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妖縁奇縁  作者: T&E
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第四話 強敵 後編 その4

「ところでさ・・・、もう一回尋ねるんだけど~、

キミ、女の人の「体」に興味がないわけじゃないんだよね~?」


唐突な海狸の質問に虚を突かれ、少年は慌てふためく


そんな少年に対し、海狸は畳みかけるように言葉を続けた


「ああ、この質問は真狐ちゃん関係ないよ~?

ただ純粋に、キミがどう思っているのか知りたいだけ~♪」


「ほらほら~、正直に言っちゃいなさい♪

お姉さん、別に怒ったりなんかしないよ~?♪」


再び少年の体を突きながら、海狸が答えを催促する


少年は、顔を真っ赤にしながらゆっくりと頷いた


「ふふ、やっぱりそうだよね~、男なんだから、

そのくらい興味を持っていて当然だよ~♪」


「じゃあさ~、おっぱいの大きい女性は好きかな~?♡

もしそうなら、どのくらいの大きさがい~い?♡」


「例えば、ボクや真狐ちゃんなんかは、

ちょっと大きすぎかなって思うけど、キミはどう思う・・・?♡」


少年の隙を逃さず、海狸はより迫った質問を立て続けに行う


顔を真っ赤にしながらも、沈黙していては失礼だと思ったのか、

少年は海狸の言葉を否定しつつ、無難な言葉で肯定した


「そっかそっか~、大きさは特に気にしないんだ~♡

それなら・・・さ♡」


突然海狸が妖しく微笑み、艶っぽい視線を少年に向ける


「今度こそ本当に、ボクのおっぱい触ってみる・・・?♡」


そして両腕で胸を抱え込み、軽く持ち上げながら少年に問いかけた


突然の言葉に、呆気に取られた少年は何と言ったのか海狸に聞き返す


「も~♡ もう一回言って欲しいの~?♡

仕方ないな~♡」


「キミの顔よりもおっきなボクのおっぱい、

好きなだけ触らせてあげようか? って言ったんだよ~♡」


海狸は持ち上げた胸を軽く揺さぶりながら、

少年を誘惑するようにはっきりとそう言った


自分の聞き間違いではなかったことを理解し、

少年は思わず目の前で揺れる海狸の胸に視線を移してしまう


巨大だが、同時に柔らかそうな胸が、目の前で軽く揺れている


一瞬我を忘れそうになったが、少年は正気を取り戻し、

顔を真っ赤にしながら慌てて海狸の提案を拒否した


「え~、触らなくてもいいの~?♡ 本当に~?♡」


だが、少年の反応は予想の範囲内だったのか、

不敵な笑みを浮かべながら海狸が言葉を続ける


「こんなに大きなお姉さんがこんなに大きなおっぱいを触らせてくれるなんて、

これから先にもこんなチャンス、そうそうないと思うよ~?♡」


「それに胸を触るなんて、全然大したことじゃないんだよ~?

ちょっとしたオトナの体験ってことで味わってみない~?♡」


「もちろん真狐ちゃんにも、誰にも言ったりしないよ~?♡

お望みとあらば、何度でもさせてあげる~♡」


「真狐ちゃんのことをよく考えている素敵なキミへのご褒美だと思って、

素直に受け取って欲しいな~♡」


自身の胸を強調し続けながら、海狸は言葉巧みに少年を誘う


しかし、少年は顔を真っ赤にしつつも、目を逸らして海狸の誘いを拒み続けた


(随分しぶといね・・・、でもここで魅了の術を使ったんじゃ、

真狐ちゃんは納得しない・・・!)


少年を中々堕とせないことに歯噛みしながらも、

海狸はあの手この手で少年を誘惑し続ける


「も~、そんなこと言っても、本当は触ってみたいんでしょ~?♡」


「それにキミは女の体に不慣れなんでしょ~?♡

だったら、慣れる練習にもなっていいと思うな~♡」


「欲求も満たせるし、女の人にも慣れることが出来るんだから、

一石二鳥じゃない~?♡」


「・・・それとも、やっぱりボクのことが嫌い・・・?」


突然声が静かな声で突拍子もないことを尋ねる海狸


驚いた少年が海狸へ視線を戻すと、目に涙を浮かべた海狸が視界に写る


「真狐ちゃんみたいに背が高くないし、美人じゃないし、

可愛らしい所もないボクなんかじゃダメなの・・・?」


言葉を続ける度に涙ぐんでいく海狸に慌てた少年は、

焦りながら海狸の言葉を否定した


「ほんと・・・? じゃあ、ボクのこと、好き・・・?♡」


少年が慰めた瞬間、海狸の言葉は一気に飛躍する


どう答えるべきか迷う少年を見て、

海狸が意を汲むように言葉を続けた


「やっぱり、真狐ちゃんよりは好きじゃないんだね・・・、

でも、ボクの方がいいって所はある・・・?」


「キミから見て、ボクはどう見えるのかな・・・?♡

素直な言葉で教えて欲しいな・・・♡」


(さあ・・・、優しい優しいキミはボクのことを

良く言うしかないよね・・・?)


