第二話 紹介 その12
日も沈み始め、騒がしかった蝉の声が静かなものへと変わっていく頃に、
昼寝をしていた二人がどちらともなく目を覚ます
「んぁっ・・・、ああ、いつの間にかわしも眠っていたようじゃな・・・」
「史陽も・・・、もう目が覚めているようじゃな、そろそろ起きるか?」
真狐の言葉に返事をして、少年は膝枕のお礼を言いつつゆっくりと起き上がる
そして、腹部にかけられていたタオルケットを畳むと、
再びお礼を言いながら真狐に手渡した
「ふふ、わざわざすまんのう、じゃがこれはわしの術で作ったものじゃから、
片付ける必要はないのじゃよ」
「お主の布団を真似てみたが、寝心地はどうじゃったかな?」
術で作ったという部分が気になった少年は、寝心地が良かったことを伝えつつ、
どうやって作り出したのか尋ねてみる
「なあに、そう大層な術ではありゃあせん、自分の姿を変えたように
物の姿形を変えただけじゃからな、ほれ♪」
真狐の掛け声と共に、手のひらに乗っていたタオルケットが煙となって消え、
1枚の葉っぱだけが残った
初めて目の前で真狐の妖術を見た少年は、
はしゃぎながら残った葉っぱに顔を近づけてみる
「見ても構わんが、この葉っぱ自体は外で拾ったものじゃから、
何も珍しいことはないぞ?」
興味津々といった様子で見つめてくる少年に、真狐が葉っぱを手渡す
少年は葉っぱを受け取り、様々な角度から眺めてみたが、
真狐の言う通りごく普通の葉っぱであるようだ
「昔から、狐や狸は葉っぱで化けるものなんじゃよ、
今はまだこれが精一杯じゃが、
妖力が戻ればもっといろいろ見せてやるからの♪」
真狐の言葉にお礼を言いつつ、葉っぱを返そうとしたその時、
不意に玄関から声がした
「「ただいまー」」
どうやら両親が二人とも一緒に帰って来たらしい、
声を聴いた少年は思わず笑顔になってしまう
少年は少し迷ったが、昼寝をした時の言葉を思い出し、
両親を迎えに行っても良いか真狐に尋ねてみる
「うむ、もちろん良いぞ♪ わしは静かに部屋へ戻っておるから、
二人の側に行っておやり♪」
真狐に快諾され、少年は笑顔を浮かべると、
お礼を言いながら両親の元へ駆け寄った
間を置かず、玄関から嬉しそうで声がにぎやかに聞こえてくる
一人居間に残った真狐は、
嬉しそうで、少し寂しそうな笑顔を浮かべながら一人呟いた
「ふふ、ようやくお主の方からもわしに頼みをしてくれたか・・・、
じゃが、親御さんが帰った時のあの嬉しそうな顔・・・、
やはりまだまだわしらは深い関係とは程遠いようじゃのう」
「しかし、いつかはあの笑顔がわしに向けられるような、
いや、特別な笑顔がわしだけに向けられるような、
そんな関係になりたいのう」
少年から戻って来た葉っぱを胸元に仕舞い込み、
真狐は音もたてずに2階へと上がっていく
そして少年のベッドへ潜り込むと、
いつの日か自分だけに特別な笑顔が向けられることを夢想しながら、
再びゆっくりと本当に夢の世界へ入っていった
その夜、部屋に戻って来た少年は、明かりをつけた瞬間、
自分のベッドで寝息を立てる真狐の姿に驚いてしまう
、
起こすわけにもいかず、床で眠れば気を遣わせてしまったことを
真狐が悲しむと判断し、少年は何度か葛藤した後、
結局ベッドの端に潜り込む
少年の寝苦しい夜は、今日も続いてしまった




