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妖縁奇縁  作者: T&E
36/76

第四話 強敵 後編 その5

「・・・もう大丈夫、ありがとう・・・」


次第に言葉も出なくなり、しばらく嗚咽が続いていたと思っていたら、

不意に海狸が小さく言う


「ちょっと、顔を洗って来るね・・・」


そして、海狸は顔を伏せたまま、そう言いながら部屋を出て行った


残された少年は、何かを言うべきか迷ったていたが、

少年が言葉を発する前に、真狐の方が先に口を開く


「此度のこと、まことにすまなかった・・・、

お主には随分迷惑をかけてしもうたな・・・」


申し訳なさそうにそう言う真狐に、どう声を掛けるべきか悩んでいると、

真狐が続けざまに口を開く


「それと・・・、わしが言うのもなんじゃが、

あまり、あ奴のことを悪く思わんでくれると助かる・・・」


「やり方は間違っても賢いとは言えんが、

あれでもあ奴なりにわしのことを考えてくれとったみたいでな・・・」


少年は、少し迷っていたが、海狸が何故あんな行動を取ったのか、

真狐のためとはどういう意味かを尋ねてみた


「うむ・・・、恐らくじゃが・・・、わしがあの山に封印されていた間も、

あ奴はずっと人の世界に紛れて生き続けていた」


「その間、人の悪い部分を、わしよりもたくさん見て来たのじゃろう」


「だから、お主のことも最初はあまり信用しておらんかったに違いない」


「恐らく・・・、体が目当てでわしのことを側に置いている、

いけ好かない男じゃと思ったのじゃろうな・・・」


それを聞いた少年は、海狸が真狐を自分の魔の手から救うために

自分を真狐を引き離そうとしていたのだと、

それが海狸なりに真狐のことを考えての行動だったと理解する


しかし、少年がそれを真狐に伝えると、意外な返事が返って来た


「ふむ・・・、それは半分正解じゃが、もう半分は間違っておるな」


少年は少し驚きつつも、どこが間違っていたのか真狐に尋ねてみる


「「最初はお主のことを信用していなかった」と言ったであろう?

