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妖縁奇縁  作者: T&E
15/76

第二話 紹介 その6

「ご馳走様、美味じゃったよ」


パンを綺麗に平らげ、指を舐めながら、真狐は少年にお礼を述べる


「んん~~~、まだ眠いが、何とか目は醒めたかのう・・・」


完全には目が覚めていないのか、真狐は覚醒を促そうと背伸びをする


大きく背伸びをする真狐の突き出された胸から出来るだけ視線を逸らしつつ、

少年は真狐がしっかり目を覚ますのを静かに待った


「さて、今更ではあるが改めて挨拶をしようではないか」


「おはよう、史陽♪」


笑顔を向けながら優しい声であいさつをする真狐


少年は少しだけ頬を赤らめながらも、

しっかりと真狐の顔を見ながら挨拶を返した


「ん、良い挨拶じゃ♪ お主は朝から元気が良くて結構じゃな♪」


「わしは元々夜行性じゃから、ちと朝が苦手でのう・・・、

なかなか目が覚めんのじゃよ・・・、ふわ・・・」


話している間にも眠気がぶり返したのか、

真狐は欠伸をしながら少年に言葉をかける


聞きたいことを思い出した少年は、

何故人間の姿で自分と同衾していたのか尋ねてみた


「んんん・・・? はて・・・、言われてみればわしは

いつの間にか人の姿に化けておるのう・・・」


真狐は自分の姿に気付いていなかったのか、

手足を軽く眺めた後にとぼけた声で現状を確認する


「何故こうなってしまったのか・・・、

ひょっとするとあれが原因かのう・・・」


「あれは・・・、そう、確か明け方のことじゃったかな・・・」


目を瞑り、一つ一つ記憶を手繰りながら、

真狐が人の姿になっていた理由を説明し始めた


「まずわしは厠に行きたくなってな、

お主を起こさないように布団から降りたのじゃ」


「部屋の中でするわけにもいかんし、

外で済まそうと思い、そこの入り口から出ようとしたんじゃが、

何分狐の姿で開けるのは難しかったから・・・」


窓を指さしながら真狐にそう言われ、少年は思わず口を開けてしまう


どうやら昨夜窓から入ったことで、真狐はここを出入り口だと認識したらしい


「そこで・・・、そう、そこで人の姿に化け、

入り口を開けて庭に降り立ち、用を足したのじゃ」


「多分そのまま部屋の中へ戻り、

何も考えず人の姿のまま布団に入ってしもうたのじゃろう・・・」


少年の頭の中に、真狐が軽々と屋根から飛び降り、

屋根に飛び上がる姿が浮かび上がる


誰かに見られなかったか心配しつつ、

少年はトイレのことなどをいろいろ教えなければならないと密かに思う


「目が覚めたら人の姿が側にあって驚かせてしもうたかのう、

すまんかったな、何か問題があったか?」


少し申し訳なさそうに笑いながら謝られたが、

少年は特に何事もなかったため、

大丈夫だったことを伝えた


「おや、そうなのか・・・?」


「ならいいが、わしはてっきり我慢出来ずに乳房か何かを

触ったかと思ったぞ・・・♡」


少年は、今朝がた真狐の胸に手を伸ばしかけたことを思い出し、

一瞬体が跳ね上がったが、慌てながらも取り繕い誤魔化そうとした


「ふふ、どうやらその様子じゃと、

触ってはおらぬがそれに近いことくらいはしたようじゃのう・・・?」


半ば確信を持っているのか、真狐ははっきりとした口調で少年に問いかける


元々嘘が付けないのか、少年はすぐに観念し、胸の谷間を見ていたことと、

胸に触れようとしたことを謝罪した


「ふむ・・・、やはりそのくらいはしておったか・・・」


「まあ、咎めるわけではないからそう謝らずともよいぞ、

男ならば仕方のないことじゃし、

別に悪いとも思ってはおらんよ」


「ただ、少々問題はあるかもしれんが・・・、

とにかくお主がそう気にすることはない、

うっかり人の姿のまま布団に潜り込んだわしにも多少の責任はある」


真狐が怒っていないと分かり、安心した少年は胸を撫で下ろす


そんな少年をよそに、立ち上がった真狐はそのまま部屋を横断し、

窓を開け放ちつつもう一度背伸びをした


「ん~、雲一つない快晴じゃな、今日は暑くなるぞ♪」


真狐は少しの間空を眺めていたが、

すぐに向きを変えるとそのまま少年の側へ近づく


「さて、外へ出れば気持ちの良さそうな天気じゃが、

その前に確認せねばならんな」


「お主以外に二つあった人の気配がいなくなっておるが、

その者たちは出かけたのか? すぐに戻ってくるのか?」


真狐の言う二つの気配が両親のことを指していると判断した少年は、

少なくとも夕方までは誰も帰ってこないことを伝える


「ふむ、二人きりということか、

では家の中で会話をしておっても構わぬかのう・・・」


「それなら、お互いの関係を深めるために

とても大事なことをやりたいのじゃが、お主は構わぬか・・・?」


この家に二人きりだと聞いた瞬間、

真狐が少し上目遣いで熱っぽい視線を向けながら少年に問いかける


少年は、何故か今朝がた見てしまった胸の谷間や、

先ほど背伸びした時に突き出された大きな胸を思い出し、

