第二話 紹介 その8
狭い風呂場の中から水音と機嫌の良さそうな歌声が聞こえてくる
どうやら真狐は少年が教えた通り、きちんとお湯を出せているようだ
しかし、少年はそんなことを微塵も気にしておらず、
風呂場に背を向けながら、悶々とした様子で準備が整うのを待っていた
真狐と一緒に入浴する、少年の頭はそのことだけでいっぱいになってり、
次から次へとあられもない想像が浮かび上がってしまう
水を浴びて艶々と光る白い肌、水滴の滴る髪、
巨大な乳房や艶めかしい肢体を洗う真狐の姿、
そして狭い湯船にくっつき合いながら二人で入る光景
想像しただけでも興奮が限界を超えてしまいそうな展開が
これから自分を待ち受けているかもしれない、
そう考えるだけで少年の頬は真っ赤に染まり、
走ってもいないのに呼吸はとても荒くなっていた
「ん~・・・、こんなものかのう・・・よし、ええじゃろう」
「ほれ、史陽よ、もう入ってきても良いぞ?」
名前を呼ばれて大きく体を跳ね上げた少年は、
慌てて想像の世界から抜け出し、服を脱ぎだす
そして手近な場所にあったタオルを腰に巻き、
最低限隠す所だけは隠すと取っ手に手をかける
その状態で2~3回深呼吸して息を整えた後、意を決して扉を開けた
「ふふ、どうじゃ? こんなもので良いのであろう?」
得意げな声を出しながら、きちんと準備が出来たことを少年に示す真狐
しかし少年は、浴槽に一瞥をくれて適当な返事をすると、
胸を高鳴らせながら真狐の方へ熱っぽい視線を向ける
「うむ、やはり問題はないのじゃな、では早速浴びるとしようか」
そこには、一糸まとわぬ姿の真狐が座っていた・・・、狐の姿で
「んん? そんな顔をしてどうしたのじゃ? 何かおかしな所でもあるのか?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、真狐がわざとらしく少年に尋ねる
自分がからかわれていたとようやく気が付いた少年は、
不貞腐れながらいい加減に返事をした
「その様子じゃと、わしが人の姿をしたまま風呂に入ると
思うとったようじゃな?
くっくっ、そのような贅沢、まだそなたにはちと早いのう♪」」
真狐は少年の反応がおかしいのか、堪えきれずに笑いだしてしまう
流石に少年も多少の憤りを感じ始めたのか、
何も言わず、勢いよく浴槽の中に飛び込んだ
しかしその直後、少年は叫び声を上げてすぐに浴槽から飛び出してしまう
溜まっていたのはお湯ではなく、水だった
冷水というほどではないが、ぬるま湯とも言えない程度の水に驚いた少年は、
思わず真狐に文句を言う
「おお、言い忘れておったが、わしは熱いお湯はあまり好かんからな、
そもそも山におったころから体を洗うのは水じゃったから、
いつも通りこうして水を張らせてもらったぞ」
「多少は頭が冷えたであろう? それにこの気温じゃ、
きちんと体を慣らせばそう冷たくはないはずじゃわい」
少年の行動は計算ずくだったのか、
それとも純粋に水風呂に入りたかっただけなのか、
澄ました顔でそう言い放つ真狐
結局、少年は何も言い返せず、渋々水風呂に入ることを了承した
「まあそう不貞腐れるではない、この姿も、
水の風呂もそれなりに理由があるのじゃ」
真狐の言葉に反応した少年は、先ほどのことを引きずりながらも、
その理由を問いかける
「うむ、理由というのは、先ほども言うたがお主の頭を冷やすためじゃよ」
「さきほどわしが共に風呂へ入ろうと言うた時、
お主ひどく興奮してしまったじゃろう?」
「もしもわしが人の姿でお湯を張って待ち構えておったら、
お主は風呂に入るどころではなく、
仮に入れたとしてもすぐ湯あたりしてのぼせてしまうであろうからな」
その言葉が的を得ているのか、
少年は真狐から目を逸らしながら細々とした声で肯定した
「それともう一つ、お主に関して確認したいことがあったのじゃ」