恐らくじゃがお主と話しているうちに、お主のことを

それなりに信用し始めたんじゃろう」


「多分、きっかけはお主がわしのために怒った時じゃろうな、

あれであ奴も考えを改めたに違いない」


そこまで聞いていた少年は、何故自分が怒っていたことを

真狐が知っているのか疑問に思う


それに関して真狐に尋ねてみると、

真狐は軽く目を逸らしながら、胸元からスマートフォンを取り出した


「あー、その・・・、何というか、つまりじゃな・・・、

お主たちが会話している所を、階下におったわしは

これで見ておったのじゃ・・・」


少年がスマートフォンの画面を見ると、

どういうわけか、画面の中にはスマートフォンを覗き込む

自分の横顔が映っている


思わず横を向く少年だが、軽く見渡した限りでは、

何かあるようには見えない


「ま、まあ、これに関しては後で話すとして、

とりあえず話を戻そうではないか」


真狐はやや焦りながら強引に話を戻したが、

大して気にならなかったのか、少年は改めて真狐の話に耳を傾ける


「こほん・・・、あ奴はお主のことをそれなりに信用出来ると、

そしてわしと良好な関係を築けると思ったのじゃろう・・・」


「そして、だからこそ、わしらの関係を壊さねばならぬと、

より一層強く思ってしまったのじゃ」


それを聞いた少年は、なぜ良い関係になれるのに、

わざわざそれを壊そうとするのか聞き返した


「うむ・・・、普通はそう考えるじゃろうな・・・、

まあお主になら話しても良かろう」


「あ奴は昔、妖怪になって間もないころ、

人の世話を受けていた時期があった」


「人に襲われてひどい怪我を負った時、

たまたま見つけてくれた女性が手当てをしてくれたのじゃよ」


人に襲われた、という部分で少し苦々しい表情になる少年だが、

何も言わず、真狐の言葉を聞き続ける


「それからという物、あ奴はその女性に懐き、

傷が癒えてからも度々顔を見せては世話になっておったのじゃ」


「ずっとずっと・・・、あ奴は女性の元へ足しげく通うておった・・・、

その女性が老衰で息を引き取るまでな・・・」


「女性が息を引き取ってからのあ奴は相当に落ち込んでおった、

心を許した相手との別離がつらいのは、

人も妖怪も同じということじゃ・・・」


「そして・・・未だにそのことを引きずり、

その時の心痛を抱えておったのじゃろう・・・」


「だから・・・、わしとお主の間にいずれ来る別離、

そこでわしが深く傷つかぬよう、傷が浅く済むうちに

わしらを引き離そうとしたんじゃろうな・・・」


その言葉で、少年は海狸が取った行動の真意をようやく理解した


それと同時に、真狐が数百年生きて、

そしておそらくこれからも何百年と生きるであろう

妖怪だということを改めて思い直す


仮に二人で「真実の恋」を見つけたとして、

そこまで深い仲になった後に自分がいなくなってしまえば、

真狐はどれほど悲しむのだろうか


