第二話 紹介 その9
少年が目を覚ましたのは、知らない天井と、知らない床のある場所だった
焦点の合わない目で自分の視界に入る情報を取り込みつつ、
ぼんやりとした頭でここがどこかを考えていると、頭上から声が掛かってくる
「おお、目が覚めたのか、ひとまず安心したぞ♪」
少年の耳に入って来たのは真狐の声だった
真狐近くにいることで少し安心したのか、
少年は落ち着いた声で、自分が何処にいるのかを尋ねる
「ん~・・・、何処かと言えばお主の家というのが正しいが、
もっと厳密に言えばわしの膝というべきかのう」
真狐の言葉をあまり動かない頭でゆっくとかみ砕きながら、
少年は現状を把握しようと思考を巡らせる
ここが家だと言うのであれば、今自分が見ている不思議な天井の説明がつかない
しかし、真狐は正確に言えば自分が膝にいるとも言っていた
もしも後頭部に伝わる温もりと柔らかい感触が真狐の膝であるのならば、
自分は今膝枕をされているということになる
そこでようやく少年は、今ぼんやりと見えているものが
真狐の顔や巨大な胸だということに気が付いた
慌てた少年は咄嗟に起き上がろうとするが、
そんな少年の頭を真狐の手が押し戻してしまう
「これ、まだ動いてはいかんぞ、もう少し休んでおれ」
そう言いながら、真狐は少年の頭を再び自分の膝に置いてしまった
「心配せずとも大した時間は立っておらん、まだ昼じゃ♪」
少年の顔を覗き込みつつ、笑顔を浮かべながらそう言う真狐だったが、
先ほどの醜態や、今現在視界に映る刺激的な物体から目を逸らそうと、
少年は思わず目を逸らしてしまう
「・・・あー、その、さっきは済まなかったのう、
じゃから、そうあまり拗ねないでおくれ」
真狐の笑顔が少し変わり、申し訳なさそうなものになってしまう
驚いた少年は、何故真狐が謝るのかすぐに尋ねた
「いや・・・、なんというか、先ほど風呂場で
お主に恥をかかせてしもうたから・・・」
「わしも気を付けておったつもりじゃったが、お主と一緒にいるのが楽しくて
いつの間にやら気が緩んだらしくての・・・」
少年に恥ずかしい思いをさせてしまったと謝る真狐だが、
自分に非があると思っていた少年は、真狐の言葉を遮り謝罪をする
「い、いや、お主のせいではなかろう・・・、
そもそも風呂に入ってみたいと言うたのはわしの方じゃし」
少年に謝罪されると、今度は真狐が自分に非があると謝罪をしてしまう
何度かお互いに庇い合った後、どちらともなく笑い出し、
静かな部屋に少しの間笑い声が響き渡った
「ふふふ、今回はお互いに悪かったということでええじゃろう♪
さて、もう気分も良くなったみたいじゃし、そろそろ改めてお昼にせぬか?」
真狐の提案を快諾すると、少年は真狐の膝から元気よく起き上がり、
冷蔵庫に入っていた自分の昼食を取りに行く
中からいくつかの皿を取り出した後、
その一部を電子レンジで温めようとしていると、
部屋の外から真狐が少しだけ顔を出した
「その「でんしれんじ」とやらで食べ物を温めるのか?
もしそうなら、少しだけどうなるのか見ていても良いかのう?」
少年は見学を許可すると、動いている途中で開けないように釘を刺しながら
電子レンジで食べ物を温める
「おお~・・・、ぐるぐると勝手に回っておるな・・・、
しかしこれで本当に食べ物が温まっておるのか・・・」
真狐が興味津々で電子レンジを眺めている様子を後目に、
少年は他の食べ物を食卓へ並べていく
「ここの数字が0になると終わるのじゃろうか・・・、
3・・・2・・・1・・・、わひゃっ!」
そして少年は、電子レンジから鳴り出した、
終了を知らせる音に驚く真狐を微笑ましく思いながら、
全ての食べ物を食卓に並べた




