魔法は人類のロマンだと思っていた時期もありました
蛔虫とかいう気持ち悪い生き物の脅威も去ったので、とりあえず家に帰ってみることにする。どうせ明日も休みなので、丸一日かけてなんかしたらしたらどうにかなるだろう。
再び暑い日差しを浴びながら帰路についている途中、ずっと奥さんの言葉を反芻していた。無意識に使えるもの。呼べばいいということ。誰しもが使えるということ。それはつまり、ある意味でこちら側の人間ではない僕でも、もしかしたら眠っているだけなのかもしれない。無意識にあるものを意識化していないだけなのなら、疑わなければ出来るということなんじゃないか。
さっきは追われていた。でも僕は自慢じゃないが運動は苦手だ。ボールを投げたら3メートルも飛ばないし、思い切り走ろうなら2秒でコケる。握力なんて17もいいとこで、腹筋なんてしたら一週間は筋肉痛だ。なのにさっきは息が切れた程度なだけで、軽く3キロは走っていた。
これが無意識のうちに、例えば身体強化的な魔法を使っていたんだとしたら?さっきは奥さんがテンプレ属性を話してくれたけど、所謂学校でいう五教科みたいなもので道徳やら一般教養やらを抜かしていたのだとしたら、どの属性とも言えない身体強化などの魔法があっても説明はつく。
ならば、意識して使うのではなく使えるのが当たり前として火の球を出してみたら出るのだろうか?そう言えば太陽ってなんであんな暑いんだろう、ずっと燃えてるとか自分の寿命毎秒削ってるようなもんなんじゃないの?いつか寿命が来て爆発とかしないよね?こう、燃え上がる感じでドカンと…
刹那、耳を劈くような爆音と、日光なんて比べるのもおこがましいほどの熱量が僕を襲った。びっくりしすぎて放心していたけど、その音の鳴った方を見てみたら、田んぼだったであろう場所が大火事だった。
「なにこれ…怖」
あー、昼間でも火って明るいんだなー、とかせっかく冷たいお茶飲んだのに早くも喉が乾いたなーとか漠然と揺れる火を見ながら考えていたら、芋沢さん夫婦が血相変えて走ってきた。
「どうしたぽかぽか!ドラゴンでも出たか!?すぐに避難するんだ!」
「え?いや、なんも出てないですけど。いきなりなんか爆発して」
「いきなり田んぼが爆発するような土地に住んだ覚えはねえよ!君がやったのか?流石に場所は選べよ」
そう言われても、僕は何もしていない。強いて言うなら魔法の事考えてた時に太陽見てたってことくらい…うん?
「もしかしたら僕、魔法使えるようになったとか?」
「もしかしなくてもそうだと思うわよぽかぽか君、どうやら本当に記憶があやふやらしいけど…もしそうだとして、いきなり上級魔法使うのは流石って感じかしらね」
どうやらそれであってるらしい、使った感覚もどういう理由で上級魔法だったのかもわからないが、なるほど、これは中々恐ろしいものらしい。
「とりあえず消化しなきゃね、水幕」
「水の幕ですか、ウォーターカーテン的なそれですかね」
「なんで君はこんな時に冷静なんだ。あとそんな名称久しぶりに聞いたよ、外国生まれだったかな?」
奥さんが田んぼに向けてオーロラのようなカーテンのような水魔法?を発動させて水蒸気がやばい中、呑気にくっちゃべってるハゲと当事者。
「そんなもんよくある転生モノのファンタジー小説ならテンプレじゃないですか」
「小説?俺も小説は読むが、こんな魔法世界モノなんてほぼないんじゃないか?テンプレなのは車だろ車、魔法の使えない異世界転生とか楽しそうだよな」
「年甲斐もなくはしゃがないでください豚野郎。貴方の体で消化しますか?ああ、油脂で余計燃え上がりますかね」
「あひん、申し訳ございませんお嬢様」
奥さんと芋沢さんの関係性が気持ち悪い。そして綺麗な顔してとんだドSじゃないですかやだー。今度から逆らわないようにしないと。