自分の認識が甘かったことを恥じ入っていると、

真狐が突然声を掛けて来た


「これ! お主までそんな顔をするでない」


真狐の声に驚き、少年は思わず体が跳ねてしまったが、

そんな反応を気に留めることもなく、真狐は言葉を続ける


「確かに、わしら妖怪の方が長生きするのは事実じゃが、

だからと言っていつ来るか分からぬ別離に

戦々恐々としているわけにもいくまい」


「それよりも、今楽しむことを精一杯楽しみ、

悲しむべき時が来れば悲しめば良い」


「どんなに恐れたところで「それ」はいつか来る、

そしてどんなに身構えていたところでどうにもならん、

ならば考えるだけ無駄というものよ」


考えるだけ無駄、はっきりと笑顔でそう言ってのける真狐


その明るさと強さに励まされたのか、

少年にも笑顔が戻ってくる


「うむ、良い顔じゃ♪ お主には暗い顔なんぞ似合わんよ」


「さて、すっかり話が逸れてしもうたが・・・、

まあともかく、あ奴もあれで悪い奴ではない」


「ま、ずる賢いくせにやってることは頭が悪いとしか言いようがないが・・・、

それでも、出来ればあまり悪く思わんでおくれ」


海狸に対する印象もすっかり変わってしまったのか、

真狐の要望に、少年は二つ返事で頷く


「そうか、そう言ってくれると助かる、

まあ、わしにとっても唯一の、ゆ、友人・・・、

じゃから、そう邪険にも出来んでな・・・」


気恥ずかしいのか、真狐は頬を赤らめながら

海狸のことを友人だとはっきり口にする


「そ、それとな、これはついでに・・・、

ついでのついで、で良いから、あ奴のことも

たまには気にしてやってくれんか・・・?」


口籠りながら真狐にそう言われ、

具体的に何をすればいいのか分からなかった少年は、

どうすれば良いのか真狐に聞き返す


「あ~、その、な、お主が言った通り、

あ奴が寂しがってるのは事実だと思う・・・」


「あ奴がまた今日みたいに阿呆なことをしないよう、

見張りも兼ねてたまには相手をしてやってくれると助かる・・・、

まあ、そうしてくれればあ奴も喜ぶじゃろう・・・」


「それに・・・、実を言うと、わしはあ奴があんなに声を張り上げ、

怒りを露わにするところを、そして泣き叫ぶ所を初めて見た・・・」


「それ自体はあまり良いことに思えんかもしれんが、

とにかくお主があ奴の感情を吐き出させたのは事実じゃ」


「もしかしたら、お主と接していれば、

あやつの心も多少は晴れるかもしれん」


「初めて会ったとき、わしに分けてくれたような優しさを、

海狸にもほんの少しだけ分けてやってくれると、

その、なんじゃ、う、嬉しいぞ・・・?」


照れくさそうに笑いながらそういう真狐の姿は、

友達として、友達を心配するごく普通の女性のように見える


少年は、これも二つ返事で大きく頷いた


「そ、そうか、そうしてくれるか・・・、

まあ、優しさを分けるもの相手するのも本当に少しでいいからな?