(適当な所で嬉しそうに抱き着いちゃおうか・・・、

キミから触ろうとしないなら、ボクから触らせてあげるよ・・・♡)


海狸の目論見通り、少年は戸惑いつつも馬鹿正直に答え始めた


曰く、真狐より良く笑う、愛嬌がある、などと、

身体的な特徴には触れず、出来る限り無難な言葉を選び続ける


(くすくす、そろそろいいかな・・・、後は抱き着いて押し付けちゃえば

我慢出来なくなって自分から触りに来るだろうね・・・♪)


(精々獣のようにボクの体を貪るといいよ・・・♡

好きなだけ、ね・・・♡)


少年の言葉を聞き流しつつ、海狸は少年へ飛びつく準備をする


しかし、最後の言葉を聞いた瞬間、海狸の表情が大きく変わった


「え・・・? 今、なんて言ったの・・・?」


海狸の様子が変わったことにも気付かず、

少年は同じ言葉を繰り返す


「寂しそう・・・? 放っておけない・・・? それ、どういう意味・・・?」


少年に言葉の意味を尋ねる海狸の表情が、

段々と驚きや動揺が混じったものに変わっていく


流石の少年も海狸の変化に気付き始めたが、

それでも自分の持った印象を海狸に話し続けた


繰り返し悪戯をする海狸が、自身の目には相手の気を引きたい

子どものように写ったことを海狸に伝える


その言葉を突き付けられた瞬間、海狸の様相が大きく変化した


「何それ・・・、ボクが悪戯をしていたのは

ただ単に寂しいからだって言いたいの・・・!?」


「随分とまあ舐められたものだね?

人間のくせに生意気な口を聞くじゃない?」


「文字通り昨日今日出会ったばかりのキミが、

ボクの何を知ってるっていうのさ!?」


海狸は語気を荒げ、少年を睨み付けながら

吐き捨てるように言う


怒らせてしまったかと思い、謝罪しようとした少年だが、

海狸の顔を見た瞬間、口を開きかけた状態で停止する


「そんっ・・・なの・・・、そん・・・な・・・こと・・・、

ある・・・わけがっ・・・!」


海狸の目には大粒の涙が溢れ、目の端から零れ続けていた


「うっ・・・、ぐすっ・・・、何よこれ・・・、止まらな・・・」


自分の目に浮かぶものが信じられないのか、

必死になって手の甲で拭い続けるが、

拭えば拭うほど新たに浮かび上がってくる


「ううっ・・・、そうよ・・・、そうよっ!

寂しいに決まってるじゃない!」


流れる涙と共に堪えきれなくなっていた感情があふれ出してしまったのか、

海狸の本音が堰を切ったように次々と出てくる


「お世話になった人も、仲良くなった人も、

あんまり会いたくないろくでもない奴らだって、

みんなみんないなくなっちゃうのよ!」


「理由はいろいろあるけど、結局の所

ボクが「妖怪」で、相手が「人間」だから!」


「キミと真狐ちゃんだって同じだよ!?

「妖怪」と「人間」、仲良くなろうとなるまいと、

結局は離れ離れになっちゃうの!」


「仲良くなればなるほど、離れてしまえば悲しいこと、

キミだって分からないはずないよね?!?」


「だったら・・・、いずれ離れるなら、

仲良くならない方がいいと思わない!?

友達に悲しい思いをして欲しくないって考えることが、

そんなにおかしい・・・」


「もう良い、海狸」


突然部屋の入り口からかかった声に、

少年と海狸は同時に驚いて声のする方へ視線を向けた


「お主にしては随分こだわると思ったら、

そういうことじゃったのか・・・」


「ま、真狐ちゃん・・・、どうやって・・・」


「苦労はしたが、捕らえられていた間に呪いがまた解けたことで

お主の術を打ち破ることが出来た」


「全く、こんなものまで用意しておったとは、

相変わらず周到なやつじゃ」


よく見ると、真狐の足元には千切れた植物の蔓が絡まっている


どうやら拘束が解けたと同時に、一も二もなく二人の元へ向かったようだ


「真狐ちゃん・・・ボク・・・」


「皆まで言うな海狸・・・」


むせび泣きながら言葉を紡ごうとする海狸を、

静かな声で真狐が制止する


「言いたいことは色々あるが、史陽のこと・・・、

お主なりに、わしのためを思ってやってくれたことじゃからな・・・」


「一応実害はなかったからわしの方は不問に付す、が・・・、

史陽、お主はどうする?」


真狐が登場してからここまで蚊帳の外だった少年は、

突然話を振られて驚いた


そして、状況を完全に把握しきれていないのか、

何がどうなっているのか真狐に尋ねる


「簡単に言えば、こやつは嘘を付き、お主を誘惑することで

わしとお主の仲を引き裂こうとした」


「それも一応はわしのためということなのじゃが、わしはともかく、

お主は完全なとばっちりを受けたということになる


「それを踏まえたうえで、こやつをどうしたいか考えておくれ・・・」


真剣な眼差しでそう言われ、少年はひとまず頭を動かす


しかし、特に自分が意見を言うべき立場だとは思っていないのか、

二つ返事で真狐の意見に同調した


「だ、そうじゃ・・・、史陽が優しい男で良かったのう」


「真狐ちゃ・・・、ボク・・・、ボク・・・」


「今は喋らんで良い、まずはその溜まりに溜まった重荷を

目一杯吐き出すのじゃ」


優しい顔を向けながら軽く両腕を開く真狐


海狸はすぐさま真狐の胸に飛び込み、

くぐもった声で激しく泣き始めた


「うわあああああん!! 真狐ちゃん!!」


それからしばらくの間、海狸は真狐に抱かれながら

様々な感情を吐露し続けた


二人への謝罪、人と関わった思い出、人との別離による悲しみ、

人の世が移り行くにつれ変わっていく人々への不信感


良い物も悪い物も、ないまぜになって次々と溢れていく


真狐たちは、海狸が静かになるのをただ黙って待ち続けた

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