第一話 邂逅 その2
始まりはごく普通の小さな山
大した名所や名物もないこの町の中央にある、
見晴らしの良い小じんまりとした山
かつては数少ない名所の一つだったのだが、長い間に登山者も少なくなっていき、
今ではこの山に登ろうという酔狂な人間は少なくなっていた
当然人の手が入ることも少なくなり、草木は伸び放題になっているが、
ふもとから頂上までの道だけはかろうじて手入れされており、
道を外れなければ子供でも手軽に登ることができる、そんな山
そして、冒頭に登場した少年がその山を登ろうとしたことが、
物語の始まる切っ掛けであった
少年は背中に小さなリュックを背負い、山頂から見える景色を目指して
元気よく山道を歩いている
その歩みは特に急いている様子もなく、時折上を見上げては
果実のなっている木を探してみたり、町の方に目をやっては
自分の家を探してみたりと、呑気に登山を満喫しているようだ
そうやってあちこち見ていると、ふと、道の外れに寂れた社が
建っているのを見つけた
社というものを間近で見たことがない少年は、興味が沸いたらしく、
近づいて様子を眺めてみる
慎重に草をかき分けて側までくると、少年は社の寂れ具合に驚いてしまった
屋根には何箇所も穴が空いており、柱は朽ちかけ、
今にも崩れてしまいそうなほどひどい状態であることは
少年にも一目で分かった
なんとなく社の中を覗いてみたくなった少年は、
近づいた瞬間に社が崩れ落ちてしまわないかと少し怖がりながらも
恐る恐る近づく
崩れかけた扉の穴から中を覗いてみたが、屋根の穴から差し込む光だけでは
土埃しか見えず、何があるのかは結局さっぱり分からなかった
ふと少年が足元を見ると、ぼろぼろになった御札が落ちていた、
恐らく社に貼られていたものが剥がれ落ちてしまったのだろう
少年は何が書いてあるのかはさっぱり読めなかったが、
悪い何かがこういった御札で封じ込められているというお話くらいは
知っていたので、気味が悪くなりその場を離れることにした
社の影から少年をじっと見つめる視線に気が付くことはなく、
少年は草をかき分け、急いで山道へ戻っていった