海狸の阿呆にはそうたくさん与えても仕方ないからの」


少年の反応に安心したらしく、

息を撫で下ろしながらそう言う真狐


そんな真狐の背後から、突然声がかけられた


「真狐ちゃ~ん、阿呆はひどいよ~」


後ろからかかったわざとらしい海狸の言葉に、

今度は真狐が大きく驚いて振り向く


「か、海狸・・・!?」


「ボクだってボクなりに考えてやったのに~」


「なにが考えて、じゃこのたわけ、誰がどう見てもやり過ぎじゃ阿呆!」


「あ~、また阿呆って言った~、しかも今度は「このたわけ」も増えてる~、

唯一の友人に対してひど~い」


「・・・待て、お主、一体どこから聞いておった・・・?」


「ん~とね~、此度のこと、まことにすまなかった・・・、

って辺りからかな~♪」


「ぐっ・・・、こやつ、全部聞いておったのか・・・」


「もっちろ~ん♪ 呪いは解けてきたみたいだけど、

まだまだボクの方が耳が良いみたいだね~♪」


笑いながらそう言ってのける海狸、

どうやらすっかり元気を取り戻したようだ


それどころか、少年の目には、最初に出会った時よりも

ずっと素直な笑顔が浮かんでいるように見える


「全く、どうやらちっとも反省しておらんようじゃのう・・・?」


「え~、そんなことないよ~、これでも少しは反省してるも~ん」


「では証拠を見せてみよ、ほれ早く」


「は~い♪ とりゃっ♪」


二人のじゃれ合いを、少年がどこか微笑ましいものを見るような目で

眺めていると、海狸が突然飛び上がる


そのまま軽やかな動きで少年の目の前に、

正座した状態で音もなく着地すると、少年を真っすぐに見据え、

深々と頭を下げて地に擦りつけた


「この度は、大変ご迷惑をおかけしました」


「あなたのことを疑い、独断で二人の仲を引き裂こうとしたこと、

深く反省しております」


「許して欲しいとは言いませんので、

どうかお気の済むようになさって下さい」


「傷つけられようと慰み者にされようと、全て受け入れる覚悟です」


いつになく真面目な態度の海狸と、

真剣な口調から放たれたとんでもない言葉にひどく驚く


慌てた少年は頭を上げるよう海狸に声を掛けるが、

少年からの返答を待っているのか、海狸は何も言わず、

微動だにしない


助けを請おうと真狐の方を見ても、真剣な眼差しで

海狸を見つめるばかりで、少年の方には目もくれない


少年は、とにかく顔を上げてもらおうと、

海狸を許すことを告げ、もう一度声を掛けた


「・・・そのお言葉、一時の感情ではなく、熟考してのものでしょうか?」


海狸の手厳しい言葉に、少年は先ほどの会話をはっと思い出す


真狐との関係を深めることにおいて、

自分の考えが隅々まで及んでいなかったことに


少年は、思慮の浅いまま答えては海狸が納得しないと気付き、

もう一度よく考えることにした


「・・・・・・」


慌てていた少年が口を閉じて真剣な表情になったのを見て、

真狐もまた黙り込んだまま行く末を眺めている


そんな真狐の視線にも気付くことなく、

少年は頭を下げている海狸だけを見つめつつ考えを巡らせていた


まず、海狸のしたことは、一歩間違えれば自分だけでなく、

真狐も傷つけるという結果になっていてもおかしくないことである


しかし、それは海狸なりに二人のことを考えての行動でもあり、

結果としては大事に至らなかった


加えて、真狐にとっては唯一と言える友人であり、

妖怪としての寂しさを真狐よりも強く感じている海狸のことを、

邪険に扱うこともやはり出来ない


考えをまとめると、少年は重い口を開き

静かな声で海狸を許すことを告げ、顔を上げるようお願いする


「・・・・・・ありがとう・・・♪」


その言葉と同時に顔を上げた海狸の顔には、

先ほどまで真剣な顔ではなく、既に満面の笑みを浮かべていた


「・・・ま、いろいろ言いたいことはあるが、

これで手打ちにしてやるかの」


あまり納得していないような口ぶりでそう言う真狐だが、

少年に対し、褒めたたえるかのような笑顔を浮かべている


「ふふふ・・・、じゃあ~、折角許してもらえたことだし、

ついでにお願いしてもいいかな~?」


「・・・ボクと~、お友達になってくれる~?

もちろん、それよりもうちょっと深い仲でもいいよ~?♪」


付け加えられた言葉に、真狐の表情がやや強張ったが、

少年は二つ返事で友達になることを了承した


「わぁ~♪ 友達になってくれるんだね~♪ 嬉しいな~♪

あ、深い仲になるのはこれから少しずつなっていこうね♡」


「・・・多少は目をつぶってやらんでもないが、

やり過ぎれば承知せんからな・・・?」


屈託のない笑顔で喜びを表す海狸に対し、

表情をこわばらせたまま釘をさす真狐


何となく、二人の間に漂う空気がもとに戻ってきたことを感じたらしく、

少年の顔は自然と笑顔になっていた


「あ、そうそう、友達になってくれたお礼と、

さっきのお詫びも兼ねて~・・・」


「はい、このジュース、あげるね~♪」


海狸が手を後ろに持って行ったかと思うと、

どこから取り出したのか、2本のジュースが差し出された


それも炭酸飲料と果物のジュース、

昼間少年が買っていたものと同じ種類だが、

サイズは大きくなっている


「えっと、キミの分はこっちで、真狐ちゃんはこっちだったよね?