狼狽えながら真狐の問いに頷いた


「ふふ、構わぬのじゃな・・・♡ では早速・・・♡」


「お互いのことをよく知るために自己紹介と質問をしようではないか♪」


想像と異なる真面目な答えが返ってきたことに

何とも言えない表情になりかけたが、

少年は表情を取り繕いながら返事をする


「妖怪と人間が「真実の愛」とやらを見つけようとするのじゃから、

まずは互いのことを色々知らねばならんじゃろう♪」


「お主が期待しておったこと、してやりたくないわけではないが、

いろんな意味でそういうことは早いじゃろうからな・・・♪」


まるで心を見透かしたような言葉に驚きながらも、

少年は平静を装いつつ応答した


「それでは・・・、そうじゃのう・・・、

わしのことは昨日大体話したと思うから、

まずはお主のことを聞かせてくれぬか?」


真狐に自己紹介を促され、少年はたちまち思いつく範囲で自分のことを話し出す


昔から二人の両親とともにこの場所で生活していること、

好きな食べ物から嫌いな食べ物、

基本的に動物は好きだが虫は嫌いなこと、

学校の成績、現在は夏休みで一日中家にいられることなど、

自分の趣味趣向から現状まで、かなり脈絡のないことを矢継ぎ早に説明した


「ふむふむ、大体覚えたぞ、とりあえず思いついたことが

あったらまたわしに言っておくれ」


話の流れがかなり煩雑だったにも拘らず、もともと頭が良いのか、

真狐はきちんと全て理解し、覚えてしまったようだ


「それじゃあ次はわしの方から話そうか」


「そうじゃのう・・・、まずはわしのような妖怪について、

基本的なことから説明しよう」


真狐が話す内容を聞いた瞬間、少年は身を乗り出して真狐に顔を近づけた


どうやら、妖怪のことは少なからず気になっていたようだ


「興味津々と言ったところか・・・、まあ全てを話すのは時間がかかるから、

覚えておいて欲しい所だけを説明するからの?」


真狐の言葉に少年は力強く頷く


「それでは、こほん・・・、妖怪とは、まあ人とはそれなりに違う、

奇妙な存在といった所か」


「わしのように獣から変化したものや、物から変化したもの、

果ては人や言葉から変化したものなど、

その種類は非常に豊富じゃな」


「また、その性質も人に益をもたらす良い妖怪から、かつてのわしのように、

人に害をもたらす意地悪なものなど、これまたいろいろ存在する」


「そして、そんな妖怪たちには一つだけ、共通の能力がある」


「それは、「人から見えないように姿を隠すことが出来る」という能力じゃ」


「普通の人間からは完全に見えなくしたり、

妖怪を信じていない人間には見えなくしたり、

姿を現したい人間にだけ姿を見せたりと、様々なことが出来る」


その説明を聞き、少年は今朝のことを思い出す


部屋に入って来た母親が、真狐の存在に全く気付かず

何事もなかったかのように振る舞っていたことを


あの時、母親には真狐の姿が見えていなかったことを少年は理解した


「まあ、そういう能力があるから、わしはお主と共に過ごしたりする際、

わざわざ隠れ回る必要は一応ないのじゃ」


「もっとも、わしら妖怪を見ることの出来る、

特殊な力を持つ人間も中にはいるがのう」


「しかしそんな人間は滅多におらんから気にすことはなかろう」


「話が逸れたが、とにかくわしは人から見えん、だから・・・、

例えば一緒に外を歩いても特に何の問題もないわけで・・・」


突然真狐が少しだけ頬を染め、視線を泳がせながら指を弄り始める


「えっと、気が向いたらで良いから、

わしをあちこちに連れ回してくれると・・・、

つまり逢引きをしてくれると嬉しいぞ・・・?♡」


少年に熱っぽい視線を向けながら、真狐は恥ずかしそうにそう呟いた


逢引きという言葉が分からずとも、男女が共に出かけ、

あちこちを回ることが何を意味するかは少年にも理解出来る


真狐の仕草に少しだけ胸のざわめきを感じながら、

少年は顔を赤らめつつ軽く頷く


「良いのじゃな・・・? や、約束じゃからな・・・?

実を言うと人間の世界がどうなっておるのかずっと気になっておったから、

お主と共に色々見て回りたいと昨日から考えておったのじゃ・・・♪」


無事にデートの約束を取り付けることが出来たからか、

嬉しそうに尻尾を振りながら満面の笑みを浮かべる真狐


その笑顔につられて、少年もまた自然と笑顔になってしまう


「じゃが、今日の所はこの家についていろいろ教えてもらいたい」


「この天井に貼りついている灯りから、

何から何まで見たこともないものだらけでとても気になるんじゃよ」


「どうじゃろう、案内を頼めるか?」


真狐の申し出を快諾すると、少年は立ち上がり、部屋の外へと歩き出す


「おお、そうこなくてはのう♪」


「ふふふ、この何百年かで、

人の家というものがどう変わったのか楽しみじゃ♪」


耳と尻尾を軽快に動かしながら、真狐も少年の後を追った

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