「恐らくじゃが、お主は女体に慣れておらんな・・・?」
その言葉もまた否定出来なかったのか、
少年は申し訳なさそうに謝りながらゆっくりと頷く
「いや、謝ることではない、そんなものはこれから慣れて行けば良いことじゃ、
付け加えるなら、お主の純真さはわしもよう好いておる」
今度は突然好意を示され、少年はすぐに顔を赤らめてしまう
しかし、真狐は真面目な顔のまま言葉を続けた
「じゃが、一つだけ問題があるのじゃ」
「昨夜のことじゃが、わしがお主を体で誘惑してしもうた時、
呪いは全く解けなかった」
「それは恐らく、わしの行為が「真実の愛」を育むのとは
真逆の行動だったからであろう」
「じゃが、逆を言えばそれはわしだけではなく、
お主にも言えることのはずじゃ」
「つまり、もしもお主がわしの体欲しさに愛を囁いたとしたら、
それは「真実の愛」でも何でもないものになる」
「そうなれば、呪いを解くどころか、
わしらは一生「真実の愛」など見つけることは出来なくなる」
真狐の言葉が完全に理解出来なかったのか、少年は分かりやすい説明を要求する
「ううむ、要するに、お主にはわしの体ではなく、
わし自身を好いてもらわねばならん」
「だから、わしの体以外のいろんな部分を見せることで
好意を抱いてもらったり、
少しずつわしの体に慣らすことで
余計な情欲を抱かないようになってもらいたいのじゃ」
「無論、一切の接触を許さんなどという禁欲紛いの掟なんぞ作らんから、
変に意識しないようゆっくりと色々やっていこうではないか♪」
理解したのかしていないのか、少年は曖昧な返事をした
「むぅ・・・、ちと難しい話じゃったかのう、
まあ良い、そのうち分かることじゃろう」
少年のはっきりとしない返事に少し悩みつつも、
真狐はすぐに気持ちを切り替える
「さて、せっかく湯浴み、いや水浴びをしておるのじゃから
体を清めようではないか」
「史陽よ、この姿のわしなら、触れることにためらいはなかろう?
そこの「しゃわー」とやらでわしの背中を流しておくれ♪」
少年は、真狐の要求に歯切れのよい返事をしながら、
シャワーを掴み栓をひねる
そして、水が勢いよく流れ出したことを確認すると、
すぐに真狐の背中を流し始めた
「おおぅ、水の勢いがなんともこそばゆいが、悪い気はせぬのう♪」
初めてのシャワーに新鮮な反応を見せながら、真狐は上機嫌で水を浴びている
「うむ、これはなかなかに心地良い、ついでに背中を流してくれぬか?
素手で軽く擦ってくれるだけで良いから頼むぞ♪」
追加の要求にも快諾し、少年は真狐の背中を擦り始めた
「むぅ、もう少し力は入らぬか? ・・・難しいか、ではこれで充分じゃ、
あ、もう少し右の方も擦っておくれ♪」
真狐に言われるがまま、少年は真狐の背中を隈なく擦り続ける
なかなかの重労働ではあったが、動物を洗った経験がない少年にとっては、
それなりの楽しさも感じられたようだ
「うむうむ、ありがとう、もう良いぞ、充分じゃ♪」
しばらく背中を擦り続けていると、満足したのか、
真狐は振り向きざまにお礼を言って少年を制止する
「それにしても、誰かに背中を擦ってもらうというのは良いものなんじゃな♪」
まるで背中を流してもらったことなど、
初めての経験だと言わんばかりの口ぶりに素朴な疑問を持った少年は、
シャワーを止めつつ背中を擦られたことはないのか真狐に尋ねてみた
「そうじゃな・・・、振り返ってみればこうして人に体を預けたことなど
今までに一度もなかった」
「もっと言えば、誰かに心を許したこともな・・・、
つまり、わしが心を許したのも体を預けたのも
お主が初めてということじゃよ・・・♪」
その言葉にどこか温かみを感じた少年の顔が自然と笑顔になる
少年は真狐にお礼を述べながら、改めて浴槽へ入ろうとした
しかし、そんな少年を真狐が再び制止する
「まあ待つが良い、わしの背中を擦ったから
お主も汗をかいてしまったじゃろう?