はい、ど~ぞ♪」


海狸から手渡されたジュースをなんとも言えない表情で受け取る真狐と、

素直に受け取る少年


「・・・・・・本物か・・・?」


疑わし気な目で手渡されたジュースを眺める真狐だが、

少年は、手渡されたジュースと海狸の顔を少し眺めた後、

徐にジュースの蓋を開ける


すると、炭酸飲料を開けた時の独特の音が小さく鳴った


試しに少年が口を付けてみると、

まごうことなきジュースが中に入っている


「飲めるということは本物じゃよ、

さすがにどれだけ術に長けようとそこまで本物通りには出来んでな」


「本物だというなら遠慮なく頂こうか・・・、

いや、まさかわしの方は偽物というわけではあるまいな・・・?」


疑わし気な様子で蓋を開けて口を付けてみる真狐だが、

ちゃんと本物だったらしく、嬉しそうな笑みを浮かべた


「うむ、やはり美味じゃのう、かように良いものが簡単に手に入るのじゃから、

いい世の中になったものじゃ♪」


「真狐ちゃんはジュース1本で大げさだね~、

でもそんなもので喜んでもらえるなら、

今度またおいしいお菓子でも持ってくるよ~♪」


「それはありがたい、ありがたいが・・・、

甘い物だけにしておくれよ?」


「相変わらず甘党なんだね~、辛くて美味しいお菓子や料理も

一杯作られてるんだよ~?」


「何度言われようとお主の勧める辛い物は口にせんぞ?」


「ちぇ~、何百年経っても変わらないね~」


二人の会話を聞いていた少年は、

真狐は辛い物を苦手としているのか、という

素朴な疑問がわいてきたので、二人に尋ねてみる


すると真狐はハッとした表情で口元を押え、

海狸はごく自然な表情で少年に返答した


「うん、そだよ~? 真狐ちゃん、昔から甘いもの好きで、

辛い物あんまり食べなかったもん」


海狸にそう言われ、少年は以前昼食に食べたカレーライスを分けた時、

ひきつった笑顔で美味しいと言っていたことを思い出す


同時に、苦手なものを食べさせてしまったことを、

真狐に謝った


「い、いや、お主が謝ることではない、気にするな・・・」


少年の謝罪を受け、真狐はどこか恥ずかしそうな顔で返答する


「あれ~、真狐ちゃん、辛い物得意じゃないって言ってないの~?」


「・・・まあ、そうじゃ」


「ふ~ん? 真狐ちゃん、意外と見栄っ張りなんだね~♪」


「う、うるさい・・・」


すっかり元通り仲良くなった二人のやり取りを見て、

少年も次第に楽しそうに笑っていた


「ほら、史くんも笑ってるよ~♪」


「わしを笑っとるわけではなかろうが、

・・・それにそもそもなんじゃ? その呼び方は」


「あだ名だよ~?♪ 折角友達になったんだから、

あだ名で呼ばないとね~♪」


「むぅ、あだ名か・・・、わしも何かそういう呼び方をした方が・・・、

いや、仮にも夫婦となるならやはり名前で呼ぶべきでは・・・」


海狸に対抗するつもりか、真狐も特別な呼び名を使ってみようと、

あれこれ呟きながら考え込んでいる


そんな真狐をよそに、海狸が少年の側へ寄って来た


「ふふ、さっきはボクのこと信じてくれてありがとね~♪」


突然お礼を言い出した海狸に、少年は大したことはしていないと、

慌てて気にしないよう告げる


「そんなことないよ~?♪ ボクすっごく嬉しかったもん♪」


「それにしても、友達か~・・・、ねえ、ちょっと試しに

ボクの頭を撫でてみてくれない?」


言うが早いか、少年の答えを待たず、

海狸は少年に頭を差し出してきた


少年は、妙なことを頼まれたと思いつつも、

言われるがままに海狸の頭を撫でてみる


「・・・えへへ~♪ この優しい手つき、なんだか懐かしい感じがする~♪」


頭を撫でられ、だらしない笑みを浮かべながら喜ぶ海狸


自分より背の高い女性の頭を撫でているという奇妙な状態に、

どこか気恥ずかしさを覚えながらも、少年は海狸が満足するまで

頭を撫で続けた


「・・・うん、もういいよ~♪ ありがと~♪」


大した時間ではなかったが、海狸は充分に満たされたような笑顔で

少年にお礼を言う


「今のでよ~く分かったよ~、キミはやっぱり、

ボクの見て来た人たちとはちょっと違うんだね」


頭を撫でていただけで、今まで出会ってきた人とは少し違うと言われても、

何がどう違うのかさっぱり分からない少年


海狸に尋ねても、満面の笑みを浮かべるだけで、

何も答えてはくれなかった


「そうそう、頭を撫でてくれたお礼に、

いいこと教えてあげるね~♪」


「真狐ちゃん、お菓子の中では金平糖が大好きだから、

買ってあげるとすっごく喜んでくれるよ~♪

小さくて、可愛らしくて、美味しいのが気に入ってるんだって~♪」


質問の答えではなかったが、真狐に関する情報を教えられ、

少年は嬉しそうに相槌を打つ


そして、何気なく真狐にも金平糖が好物なのか尋ねてみると、

気恥ずかしそうに頬を紅らめながらこう答えた


「ああ・・・、まあ、の・・・、なんというか・・・、

昔は色とりどりの甘いお菓子なんぞ珍しかったから・・・」


「結構乙女チックな所あるよね~真狐ちゃん♪」


「うっ・・・、うるさい・・・」


海狸にからかわれ、顔を紅潮させながら思い切り逸らす真狐


先日、真狐と共に外出した時のことを思い出した少年は、

どことなく思い当たる節があるのか、

思わず口元を抑えて静かに笑ってしまった


「あっ! やっぱりキミもそう思うよね!?

