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妖縁奇縁  作者: T&E
33/76

第四話 強敵 後編 その2

「じゃあね~、改めて聞くけど、お話してもいいかな~?♪」


海狸は少年の目を真っすぐ見ながら、

甘ったるい声で少年にそう尋ねる


少年は海狸の言葉を了承しつつ、

真狐と何を話していたのか、真狐はどうしたのかを海狸に尋ねた


「あっ・・・、真狐ちゃん・・・、うん、

ボクが話したいのも真狐ちゃんのことなんだ・・・」


突然目線を下げながら、

先ほどまでとは異なる重苦しい雰囲気を醸し出す海狸


何かあったのかと、少年は海狸に声を掛けた


「・・・実はね・・・、真狐ちゃんと喧嘩しちゃったの・・・」


海狸の言葉に、少年は驚いて小さく声を出す


「真狐ちゃん怒って口も聞いてくれなくなっちゃった・・・、

どうしたらいいと思う・・・?」


瞳を潤ませ、海狸は真剣な眼差しで少年に問いかける


(あいつめ・・・、よくもまあすらすらと

口から出まかせが出るもんじゃ・・・)


(おまけに喧嘩という部分も完全な嘘というわけではないのが、

全く何とも言えんのう・・・)


画面を見つつ、会話を聞いていた真狐は、

手八丁口八丁な海狸の手際が全く衰えていないことに舌を巻いた


一方、完全に騙されている少年は、

何があったのか尋ねる前に、きっと仲直り出来ると

海狸を励まし出す


「でも、全然口を聞いてくれないの・・・!

仲直りしようにも、話を聞いてくれないんじゃどうしようもないよ・・・!」


切羽詰まったような海狸の態度にやや怯んだが、

少年は海狸をなだめつつ、自分が間に入り

仲直りの手伝いをすると申し出る


「ほんと? ボクのために動いてくれるの・・・?

あんなにいっぱい悪戯しちゃったのに・・・?」


一転してしおらしい態度を取る海狸に、

先刻の悪戯についてはもう気にしていないことを伝えつつ、

自分が二人を仲直りさせてみせると請け負った


「本当に~?♪ 嬉しい~♪ 期待してるね~♪」


途端に海狸は笑顔を浮かべ、少年の手を両手で優しく包み込む


「史陽君って、思ってたよりもずっと頼りになるんだね~♪

それに、悪戯したボクにここまで優しくしてくれるなんて・・・、

キミのこと、すっごく気に入っちゃった~♪」


(海狸の奴・・・! あんなに堂々と手を取りおって・・・!

ああ・・・、これ史陽、そんなに顔を緩ませるでない!)


海狸に手を取られ、思わず頬を染める少年に対し、

画面を通して見ている真狐は見悶えしている


そんな真狐の祈りが通じたとは思えないが、

自分が仲直りの手助けをしなければいけないと思い出した少年は、

慌てて海狸の手をほどくと、立ち上がり、

真狐がいるはずの階下へ行こうと提案する


しかし海狸は、少しだけ顔を曇らせながら、

少年の提案を受け入れずに否定した


「あっ・・・、ちょっと、すぐには行かない方がいいと思う・・・」


「真狐ちゃん、怒ったらなかなか機嫌直してくれないし、

ボクもまだ顔を合わせづらいから・・・、ごめんね・・・」


真狐が真剣に怒りを露わにしたところを見たことのない少年は、

海狸の悲し気な表情にほだされたこともあり、

忠告通り時間を置くことにする


「ありがとう♪ じゃあ・・・、時間を潰す間、

折角だからキミのこと、色々と聞かせて欲しいな♪」


「いいでしょ?♪ キミのことをもっと良く知りたいの・・・♪」


甘えた声でそう言われた少年は、再びベッドに腰を下ろし、

海狸の要望通り、自分のことを話し始めた


真狐に話したようなとりとめのないことを、

同じように海狸へ伝える


しかし、単純に少年のことが知りたかった真狐とは違い、

海狸は少年の言葉に逐一反応し、お世辞を言ったり褒めたたえたりと、

徹底的にご機嫌を取り続けた


その間も、何度か自然な形で体に触れてみたり、

少しずつ距離を縮めることも忘れない


いつの間にか、少年と海狸はほとんど体が触れ合うような距離で、

自然と隣り合って座っていた


(ぐっ・・・、わしは普段寝ている時しかくっつけないというのに、

ああも容易く・・・!)


(いや、今はそんなことを考えている場合ではない、

近づいたということは、いよいよ本格的に・・・!)


真狐は自然と少年に近づいていく海狸の手腕に歯噛みしつつも、

海狸が本気で誘惑を仕掛ける瞬間が近づいてきたことに気を引き締める


(・・・史陽・・・!)


