第三話 逢引 その4
「んむ、大変美味じゃった♡ この上なく甘美な時間をありがとう♡」
綺麗にソフトクリームを平らげた真狐は、舌なめずりをしつつ
少年にお礼を言う
少年は、頬を赤く染めつつ真狐に返答した
「ところで、無事にソフトクリームを食べることは出来たが、
次はどうするのじゃ? 二人で公園の中を走り回るか?♪」
冗談か本気か区別のつかない口調で提案をする真狐だが、
少年は昼食を買いに行かなければいけないことを思い出し、
その旨を伝える
そして、少年が昼食を買いに行く間、
望むなら公園で遊ぶ許可も出したが、
真狐はすぐに立ち上がってこう言った
「ありがたい申し出じゃが、それは不要じゃよ♪
わしは出来る限り主と共にありたいのでな♪」
「それにここへ来るのは今日限り、などと言い出すような
お主ではなかろう?」
目を細めながら笑いかける真狐に対し、
考えを見透かされていることに苦笑しつつ、
少年も立ち上がって歩き始める
「では行こうか♪ それで昼食はどこで買うのじゃ?」
店の場所を大雑把に伝えながら、少年は真狐を連れて公園を後にした
「そうじゃのう・・・、妖狐になってからは基本的に
食べられないものがなくなったから、お主が好きなものを選んでおくれ♪」
近場の弁当屋へ行く道中、昼食についてのリクエストを尋ねてみると、
真狐からはこちらに任せるといった答えが返って来た
「あのソフトクリームはわしが食べたいという願いを
わざわざ聞いてもらったんじゃ、昼食まで気を遣わせるわけにはいかんよ」
真狐の殊勝な言葉に感心しつつ、その言葉に甘えて
自分の好きなものを買ってみようと密かに決める少年
しかし、ソフトクリーム代でそれなりに予算を使ってしまったため、
選択肢が減っていることを思い出す
それでも恐らく何とかなると楽観的に考えながら、
少年は歩き続けた
その道中、様々なものに目を止めては
それが何なのか問いかけてくる真狐に、一つ一つ丁寧な返答をする
道端に置いてある赤いポストや、道の横に止まっている車、
道路標識や排水溝に至るまで、真狐は多くの事柄を尋ねて来た
何か一つについて説明しようと思えば、そこに関連する事柄について
また新たな疑問が浮かび上がったりと、真狐の疑問は尽きることがない
知識人でも何でもない少年には説明の難しいことがいくつもあったが、
分かる範囲で説明をすると、真狐は満足そうに笑っていた
そうしているうちに、目当ての弁当屋に着いたことで、
真狐の質問は一旦区切られる
「おお、ここがその弁当屋か、わしはそこで待っておるから、
好きなものを選んでおいで♪」
真狐の言葉に甘え、少年は一人で弁当屋に向かう
目を離した隙に真狐がふらりとどこかへ行ってしまっては、と思い、
一度途中で振り返ってみるが、きょとんとした笑顔の真狐が、
こちらを見ながら首をかしげている
これならどこかへ行ったりはしないだろうと安心し、
少年は再び歩き出した
元気の良い声の店員に迎えられつつ、少年は展示された弁当の中から
昼食を選び始める
しかし、予算内に収まるものはほとんど見当たらない
限られた選択肢の中から少し考え、真狐と分け合い易いものを選ぶと、
店員に弁当の名前を伝え、お金を支払い真狐の元へ戻った
「おお、無事に買えたか・・・、では、
この弁当はどこで食べるかのう?」
真狐にそう尋ねられたが、少年は食べる場所について
特に何も考えていなかったことを思い出す
どうするべきかと考えだした少年が、ふと店の側を見ると、
購入した弁当を食べるために置かれたと思われる、
少し色褪せたいくつかの机と椅子が目に入った
幸い昼には少し早いからか、まだ誰も座っていない
人通りがないわけではないが、道路側に背を向ければ誤魔化せると思い、
少年は店員に声を掛けてから、真狐と共に椅子へ腰かけた
少年が蓋を開けてみると、展示されていた見本と変わらない、
それなりに色とりどりの食べ物が詰まっている
「おお、このお弁当は可愛らしいのう、しかしこのように小さな器へ
きちんと食べ物が詰め込まれておるとは面白いものじゃ」
弁当の中を覗き込みながら、感心したように真狐が呟いた
いつものように少しずつ食材を分けようとする少年だが、
真狐は少年の手を軽く抑えてそれを制止する
「今日はソフトクリームをいっぱい食べさせてもらったから、
わしはその肉一つだけでかまわんよ」
「ここでは人目につくかもしれんから、
わしが食事をしておると不自然に思う者が現れんとも限らん、
お主は景色でも見ながらゆっくりと食べるがよい♪」
真狐はそう言いながら唐揚げの一つをつまみ、
そのまま口に放り込む
「ふむ・・・、少々濃い味付けじゃが、これも悪くないかのう、
ふふ、はしたないのは見逃しておくれよ♪」
指を舐めながら悪戯っぽく微笑む真狐に一瞬見惚れるが、
少年はすぐ我に返り、真狐の好意に甘えて弁当を食べ始めた
「さて、ここからはどこに行くのじゃ?」
弁当の空箱をゴミ箱に入れて歩き出すと、
真狐がすぐに話かけてくる
人の近くで会話していたら不自然だろうと、
食事中は気を遣って静かにしていた真狐だが、
やはり手持ち無沙汰だったようだ
どこへ行くか、お昼までしか予定を組んでいなかった少年は、
これからの予定を考えようとする
しかし、既に太陽は高く昇っており、
照りつける日差しが少年から少しずつ思考力を奪っていく
流石に涼むことを考え始めた少年は、
真狐と共に入れそうな、近くにあったはずの
小さな図書館へ足を運んだ