今度はわしがお主の背中を流してやろう♪」
そう言われた少年は自分の体が火照り、汗をかいていることに気が付いた
水に触れていたにも拘わらず、動き続けたからか
体は冷えるどころか熱くなっている
真狐の好意を素直に受け取ることにした少年は、
返事をしながら風呂用の小さな椅子を引っ張り、
背中を向けた状態で座り込む
「うむ、人の好意を素直に受け取るのは良い心がけじゃ♪
では少し待っておれ」
少年は、背後で真狐の声と水の流れる音を聞きながら
言われた通りに待っていたが、
ふと、当然の疑問が頭に浮かぶ
狐の体でどうやって背中を擦ろうというのか、
本来なら最初に考えるべきことにようやく気が付いた少年は、
振り向きながら真狐に質問しようとした
「これ、こちらを向いてはいかんぞ♪」
しかし、その行動は真狐の手に遮られてしまい、
少年は再び真狐に背を向ける
「そうそう、心構えの出来てないうちに振り向くと大変じゃからな♪」
真狐の言葉の意味を考えながら、少年はあることに気が付く
先ほど自分を抑えた真狐の手が人の手になっていたことに
少年は、現在どんな姿になっているのか真狐に尋ねた
「んん? 今頃気が付いたのか、当然人の姿に決まっておろう♪」
「狐の体では背中を擦ることなど出来んからのう、
ああ、着物姿ではないが布地くらいは纏っておるぞ♪」
臆面もなくそう言い放つ真狐に対して、
少年の体は動いていた時よりも熱くなっていく
真狐の言葉通りならば、今自分の後ろにいる女性は、
裸ではないが厚着をしているわけではないということになる
タオルを巻きつけた姿や、水着を着た姿など、
有り得そうな姿から有り得なさそうな姿まで、
様々な想像が少年の頭を駆け巡っていく
しかし、少年が興奮し始めたその直後、
いきなり背中に勢いよく水がかけられた
「変に意識するなと言うたであろうに、
これで少し頭と体を冷やすとよいぞ」
突然の水に驚きつつも、真狐に言われた通り、
少年はその冷たさに身を委ねて冷静になろうとする
何度か深呼吸を繰り返すうちに心も落ち着き始め、
背中に感じる水の心地よさも味わえるようになってきた
「よしよし、少しは落ち着いたようじゃな♪ それでは背中を擦ろうか♪」
言うが早いか、真狐は自分がしてもらったのと同じように
素手で少年の背中を擦り始める
背中に伝わる柔らかい手の感触を少しだけ感じながらも、
出来るだけ水の心地よさを意識しながら、
少年は自然に振る舞い続けた
「ふふ、こうして見ると小さくて擦りやすい背中じゃのう♪
じゃが、やはりどこか愛おしいと思えるのは思い違いではなかろうよ・・・♪」
背中に投げかけられる素直な言葉をこそばゆく感じながら、
少年はじっと座り続ける
「そうじゃ、もののついでに頭も流してやろうではないか♪
ほれ、少しばかり目を瞑っておれ♪」
そう言うと、真狐はすぐさまシャワー動かし、少年の頭に水をかけ出した
少年は慌てて目を瞑り、真狐にされるがまま髪を洗わせる
「♪~~ ♪~」
「痒い所や痛いところがあれば言うのじゃぞ♪」
こちらを気遣う真狐の言葉に短く返事をしつつ、
少年は自分の髪をかき乱す真狐の手に意識を向けた
その手つきは痛くはないがくすぐったくもなく、
まるで少年がどこを重点的にかいて欲しいのか分かっているように、
何も言わずとも配慮が行き届いている
子供の頃に卒業したはずの「他人に髪を洗ってもらう」という行為に
どこか懐かしさと気恥ずかしさを覚えつつ、
少年は真狐に身を任せ続けた
「よし、そろそろ良かろう、この手ぬぐいで
髪を拭いてやるからじっとしておれよ♪」
充分に髪を洗えたと判断した真狐は、
手近なところにあったタオルを取り、
少年の頭を優しく拭き始める
いつの間にか緊張がほぐれて来た少年は、
洗髪までしてもらった上に拭いてもらうという
