燃やされる虫
奥さんの手から放たれた熱量のこもったボール状のそれは、追ってくる芋虫に当たると爆発を起こし、肉片を燃やし尽くして消えていった。
「はい、退治完了ね。でぽかぽか君、あなた何したの?蛔虫なんてこの辺じゃ滅多に見ないのに」
「蛔虫ってなんですか?というかぽかぽか君はやめてください」
今更だが、僕ーー浅井炬燵 (あさい ぽかぽか)は俗に言うキラキラネーム世代の少年であり、名前以外は普通が似合うただの高校生だ。多分、昨日までは。今日からはファンタジー世界に迷い込んでしまった ぽかぽか あさい として生きていくのだろう。
「寝ぼけてるのかぽかぽか君。さっきの芋虫だよ、ギルドランクFのこの俺が倒せるわけもない化け物さ」
「ギルド?F?なんか一気にファンタジーですね、記憶の改変でもされたのかもしれないんでちょっとこの世界事情教えてもらえませんか?あと、その蛔虫とやらは向こうの山の麓で寝てたっぽいんですけど、キモかったからコーラかけときました」
「酔っ払って記憶でもすっぽ抜けたか?ここは地球だしこの世界の人間全員魔法は使えるだろう、君だってこの前ランクBまで上り詰めた上級魔法使いだろうに…あとコーラかけて起こすな頭おかしいのかお前」
どうやら本格的に魔法世界に来たらしい。剣はあるかは知らないが。あとこのハゲはF(笑)らしいが僕はBまで上り詰めた魔法使いらしい、基準と世界観がわからない。そしてなぜ地球なのか。
「全く覚えてない、って顔してるわねぽかぽか君。ちなみに私はSランクの2つ名持ち冒険者よ?このハゲは私の夫で小間使い。転生したのなら記憶は保持してるはずだし、どうしたのかしらね」
上には上がいた。そしてハゲを小間使いする2つ名持ち冒険者とかいうチート。なのに使う魔法はファイアーボール…ならぬ火球。魔法は使えるけど威力の高い魔法は使えないのか?それとハゲの方はどういうことだろう、魔法使えるくせにあの芋虫を倒せないと言った。つまり皆魔法は使えるけど威力がそれぞれで、Sランクにもならないとあのくらい使えないってことなのか?…駄目だ、分からないことが多すぎて頭いかれそう。
「…とりあえず詳しく聞きたいんでお邪魔してもいいですか?コーラぶっかけたおかげで飲み物ないんですよね」
「それは自業自得だと思うが…まあいいか、上がれよ。茶は出すぞ」
「ありがとうございます」