少年の名前を心の中で呼びながら、

真狐は祈るように画面を見守り続けた






「ふふ♪ キミの話、と~っても面白かったよ♪

お陰でボクもすっかり元気が出て来ちゃった♪ ありがと♪」


少年との会話を一通り済ませ、海狸が少年にお礼を言う


すっかり明るい表情を取り戻した海狸を見て安心した少年は、

改めて真狐の所へ行くことを提案した


「え? あ、えっと、まだ顔を見づらいから、

もうちょっと待ってくれないかなぁ?」


(この期に及んでまだ目の前のボクに意識を集中しないとは・・・、

意外と尻尾を出さないね・・・)


順調に行くと思っていたはずが、少しずつ思うように行かなくなり始め、

海狸は歯噛みをしつつ少年を引き留める


少年は、なかなか真狐の所へ行こうとしない海狸を少し訝しみつつも、

再び座り直して、何を話すべきか考え出した


(ほれ見ろ、史陽はやはりわしのことを常に考えてくれておる)


(これ以上続けても同じことじゃぞ、海狸)


一方で、この様子を眺めていた真狐は、少年が隣にいる海狸のことより

離れた場所にいる自分のことを気遣ってくれていることを密かに喜ぶ


(真狐ちゃんがこれ見てるなら、

多分今ボクのこと馬鹿にしてるんだろうなー)


(よし、じゃあ少しだけ本格的に仕掛けようかな?)


海狸は隠してあるスマートフォンを一瞥すると、

恐らく見ているであろう真狐に対して不敵な笑みを浮かべる


そして、わざと少年を視界から外し、窓の方を見つめると、

突然服の胸元を指で引っ張るり手で扇いで風を送り始めた


「ふぅ・・・♡ それにしても今日は本当に日差しが強いね・・・♡

これじゃ、どんなに薄着をしていても汗かいちゃうよ・・・♡」


その行動に不意を突かれた少年は、海狸から目を逸らすのが遅れてしまう


緩んだ胸元から谷間が目に入った瞬間、顔を真っ赤にしてしまい、

一拍遅れて、慌てふためきながら目を逸らして返事をした


(むっ・・・、わざわざ隙を作ってあげたのに

すぐ目を逸らしちゃうなんて・・・)


(おまけに視界の端で捕らえたりする様子もない・・・、

大抵の輩は堂々と覗き見るし、そうでない輩も最終的には

見てくるっていうのに・・・


(ボクが「これ」をやって全く視線を感じないなんてことがあったかな・・・)


少年の予想外の行動に、海狸は少しずつ戸惑い始める


(なら、もう少しストレートに行っちゃおうか)


しかしすぐに気持ちを切り替えると、胸元を閉じて次の行動に移った


「ねえ、ボク、キミに聞きたいことがあるんだ~♪」


海狸の唐突な言葉に、少年はやや驚きつつ、恐々と視線を戻す


そして、海狸が胸元に風を送っていないことを確認すると、

胸を撫で下ろしながら、何を聞きたいのか海狸に尋ねた


「えっとね~、ボクが聞きたいのは、真狐ちゃんのこと!」


「真狐ちゃんとキミは、今恋人同士なんだよね~?」


「そんなキミは真狐ちゃんのこと、どう思う~?」


(なっ! 海狸の奴、突然何を聞いておる!)


思いがけない海狸の言葉に、会話を聞いていた真狐は驚き、

声を上げそうになってしまう


少年は、質問の意図を把握しきれなかったのか、

海狸が何を具体的に何を聞きたいのか尋ねる


「う~んとね~、例えば~、キミから見て綺麗だな~、とか、

魅力的だな~、とか、そういうことを感じたりする?」


要望通り、具体的な質問をする海狸だが、

少年はその内容に戸惑い、照れを見せてしまう


「ほらほら~、ボク以外誰も聞いていないんだから早く言っちゃいなよ~♪」


そんな少年の体を突きながら、海狸は返答を催促する


その様子を見ていた真狐は、心の中で叫び声をあげていた


(何が誰も聞いていないじゃ! わしが思いっきり聞いておるじゃろうが!)


(こ、これでもし史陽に微妙な答えを出されたらわしはどうすれば・・・、

い、いや、そんな弱気になってどうする!)


嫌な想像が頭を巡ってしまい、頭を抱えてうなる真狐だが、

画面から少年の声が聞こえて来たので、慌てて耳をそばだてる


少年は、照れながらもはっきりと真狐のことを、

美しく、優しく、そしてどこか子供っぽい可愛らしさもある女性であり、

自分の好きな相手であることを海狸に告げていた


その答えを聞いた瞬間、真狐は思わず声を上げ、

同時に慌てて自らの口を塞ぐ


「おおおぉ、むぐっ!」


(あ、危ない危ない、つい叫んでしまう所じゃった)


画面を見て二人の様子を伺うが、真狐の声に気付いた気配はない


(聞こえんかったのか・・・? なら良かったが、ともかく安心した・・・)


(しかし、なんだかんだと言っても、

わしも心のどこかでは不安を感じていたのか・・・)


(わしのわがままで押しかけてしまったようなものじゃから、

もしかしたら嫌われてはいないかと心配になっとったんじゃのう・・・)


自分でも気付いていなかった不安が消えたことに、

真狐は胸を撫で下ろしながら喜んでいる


一方画面の中では、少年の答えを聞いた海狸が、

妖しげな視線を少年に向けていた

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