至れり尽くせりな待遇に、自然と顔がほころんできた
「さて、これくらい拭けばもう良いじゃろう♪ 後は自分で拭いておくれ♪」
「ところでそろそろ昼になる頃じゃが、
お主が食べる物は用意されておるのか?」
少年は真狐に渡されたタオルで顔を拭きながら、
自分の昼食は、母親に用意してもらったものが
冷蔵庫に入っていることを簡潔に伝える
食べ物の話が出て来たからか急に空腹感を覚えた少年は、
自分の食事を真狐にも分けることを伝え、
共に昼食を取れないか真狐に打診した
「んー、その誘いはありがたいのじゃが、
折角水を張ったのがちと勿体ないから
もう少しじっくりと水浴びをしようと思うておるでな」
言葉の合間に水音が聞こえてくる、
どうやらいつの間にか浴槽に入ってしまったらしい
「それに実を言うとわしは食べ物もあまり必要ないのじゃよ、
今朝のパンはつい受け取ってしもうたが
いざとなれば食わんでも生きていくことは可能なんじゃ」
「何か食べたくなれば、山の中か何処かで適当な食べ物を探すこともできるし、
わしのことは構わずお主が全部食べておくれ」
珍しく遠慮しがちな真狐だが、
わざわざ食べ物を探させるような真似をしたくないのか、
少年が食い下がり、共に食事をしたいとはっきり真狐に告げた
「そ、そうか・・・♪ そこまで言うのなら断るわけにもいかんのう♪
それではわしも昼餉に付き合わせてもらおうか♪」
真狐が乗り気になってくれたことを喜びながら、
少年は水を吸ったタオルを力いっぱいを絞り、
何の気なしに手渡そうとする
「ああ、わざわざ手ぬぐいを絞ってくれたのか、
では遠慮なく使わせてもらうぞ」
お互い見せないように、見ないように意識していたが、
緊張感が和らいだめに油断したのだろう、
真狐も何の気なしに少年から渡されたタオルを受け取ろうとした
しかし、浴槽の中で立ち上がる真狐の体を見た瞬間、
少年の動きと思考は止まってしまう
少年の目に映ったのは、全身が濡れた状態の、
タオルを巻いた真狐の艶姿だった
体中の至る所から水滴が滴っており、
濡れそぼった髪やきらめく肌に否でも応でも目を奪われてしまう
水を吸って肌にぴったりと貼りついたタオルは、
体のラインを強調し、真狐の姿をより刺激的なものへと変化させる
更に、タオルからはみ出る胸の谷間や剥き出しの太ももが
少年の興奮を増長させてしまい、少年は頬を真っ赤に好調させ、
言葉も喋れないほどになってしまった
「・・・? 急に大口を開けてどうしたんじゃ?
おまけに顔がどんどんと赤くなって・・・、あ・・・」
少年の異変に気が付いた真狐は、少し考えた後に自分の姿を思い返す
それと同時に、どういうわけか少年と同じくらい顔を真っ赤に染めてしまった
「す、すまんのう・・・、はしたない姿を見せてしもうて・・・」
昨夜の行動はなんだったのか、服を開け、
少年に向かって肌をひけらかしていたあの時とは逆に、
片手で胸元を抑え、もう片方の手でタオルの裾を引っ張り、
顔を逸らしながら自分の体を隠そうとする
だが、その扇情的な仕草がとどめになってしまったのか、
少年の興奮は限界を超えてしまった
鼻から興奮の証が垂れ流れ、少年は思わず鼻を抑える
「・・・うん? あ! 鼻血が出ておるではないか! 大丈夫か!?」
恥ずかしさを誤魔化そうと部屋の隅を必死に見つめていた真狐も、
事態に気付き慌てて少年に近寄ろうとする
そんな真狐を、大したことはないと少年が制止しようとしたその時、
真狐が足を滑らせてしまい、勢いよくこちらへ飛びこんできた
受け止めようとしたのか、動けなかったのか、
棒立ちしたままの少年
そこへ向かってゆっくりと流れる映像のように
真狐の体が迫っていく
そして真狐の巨大な胸が自分の視界を覆い尽くし、
顔全体に柔らかく濡れた感触が伝わったあたりで、
少年の意識は途絶えてしまった