真狐ちゃん意外と乙女だって♪」


少年が笑っていることに気が付いたのか、

同意を求めるように海狸が話しかけてくる


二つ返事で頷いた少年は、

そのまま海狸と共に仲良く笑いだしてしまった


「うう・・・、わしを除け者にして会話に花を咲かすとは、

二人とも仲が良いの~・・・」


そんなことをしていると、すねてしまったのか、

目が据わった状態の真狐が二人のことを眺めながらぽつりと呟く


少年が軽く謝罪をするため、真狐に声を掛けようと口を開いたが、

海狸が手を取ってそれを制止する


「まあまあ、真狐ちゃんこうなるとちょっと長いの♪」


「元に戻すにはちょっとコツがいるんだ~、

教えてあげようか?♪」


機嫌を損ねてしまったときの対処法になると考え、

少年はすぐさま海狸に方法を尋ねた


「簡単だよ~、いわゆるショック療法ってやつかな、

驚かせちゃえばいいんだよ~♪

とにかくこっちのペースに乗せちゃえば自然と戻ってくるからね~♪」


「ほ~? わしを驚かせようというのか~・・・、

今更お主の悪戯に引っかかるとでも思うとるのか?

面白い、やってみるがよい」


海狸の言葉を本気にしていないのか、

表情を変えることなくそう言い放つ真狐


それを聞いた瞬間、海狸の顔に悪戯っぽい笑みが浮かび上がる


「いいよ~?♪ もちろん最初からそのつもりだもんね~♪」


「じゃあ史く~ん? ちょっと手の力を抜いてくれるかな~?」


何をするのか気になり、少年は何も考えることなく、

言われるがまま海狸が持っている方の手から力を抜く


「は~い、ありがと~、それじゃあ、これをどうするかと言うと~・・・」


海狸は少年の手を持ち直すと、両手でしっかりと固定する


「こうしちゃいま~す♡ え~いっ♡」


挿絵(By みてみん)


