第六話 決意 その2
して二人は、特に何事もなく遊園地に辿り着いていた
「それじゃ史くん、何に乗りたいかな?
ちゃんとフリーパスを買っておいたから、
今日一日、なんでも乗り放題だよ?」
少年は、丁寧なお礼を海狸に言うと、早速辺りを見回し、
面白そうなアトラクションを探し始める
そして目に付いたジェットコースターを指さし、
海狸に乗りたいことを告げた
「あれに乗りたいんだ、ふ~ん、ちょっと意外、かなぁ・・・」
「ああいうのは怖がるかなぁて思ってたよ、
偽物のクモさんを渡したときみたいに」
自分が持っていたイメージとは異なり、
積極的に絶叫マシーンへ乗ろうとする少年に少し驚いたのか、
正直に思っていたことを言う海狸
少年はからかわれたうえに、余り思い出したくない記憶を呼び起こされ、
思わず海狸に抗議をした
「くすっ、嫌なこと、思い出させちゃったね、ごめんごめん」
「いいよ? ならジェットコースターに乗ろうか」
何故か少しだけ笑顔の戻った海狸の顔を見て、
少年も少し嬉しくなり、海狸の手を引っ張って
ジェットコースターへ走り出す
「もうっ、急がなくてもジェットコースターは逃げないよ?
・・・ところでさ、史くん、身長制限は大丈夫かな・・・?」
色々な意味で鋭い海狸の言葉が胸に刺さり、
少年の走りは途端に勢いがなくなってしまった
「う~ん、そう凄い物じゃなかったけど、結構楽しめたね、
次は何に乗りたいかな?」
海狸と、際どかったが無事にジェットコースターへ乗れた少年は、
それなりに楽しむと、早くも次のアトラクションを探していた
少年は、最初は自分の希望通りのアトラクションへ乗ったからと、
次は海狸の希望を受けようとする
何に乗るかは少年に任せるつもりだったのか、
思わぬ質問に海狸は少し戸惑った
「え? え~っと・・・、ボクは別に・・・、
史くんが乗りたい奴でいいんだけど・・・」
あくまでも少年の意志に任せようとする海狸だが、
少年は頑なにそれを拒む
(ああ、そっか・・・、史くん、ボクにも楽しんでもらいたいんだね・・・
やっぱり優しいなぁ・・・)
(そうだ・・・、ボクだって、この想いと決別しなきゃいけないんだ・・・、
そのためにも、今のうちに目一杯楽しんでおかなくちゃ・・・!)
少年の態度からその思いを察した海狸は、少年の意を汲むと同時に、
自分の気持ちも整理するために考えを切り替えた
「よ~し、じゃあお言葉に甘えて、好きな所へ行かせてもらうよ?」
元気よく笑顔でそう言う海狸に、
少年もまた元気よく返事をする
「ふっふ~、覚悟してよ~? ボクと一日中遊びまわるのが
どれだけ大変か、嫌というほど味わわせてあげるからね~?♪」
海狸の笑顔が不敵なものになると同時に、
少年の笑顔が少しひきつった
それからというもの、二人はあちこちのアトラクションを乗り回した
1分1秒でも時間を無駄にしたくないといわんばかりに、
休憩はおろか、ほとんど歩きもしない
「ほらほら~、次はこっち・・・、あ、あっちにも面白そうなものがあるね、
あれは後で行こっか♪」
行く先々で次々と面白そうな乗り物を見つけては、
時間の無駄なくあれこれと乗り続ける
少年は、海狸にあちこち連れ回され続けたが、
それでもちゃんと楽しんではいたのか、常に笑みを浮かべていた
「さ~、次は・・・、あっ、フードコートがあるね、
そういえば・・・、もうお昼かぁ♪」
スマートフォンを出して時間を確認すると、
海狸は足を止めて少年に尋ねる
「史くん、お腹空いてこない? 食べたいもの、
何かリクエストがあるなら聞いてあげるよ?♪」
移動し続けて充分にお腹が空いているのか、
少年はすぐにでも食事をしようと、
海狸が目を止めたフードコートに入ろうとした
「え? そこでいいの? もうちょっと良いレストランも
多分どこかにあると思うけど?」
海狸はそう言って別な場所へ移動しようとするが、
少年はすぐにでも何か食べたいのか、手近な場所に行きたがる
「う~ん、そんなにお腹が空いてるなら・・・」
少年に流され、フードコートへ足を向けそうになった海狸は、
ふと何かに気付き、足を止めてしまう
そしてどうしたのかと尋ねる少年に、気持ちの良い笑顔でこう答えた
「やっぱりここじゃダ~メ♪ せっかく二人きりでデートしてるんだから、
もっと良い所で食べようよ♪」
空腹の少年は、その答えにやや難色を示してはいたが、
海狸の言う分にも聞くべき所はあると思ってたのか、
素直に従うことにする
「真狐ちゃんだったらこういう所でキミに合わせるかもしれないけど~、
ボクはとことん付き合ってもらうからね?♪」
「そこにマップがあるからちょっと見てみようか」
海狸に手を引かれ、少年も一緒に食事処を探し出す
そして、現在地からかなり離れた場所にあるレストランへ、
二人で元気よく駆け出した




