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妖縁奇縁  作者: T&E
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第二話 紹介 その7

階下に降りた少年は、まず近場の部屋から案内した


最初に入った居間は、畳の敷かれた床に四角い机が乗っていたり、

部屋の隅にはテレビが備え付けてあったりと、ごく普通の居間である


また、台所と繋がっており、

大きなガラス戸と庭に降りるための大きな足場もあった


「ほほう、畳の部屋とは分かっておるのう、

先ほどの廊下のようなつるつるした床はやはり歩きにくい」


フローリングの廊下を通る際、歩きにくそうだった真狐は、

やはり畳の上が落ち着くのか、机の側に寝転び畳の匂いを嗅いでみる


「ん~・・・、い草の匂いは薄いのう・・・、

じゃがお主の匂いがするから気に入ったぞ♪」


「それとこの匂いが・・・、そなたの母君と父君の匂いじゃな・・・、

よし、これも覚えた」


元が狐であるために嗅覚が優れているのか、

真狐はあちこちの匂いを嗅ぎ、住民の匂いを覚えているようだ


女性が四つん這いになりながらあちこちの匂いを嗅ぐという光景に苦笑しつつ、

少年はテレビのリモコンを手にしながら真狐の名前を呼ぶ


「んん? どうした? なんじゃそれは?

ふむ、その箱を見ていればいいのか?」


少年は真狐をテレビに注目させながら、リモコンを押し、電源を入れる


すると画面に人が映り込み、突然静かな音楽が流れだす、

どうやら体操番組をしているらしい


「な、なんじゃ!? こやつどこから現れおった!?