小さな掛け声と共に、海狸は掴んだ少年の手を、

そのまま勢いよく自分の胸に押し付けてしまった


「うふふ・・・、ど~お?♡ 真狐ちゃんも驚かせて、

キミも驚かせることが出来るいい方法でしょ~?♡」


「なっ! か、海狸! 何をしておる!?」


「もちろん、真狐ちゃんを驚かせつつ、

史くんに今日のことをお詫びしてるんだよ~?♡」


「やり過ぎじゃ! ともかくすぐ手を離さんか!」


「いいじゃない~、減るものじゃないんだから~♡

それより史く~ん、どう、驚いた~?♡」


微笑みながらそう尋ねる海狸だが、

少年は、海狸の行動に衝撃を受けているのか、

口を開けたまま微動だにしない


「あれ~? 驚きすぎて何がどうなってるのか分からないのかな~?♡」


「じゃあ教えてあげる~♡ キミは今、ボクのおっきなおっぱいを

思いっきり鷲掴みにしてるんだよ~♡」


「ボクのおっぱい、嫌いじゃないって言ってたよね~?♡

実際に触ってみた感想はどうかな~?♡」


「柔らかい~?♡ 大きい~?♡ それとも暖かい~?♡

ほら~、何か言ってごらんよ~♡」


少し恥ずかしそうに微笑みつつ、

感想を述べるよう急かし続ける海狸だが、

少年の頭の中はほとんど真っ白になっていた


目の前にいる海狸が顔を赤らめながら、

自分の手を胸に押し付けている


その事実を頭の中で認識するだけで、

少年の興奮は急激に膨れ上がっていく


加えて、手のひらに伝わる感触・温もり、

そして自分の手が海狸の胸に沈み込んでいるという光景


その全てが少年を高ぶらせて止まないものばかりであり、

少年の頭から思考力も、何もかもを奪ってしまう


「も~、何も言ってくれないの~?♡

ボクはなんだかドキドキしてきたっていうのに~♡」


「こ、これ! 海狸・・・! 早く手を・・・」


「それともまだ分からないのかな~?♡

じゃあ分かるようにもっと押し付けちゃお~っと♡」


慌てふためく真狐を余所に、何の反応も示さない少年を焚き付けるように、

海狸は体をくねらせつつ、何度も少年の手を自身の胸に押し付ける


「んっ・・・♡ ほらぁ・・・♡ 気持ちいい・・・?♡

言ってごらんよ~・・・♡


「どんな気持ちかぁ・・・、お姉さんにぃ・・・、お・し・え・て♡」


妖艶な声で少年に語り掛ける海狸


目の前で起こっている信じられない出来ごとに、

少年の頭はもはや限界だった


先ほどまで散々海狸に誘惑されてきた時に抑え続けていた感情が、

一旦は落ち着いたにも拘わらず、海狸の行動によって

その全てが一気に溢れ出てしまう


興奮を抑えることも出来ず、少年は顔を真っ赤にしたかと思うと、

そのまま一気に鼻血を噴出して倒れ込んでしまった


「「あ・・・」」


呆気に取られた真狐と海狸が同時に声を出したが、

事態を予測していた真狐が先に動き、

少年の元へ素早く寄る


「史陽! 大丈夫か!?」


真狐が少年の体を起こしつつ声を掛けてみるが、

少年はだらしのない笑顔を浮かべた状態で

鼻血を流したまま微動だにしない


「完全に気を失っておるな・・・、とりあえず止血しておかんと・・・」


「あ・・・、あ~・・・、ご、ごめんね~・・・、

なんというか、減っちゃったね・・・」


遅れて事態を飲み込んだ海狸が側に寄り、少年に話しかける


「じゃから言うたであろうが、早く手を離せと」


咎めるような目で真狐に睨みつけられ、

海狸は申し訳なさそうに首をすくめながら手を合わせた


「う~、ほ、ほんとにごめ~ん・・・、

ここまで慣れてないとは思わなかったの・・・」


「全く・・・、お主の胸が文字通り凶器になってしもうたのう・・・、

ともかくベッドにでも寝かせておいて・・・」


真狐は出来る限り冷静に少年を休ませる算段を考えていたが、

丁度その時、階下から声が聞こえてきたことで、

二人の動きが一瞬止まる


「えっ? 今の声だ~れ?」


「もうご両親が帰ってくる時間じゃったか!?

ま、まずい、史陽はいつも必ず玄関まで迎えに行くのじゃ!」


「えっ!? でもこの状態じゃ・・・、どうしよう」


「すぐには目覚めそうもない、何かいい方法は・・・」


倒れたままの少年を見ながら考え込む二人だが、

すぐに妙案が浮かんだのか、海狸の顔が明るく輝いた


「そっ、そうだ、今の真狐ちゃんなら史くんに変化出来ない?」


「そうか、その手があったか! よし、変化!」


海狸の提案に乗った真狐が、

懐から取り出した葉っぱを頭に乗せて目をつぶると、

奇妙な音と共に煙に包まれる


そして煙が晴れるとそこに真狐の姿はなく、

いつもと同じ格好の少年が立っていた


「いいよ真狐ちゃん、上手く化けられてる♪」


「ではわしがご両親の相手をしておくから、

お主は史陽を休ませておいてくれ」


「分かった、任せて!」


海狸が返事をすると同時に、真狐が部屋を飛び出し、

玄関に立つ両親の元へ急ぐ


「これで大丈夫かな・・・、とりあえず史くんの血を止めて、

ベッドに寝かせておかなきゃね~」


部屋に残った海狸はそう呟きながらゆっくりと立ち上がった

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