん、遠慮なく好きなもの頼んでいいよ~?♪」
「ボクは~、これとこれと・・・、後これにしようかな~?
飲み物は~、まずこれっと、あ、史くんゆっくり選んでいいからね?」
少年が遠慮しないように気を遣っているのか、
それともただ食べたいものを頼んでいるだけなのか、
メニューの中から高い物を次々と選ぶ海狸
呆気に取られていた少年は、気を取り直して食べたいものを探し始めた
「来た来た、じゃあ食べようか♪」
メニューを決め、店員に注文して待っていると、
すぐに料理がやってくる
少年と海狸は、二人そろって料理を食べ始めた
「うん、まあまあいけるかな?♪ 史くんのはどう?」
自分の料理を食べながら、海狸が少年に感想を尋ねる
少年が素直に美味しいことを告げると、
海狸は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、
少年の料理に手を伸ばした
「ほんとー? じゃあちょっと食べさせて♪
・・・あむっ♪ へぇ、これもなかなかいけるね♪」
返事も待たず、即座に食べてしまった海狸だが、
特に気にしていないのか、少年は海狸の感想に賛同している
「こっちも美味しいよ?♪ 史くんも食べてみる~?♪」
自分の料理を指さしながらそう言う海狸に、
少年が即座に頷くと
「じゃあボクが食べさせてあげるね~♥ はい、あ~ん♥」
海狸のように料理へ手を伸ばす前に、
フォークに突き刺した料理を差し出され、
少年は思わず間の抜けた声を出してしまった
「何変な顔してるの~? デートなんだから、
これくらいしてもおかしくないでしょう?♥」
「ほら、早く食べちゃおう?♥ あ~ん♥」
笑みを崩すことなく、海狸が料理を差し出し続ける
周りの視線を気にしながらも、少年は勇気を振り絞って
勢いよく料理に食らいついた
「あはは、いい食べっぷりだね~♪ どう? 美味しい?♥」
必死で料理をかみ砕き、咀嚼する少年に味わう余裕があったとは思えないが、
それでも少年は美味しかったことを海狸に伝える
「そっか、良かった♪ ねえ、まだ欲しいなら
もう一回食べさせてあげても・・・♥」
二度目の誘いは丁重に断り、少年は改めて自分の料理に取り掛かった
「いや~、良く食べたね~♪ デザートのパフェ、美味しかったかな?♪」
料理を平らげ、普段は頼めないようなデザートまで頼ませてもらった少年は、
満足そうに頷いた
「それだけ食べて力をつけたら、また午後からも遊べるよね?♪
まだまだ乗りたいものがいっぱいあるんだ~♪」
午後からも確実に振り回されることが確定し、
少年は少し苦笑する
ふと、海狸も真狐のように食事が必要なのかどうか、
気になった少年は何気なく尋ねてみた
「ああ、ボクもね、真狐ちゃんと同じで一応食べ物は必要ないんだけど・・・、
習慣みたいなものかな~、人と同じように過ごして来たら、
いつの間にかこうしてきちんと食事するようになってたんだ~」
「真狐ちゃんは普段家で食事とかしてるの~?♪
・・・あ~、そんな感じなんだ~♪ なら昨日持ってきたお土産は、
いつもより随分たくさん食べたことになるね~♪」
真狐のことで何気なく談笑していた二人だが、
食器を下げに店員がやって来た際、話を中断して海狸が店員に声をかける
「あ、店員さん、食後にって頼んでいたこれを・・・」
食器を下げていた店員は、海狸に丁寧な対応をしつつ、
机の上を片付けて戻っていく
何か食後に飲み物でも頼んだのかと、特に気にすることなく
その様子を眺めていた少年だったが、戻って来た店員が
持ってきたものを見て、目を丸くしてしまう
「わぁ♪ 来た来た♪ カップル限定の特別なジュースだ~♪」
テーブルの真ん中に置かれたのは、やや大きめの器に
ハート形のストローが用意されたジュースだった
どういうことか少年が海狸に尋ねると、
悪戯っぽい笑みを浮かべながら海狸が答える
「折角デートに来たんだから、こういうお約束みたいなことも
やってみないとね~♪」
「えへへ~♥ これ一度やってみたかったんだ~♥」
流石に恥ずかしいのか、少年は狼狽えているが、
海狸は平然とした様子でストローに顔を近づけた
「カップルらしく二人で一緒に飲もうね?♥
さ、史くんもそっちから飲んで♥」
海狸に催促され、少年も渋々ストローを咥えようとするが、
周りの視線がこのテーブルに集まっているような気がして
思わず顔を引っ込めてしまう
「どうしたの?♥ ねぇ、早く飲もうよ?♥」
少年にように周りの視線を気にすることなく、海狸はストローに口を付ける
断ることが出来ないと悟り、少年は諦めた様子で
ストローに口を付けた
「はい、じゃあ二人一緒に飲もうね~♥ せ~のっ♥
ちゅ~~~♥」
海狸の合図と共に、少年もストローからジュースを飲む
「んくっ♥ うんうん♥ 二人で飲むとなんだか美味しい気がするね~♥」
美味しそうに微笑む海狸だが、反対に、
少年の顔は羞恥で真っ赤に染まっている
「よし、じゃあもう一回飲もうか♥ ちゅ~~~♥」
少年は、少しでも早くジュースを飲み干してしまおうと
力一杯吸い込んでみるが、ストローが細いせいか、
否でも応でも時間がかかってしまう
ほんのわずかな時間だったが、少年にとってはかなり長い時間、
羞恥に耐えながらジュースを飲み続けた