おまけにこの音は一体どこから・・・!?」


予想通りの反応に喜びながら、少年はテレビについて軽く説明した


「なるほど、この箱はてれびと言うのか・・・」


「その道具を使えば、こうして動く絵を見ることが出来るのじゃな・・・」


真狐は画面に顔を近づけべたべたと触りながら、

興味津々といった様子で様々な角度からテレビを眺める


「ほぉ~、なんとも摩訶不思議な仕掛けじゃのう~・・・」


お尻を突き出し、尻尾を振りながらテレビの画面を眺め続ける真狐に声を掛け、

少年はキッチンへと移動した


ここも普通と呼ぶに相応しい構造と家具が置いてあり、

水道やコンロ、冷蔵庫やレンジなど、一通りのものは付いている


少年は、水道から水が出せること、冷蔵庫で物を冷やせること、

レンジやコンロは使い方によっては危険なので注意すること、

そして、使った場合は全てちゃんと元の状態に戻しておくことなどを説明した


「ほうほう、ここを上げれば水が出てくると・・・、

しかし山の水と違って妙な臭いがするのう・・・」


「この箱は小さな氷室ということか・・・、随分手軽になったものじゃ」


「ほお、これは火を起こす道具なんじゃな・・・、

わしは火を恐れたりはせんが、まああまり近づかないでおこう」


「この箱に食べ物を入れて動かすだけで中の物を温めることが出来るのか・・・、

火も使っておらんのに、まっこと不思議なものじゃ・・・、

ああ、危ないのなら特に使わんでも大丈夫じゃよ、

そもそもわしは猫舌じゃからな」


日常的に使う機械の一つ一つに新鮮な反応を見せる真狐


それを見ていた少年も、段々と楽しさを覚えてきた


「うーむ、どれ一つとっても大したものじゃ、

人間の進歩には驚かされるばかりよ・・・、

さあ、それはそうと次は何を見せてくれるのかのう?」


真狐に急かされ、次は何を紹介するか考えながら廊下に出た少年は、

ふと、トイレの扉が目に写り、同時に先ほどの話を思い出す


今朝方、真狐は窓から庭に降り立ちそこで用を済ませたと言っていた


妖怪が人に見られないというのであれば、恐らく目撃者はいないだろうが、

少なくとも少年には見えている以上、

あまりそういったはしたない真似はさせられない


少年は真狐をトイレに連れて行き、使い方を教えることにした


「はぁ・・・、これが厠とな・・・、随分大仰になったものじゃのう、

おまけに今はこんな形になっておるのか・・・」


トイレの個室に入った真狐は、

今までとは違う反応で洋式のトイレを眺めている


少年は一通りの使い方を教えると、

以降用を足すときはここにするようにと真狐に言い含めた


しかし、真狐からは芳しくない反応が返ってくる


「ふうむ・・・、しかしわしの姿はご両親には見えぬから、

下手をすれば誰もおらんのに厠で音がする

怪奇現象と見られそうじゃのう・・・」


「ついでに言うと、これを使うのは着物姿では恐らく難しい・・・、

当然狐の姿でも使いづらいぞ?」


「もし使うのであれば、人の姿で、尚且つ服を脱がねばならんな・・・、

さすがにこの狭い部屋で逐一そのようなことをするのは・・・」


面倒臭がっているようにも見えるが、

真狐の言い分にも多少の筋が通っているので少年は悩んでしまう


仕方なく今朝と同じように庭で用を足す許可を出したが、

必ず狐の姿で行うように言い聞かせた


「うむ、そのくらいなら問題はないぞ、

ではこの狭い部屋から出て、次へ行こうではないか」


すぐにでもトイレから出たかったのか、

真狐は自分で扉を開けてさっさと出て行ってしまった


その後を付いてトイレから出る少年だが、

扉を閉めた辺りであることに気が付く


まだ教えていないにも関わらず、真狐が扉を開けていたことを


少年は、次はどこへ行くのかと尋ねてくる真狐に、

何故扉を開けることが出来たのか尋ねてみた


「うん? そんなもの、お主がやってるのを見て覚えたのじゃよ、

構造はよう分からんが、とにかくそこを回せば開くようになるのじゃろう?」


ドアノブを指さしながら、真狐は簡素に言い放つ、

やはり学習能力は高いらしい


自分の案内が本当にいるのかどうか疑問になりながら、

少年は次の部屋へ進もうとする


「おお、この部屋は何かのう? ちょっと入ってみようではないか♪」


しかし、段々と要領を得て来たのか、真狐が先行して部屋に入っていくので、

少年も慌てて部屋に入る


真狐が入ったのは洗面所だった


洗濯機が置いてあり、小さなお風呂にも繋がっている


「ふむ・・・、これは恐らく「きっちん」にあった水が出る「しんく」と

同じようなものかのう・・・、む、やはりここを動かすと水が出るのか」


洗面台をじろじろと眺めた後、

少年に使い方を聞くことなく栓を上げて水が出ることを確かめる真狐


確かに言われたことはしっかり覚えているようだ


「それで、この箱は何なのじゃ?」


しかし洗濯機はさすがに分からなかったのか、

喜々とした表情で少年に尋ねてきた


自分が教えることが残っていたことに少し安堵しながら、

少年は洗濯機の使い方を真狐に教える


「この箱に服を入れれば勝手に水が出て勝手に洗ってくれるのか・・・、

冷たい水に触れんで済むとは冬場が楽じゃのう♪」


「試しにわしの着物を入れてみようかのう?♡」


着物を脱ごうとする真狐を慌てて制止し、少年は部屋を出ようとした


しかし、真狐が少年の手を掴んで退出を制止する


「これ、冗談じゃからそう焦るでない、それよりも、

こっちの部屋はまだ見ておらんぞ?」


真狐が指さす先にあったのはお風呂場だった


そう言われて案内していなかったことを思い出した少年は、

足元に気を付けるよう注意しながら風呂場の中へ入る


シャワーや湯船の使い方を一通り説明すると、

真狐は少し驚いたような声を出した


「ほおぉ、ここに一杯のお湯を入れて湯浴みをするのか・・・、

なんとも贅沢なことをするものじゃ」


「しかし、今まで見て来たような道具といい、この風呂といい、

人の世界ではこのようなものが普通に存在するのか?」


少年は真狐の問いかけに頷き、

どの家にも今まで見せたような家具類があることを伝える


すると真狐は再び驚きの声を上げた


「なんとまあ、これが庶民の基本的な生活なのか・・・!

わしが封印されてなかった時代の大名よりも

よっぽどいい生活をしておるのう・・・」


驚きながらそう言う真狐に、かつての人はどんな生活をしていたのかと、

少年の方から逆に尋ねてみる


「うむ・・・、わしの時代なら火を起こすにせよ、

水を使うにせよこのように簡単なことではなかったのじゃ」


「今までお主が簡単にやってのけたことを、

何もかも手間暇かけて行っておったよ」


真狐の説明に相槌を打つと、少年は改めて風呂場を出ようとする


しかし、真狐が再び少年の手を捕まえた


「まあちょっと待っておくれ、せっかくじゃからこの風呂場は使ってみたい」


「体は昨日洗ったきりじゃし、綺麗にしておきたいのじゃ♪」


特に問題はないと判断したのか、少年は真狐に許可を出すと、

先に自分の部屋へ戻ろうとする


ところが、そんな少年の肩に真狐が手を置くと、

耳元へ顔を近づけてこう囁いた


「まあ待つが良い、話しておきたいこともあるし、

良い機会じゃからお主も一緒に入ろうではないか・・・♡」


耳にかかる吐息と言葉の内容に反応し、少年の体が大きく跳ねる


少年は振り向きざまに冗談ではないかと尋ねたが、

真狐は妖艶に微笑みながらそれを否定する


「ふふ、冗談などではありゃあせんよ・・・♡」


「お互いをよく知るためじゃ、裸の付き合いと行こうではないか・・・♡」


真狐にそう言われ、断り切れなかったのか、断りたくなかったのか、

少年は曖昧な態度を取りつつ、なし崩し的に了承した


「ほほほ、そうこなくてはのう、それでこそ男というものじゃ♪」


「それでは、教えられた通りにわしが準備をしてみるから、

お主はそこで待っておれ」


そう言いながら少年を洗面所へ追いやり、

一人お風呂場の中で準備を始める真狐


少しの間洗面所で呆然と立ちすくんでい少年たが、

自分が今から真狐と何をするのか思い出し、途端に慌てふためき始める


少年にとって、今までに体験したことのないような時間が始まるのかもしれない

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