19、審判の朝
朝八時十分を過ぎても決着はつきそうにない。
登校したのが八時。いざ職員室に入ると、中は事件当日の様に慌しかった。
PTAが動いたのだ。
学校側の対応は、既に一連のものと、俺の自宅謹慎という事で決定しているが、それを口実にどう丸め込むかで揉めていた。
結論は八時三十分までに出る。そして最後に処罰が教育委員会への書類に記載され、校長の印が押されて提出される事になっている。
――大丈夫。打てる手は打った。
昨日、柳の説得が成功した後に二人で金庫の中に何もない事を確認した。その時にちょうど大沼が教室の鍵を締めにきたので、タイミングとしても良かった。
時計を見る。現在八時十五分。俺は口元に手をあて思考を巡らす。
河原崎のバッグになかった以上、財布を持っているのは赤石だ。
『警察に被害届けを出す』
学年主任の言う様に、警察を呼ぶと三年生の進路に影響が出る。それは、推薦を欲する赤石の望む事ではない。
『木戸の推薦が取り消しになった』
そして赤石の狙いはあくまで復讐だ。これで目的の一つは達成された事になる。さらに言えば赤石にとって財布はあくまで道具であり、目的さえ達成されればさっさと返却したい、そう思えるほどに厄介な証拠なのだ。
『明日から自宅謹慎で学校に来ない』
しかし明日から俺が登校してこない。つまり、今日の朝よりも後に返却した場合、俺が戻したとは考えにくく、アリバイを与えてしまうことになる。昨日柳から話を聞いて戻そうにも、教室に鍵が掛かっているためそれも無理だ。
だから赤石は今日の朝に必ず返しに来るだろう。
後は柳の一報を待つだけだ。
だが……。
八時二十分。
「遅過ぎる」
俺はアリバイのためにも八時に来るから、十分には来てくれ、そう言ってあった。
だが柳が来る気配はない。
まさか財布が無かったのか?
抑えていた嫌な考えが浮かんでくる。
――失敗。間違い。誤算。偶然。
財布が「無い」理由は腐るほどある。
それだけじゃない。柳が裏切った可能性もある。
もし昨日のあれが演技だとしたら?
もし柳と河原崎が繋がっていたら?
信じられないが、俺を殴り土下座までさせた男だ。一夜明けてみると、絶対にないと言い切れる自信がなかった。
――くそっ。
俺は近くの教師にトイレに行くと伝えて職員室の扉を開く。
もし、もし柳が裏切ったなら俺は終わる。だがしかし、何らかの事情で回収できなかった可能性もある。
――そんなことで終わってたまるか。
この可能性に全てを賭けたんだ。どうせもう、後はない。
俺は生徒を書き分けて、廊下の一番端にある自分の教室へと急いだ。




