目が覚めたら、見知った天井でした
よく晴れた日だった。季節も夏の中頃で、窓から差し込む日光が肌を焼き付くさんとばかりに照りつけてきて、僕の行動意欲をガンガン削ってくる。
よく晴れた日だった。いつもの朝の、はずだった。
違和感に気付いたのも一瞬で、いつもと同じ部屋、いつもと同じ家具、匂い、隅から隅まで見飽きるほどに見慣れた部屋のはずなのに、まるで違う。例えるなら材料、切り方、調味料も火の入れ方まで全て同じ料理なのに人によって味が変わってくるような、あってないような違和感だった。
「…とりあえず、携帯を」
ぼやくまま自分の携帯を開いてみる。指紋認証式なので親指一つでロックを解除して、ホーム画面に移行してからその違和感に気付いた。
「なんで…壁紙が違うんだ?」
携帯を買って3年、最初の設定から1度も変えてないはずのそれは、見慣れたはずの好きなアニメの主人公ではなく、見知らぬ女の子と肩を抱き合う黒髪黒目、平々凡々な顔をした痩せぎすな少年……つまり自分だった。
「なんで壁紙が違…いや、それだけじゃないか。見たこともないアプリは入ってるし、ゲームが全部消されてる…」
3年の間ずっと、毎日欠かさずやっていたゲームも、連絡手段足り得る会話専用アプリも、全てが消えていた。代わりに見たこともないアプリが20は入っている。
誰かがやったのか、なんて安直な考えは浮かばなかった。何故なら、この家…六畳一間の賃貸アパートに、自分以外誰も住んでいないから。オートロックではないにしろ、鍵はちゃんと閉めているし誰かが入ってきたような形跡もない。寝ぼけてやるには少々、思い切りすぎたことだった。
「まあ考えてても仕方ない…かな?とりあえず一つ一つ見ていこ」
言い終わる間もなく、携帯画面にエラー表記が出る。それを目で追うやいなや、僕はこいつが何を言っているのか分からなかった。
『認証エラー。魔力を流してください』
「え?」
『認証エラー。魔力を流してください』
「いや、ちょ」
いきなり携帯から無機質な音声が流れ始めた。バイブレーションこそないけれど、ずっとリピートされ続けたそれは、不快感と焦燥感に駆られるものであり、その魔力とやらを流さないと止まらねえぜ…!と言わんばかりだ。
やかましいのでホームボタンや電源ボタンを長押ししていると、
『認証エラー。魔力を流してください』『認証エラー。魔力を流してください』『認証エラー。魔力を』
壊れた。