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妖縁奇縁  作者: T&E
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第三話 逢引 その6

「全くもう、不覚じゃったわい・・・、あんな場所であんなに眠るとは・・・」


未だ膨れ面の収まりきっていない真狐に適当な返事をしつつ、

少年は自宅を目指して歩き出す


涼しい時間帯になってきたからか、人の往来が増え、

道路を走る車も増えている


少年は、はぐれないよう真狐に小さく声をかけながら、

真狐を歩道側に歩かせつつ、出来る限り人から離れた位置を取る


「この時間帯は人が増えるのか、色々な場所がにぎわっておるのう」


真狐は少年の心配をよそに、あちこちを忙しなく眺めているが、

何故か人を易々と躱したり、足元に転がる空き缶すら

視線を向けることなく跨いで歩く


どうやら人の動きなどを察知することが出来るようだ


そのまま数分も歩いた後、少年は真狐に一声かけてから、

人の通らない小さな小道へ入っていった


「ほぉ、こちらの道の方が近いのか?

なるほどのう、しかしこう建物で道が分かれていると、

一つ道を違えるだけでえらくおかしな場所に出そうじゃな」


周囲に人もいなくなり、堂々と会話出来るようになったと判断し、

真狐が少年に話しかけてくる


少年は真狐の言葉に相槌を打ちつつ、人の気配などが分かるのか、

真狐に尋ねてみた


「んん? おお、さっきわしが人や物を避けておった時のことか」


「わしはこの耳で周囲の様子を知ることが出来るでな、

まあ、これも妖力の一種というやつじゃ」


「お主と出会った次の日にも、お主の部屋からご両親の気配を

察知しておったはずじゃが、忘れておったか?」


あまり覚えのない少年は、曖昧な返事をする


「・・・そう言えばごく自然にやっておったが、

2~3日前のわしでは多くの人や物の気配までは分からんかったはずじゃ」


「いつ妖力が戻ったのやら・・・、

そうか、恐らくあの建物、図書館を出てからじゃな」


「あそこでわしがしたことと言えば、昼寝だけじゃったから、

わしがお主を好きになったわけではなかろう」


「ということはつまり、図書館でわしと過ごす内に、

お主がまた少しわしのことを好きになったということかのう?」


悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言われ、

少年は頬を赤らめながらそっぽを向く


「照れるな照れるな♪ ・・・むっ?」


突然立ち止まり、険しい表情を見せながら後ろを振り向く真狐


一拍遅れて反応した少年は、どうしたのか真狐に尋ねてみた


「・・・いや、今一瞬妖の気配がしたように・・・、

しかしもう何も感じぬのう」


妖の気配と聞き、少年は一瞬真狐のような妖怪を思い浮かべるが、

悪い妖怪もいるという真狐の話を思い出し、どんな妖怪か尋ねてみる


「一瞬だけじゃったし、気のせいかもしれんが・・・、

恐らくそう悪い物の類いではなかったと思う・・・」


「まあ、未だこの世界にも妖怪はおらんわけではない、

どこぞの木っ端妖怪が一瞬近づいたのじゃろう、そう気にすることはない」


真狐の言葉に胸を撫で下ろし、少年は再び小道を歩き出す


程なくして開けた道が見えてきたが、小道を抜ける直前に、

真狐が少年の手を掴んだ


「待て待て、このまま行くとそこの道を歩く人にぶつかってしまうぞ」


真狐が忠告した直後、小道の出口を二人の男女が横切った


「ふむ、もう誰も来ないようじゃから、今のうちに出るとするか」


お礼を言いつつ、少年は小道から抜け出し、大きな道へ合流する


ふと、家の方向へ目を向けると、先ほど前を横切ったと思われる

二人の男女が目に付いた


どうやらカップルらしく、手をつないで仲良く道を歩いている


それも、指を1本1本絡ませた、いわゆる「恋人繋ぎ」をしていた


「どうした? あの二人がどうかしたのか・・・?

ほぉ~、随分仲が良さそうな二人じゃのう?」


「あそこまでぴったりと手を合わせて、

まるで片時も離れたくないといった具合じゃなぁ」


「のう? あの繋ぎ方には、なんぞ深い意味でもあるのかや?」


目を細めながら、妖しげな笑みを浮かべて真狐がわざとらしく尋ねてくる


少年は少し頬を赤く染めながら、恋人同士が手を繋ぐ時の

繋ぎ方だと真狐に教えた


「ほほぉ~、昨今の恋人はああやって指を絡めて繋ぐのか♪

わしもやってみたいのう~?♪

試しに少しだけやらせてくれんか?♪」


悪戯っぽく笑いながら、真狐は少年に要求する


少年は周囲に人がいないことを確認すると、

諦めたような顔で手を差し出した


「ふむ、ではわしも手を開いて・・・、こんな感じかのう?♪」


差し出された少年に手に、真狐が1本1本指を絡めて

二人の手を繋ぎ合わせる


ほっそりとした指を丁寧に絡める真狐のやり方に

胸を高鳴らせてしまう少年だが、決して手を離そうとはしない


「うむ、出来た! ・・・じゃが、このまま歩くのは、

やはり少々無理があるか・・・」


直立した状態の少年と、膝を抱えてしゃがむ真狐、

この身長差ではどうやっても指を絡ませる繋ぎ方で歩くのは難しい


少し残念そうな声を出しながら、真狐は少年から手を離した


「ありがとう、今はこれで充分じゃよ♪

この繋ぎ方は、もう少し背が伸びた時のために取っておくとするか♪

さ、早く帰らねば、そろそろ二人が帰って来んとも限らんからな」


一応は満足したらしく、真狐は立ち上がって少年を急かす


少しばかりの気恥ずかしさを感じながら、

少年は残り少ない帰路を歩いて行った

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