第四話 強敵 後編 その6
5分後、少年の鼻に栓を詰め、ベッドに寝かせた後、
海狸は少年の顔を覗き込んで顔色を伺う
「まあ悪くはないかな、これならすぐに目覚めるでしょう・・・、
さて、私もそろそろ行かなきゃね~」
そのまま少年の耳元へ顔を近づけると、
海狸は静かに囁き始める
「今日はとっても、と~っても楽しかったよ~」
「最後はちょっとドタバタしちゃったけど、
良かったらまた遊んでね~」
「それと、机に仕掛けたスマートフォン、
手紙と一緒に机の上に置いておいといたよ、
あれと真狐ちゃんに渡した奴は自由に使っていいからね♪」
「じゃあ、近いうちにまた遊びに来るから、
楽しみにしてくれると嬉しいな♡」
言うべきことを言った海狸は、少しだけ顔を動かし、
少年の頬に唇を近づける
しかし、それ以上何もすることはなく、
少年から離れると、そのまま開け放していた窓から外へ出てしまった
それとほぼ同時に部屋の扉が開き、真狐扮する少年が部屋に入ってくる
「海狸・・・? 帰ったのか・・・」
「まあ、あ奴のことじゃ、どうせすぐ理由を付けて遊びに来るじゃろう、
ひとまず元に戻るとするか・・・」
真狐はそう言いながらもう一度葉っぱを頭に乗せると、
目を閉じて集中する
そして次の瞬間煙に包まれたかと思うと、
そこには元の姿にもどった真狐が佇んでいた
「ふぅ・・・、なんとか誤魔化せて良かったが・・・、史陽の様子は・・・、
ふむ、きちんと手当はされておるな、これなら直目覚めるじゃろう」
ベッドに寝かされた少年の顔を覗き込み、
安心した様子で真狐が言う
「さて、史陽が目覚めるまで・・・、おや、これは・・・」
真狐が何気なく机の上に目をやると、海狸の置いていった
スマートフォンが目に映る
そして、添えられた手紙を読むと、
なんとも言えない表情になっていった
「まったく、柄にもなく気を遣いおって・・・、詫びのつもりか?」
「ま、そういうことならありがたく使わせて頂くか、
目が覚めたら史陽にも教えてやろう」
「・・・また遊びに来いよ、海狸・・・♪」
海狸が出て行った窓から外を眺めながらそう呟く真狐
その口元には、わずかだが、確かな笑みが浮かんでいた
そしてしばらく後、少年は無事に目が覚めたが、
手に残る感触や、自分の見たとんでもない光景が
脳裏に焼き付いてしまったらしく、
夕食時も、入浴時も、ずっと押し黙ったように俯いたまま、
終始顔が赤くなっていたという
当然就寝時も興奮のためか中々寝付くことが出来ず、
今日もまた、眠れない夜を過ごしていた




