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ばぁば系魔女とクール系青年  作者: 弱虫リリー
3/3

第二話 魔女と知った日

ツイッターのタグ「魔女集会で会いましょう」の完全体の田中さんの漫画を小説化したものです。

シリアス路線だって言ったのに若干コメディになってしまった…許して…

原作 完全体の田中  著 弱虫リリー


「今朝食作ってるからのぅ。ちょっと待っててーや」

「あ、はい……ありがとうございます」

そう言われ、少年はすでに火のついている囲炉裏のまえに座った。

少年が白髪の自称ばぁばの女性、もとい、お姉さんに拾われて数日。

少年はなんとなくそのままの流れでお姉さんの家に居候することになっていた。

このお姉さんの家はどことなく古臭く、ザ・古民家と言った感じだった。

そのせいもあってか、少年にはとある疑問があった。

この家は、幽霊が住み着いているのではないのか、と言うものだ。

なぜかと言うと、まだ少年はこの家に来て数日だが、もうすでにそうとしか思えない怪奇現象になんども遭遇している。

例えば、拾われて二日目の昨日の朝、少年が起きてすぐのことだ。少年はサッサッと言う一定のリズムを刻む、心地よい音に目が覚めた。しかし、隣の布団に寝ていたお姉さんは既に布団から出て寝室にはおらず、音を起こす存在はいないはずなのだ。

それに違和感を覚え、少年はおぼろげな意識の中で周囲を見渡す。すると、少年はある一点を見て、固まった。

箒がひとりでに動いて掃除をしていたのだ。

誰にも持ち手を持たれることなく、勝手に自立し、勝手に左右に揺れて、埃を掃いていた。

少年はたっぷり数秒固まった後、サァーっと一気に顔から血の気が引き、ガバッっと布団にくるまって縮こまった。

確実に幽霊か何か、とにかく何か見てはいけないものを見た気がした。

少年はそのまま音が収まるまで布団にくるまり、音が収まった途端、飛ぶように部屋から出ていった。

それ以外にも、少年がこけそうになった時、椅子が動いて少年を受け止めたり、お姉さんが虚空に向かって会話していたりと、不可思議な現象をいくつも見ていた。

――やばいところに来てしまった気がする……。

「どうしたのかえ?そんな怯えた顔して」

作り終えた朝ごはんを運んできたお姉さんが少年の顔を覗き込みそう言った。

どうやらこのお姉さんはその怪奇現象をどうとも思っていないらしい。

なんとなく聞くに聞きづらかった少年は数瞬迷いつつも

「い、いえ、何でも、ないです」

と無理くり笑顔を作って答えた。

しかしまぁ、そんなバレバレな嘘が通用するはずもなく、お姉さんは怪訝な顔をする。

――ガンガン

続けて何か言おうとしていたお姉さんだったが、玄関を突然ノックされたのでそれを中断し、玄関へと向かった。

まぁ、何とかごまかせたかな、と少年はホッと一息ついた。

しかし、ここであることに気が付く、少年がここに居候させてもらってから、初めての来客だったのだ。少年のあくまで体感でしかないがここの家はそれなりに山奥だと少年は思っていた。なのにいったいどんな来客が来たというのか。

少年は気になって立ち上がり、こっそり覗き見ることにした。

はいちょっと待ってね~とお姉さんは急いで草履を履き、ガラガラガラと、玄関を開けた。

しかし、人の顔があるはずの高さに何もない。もしかして、幽霊が訪ねて来たとか――

「おぉ、杉さん。今日はどうしたのかえ?」

と考えた少年とは裏腹に、お姉さんは“低く”かがんだ。

それに合わせて視線を下げるとそこには「狐」が居た。

――は?

少年からは、この構図はお姉さんと狐が話しているようにしか見えない。と言うか誰から見てもそうにしか見えない。少年の頭には?マークが三つぐらい浮かんでいた。

そんな困惑を他所にお姉さんは会話を続けていく。

「あぁ~、そうだったねぇ。ちょっと待っててくれるかい?」

語りかけられた狐はどうやら内容が通じているらしく、頭を縦に振った。

少年はお姉さんが玄関の反対側にある物置へ消えてゆくまで目で追い、再び狐に視線を戻すと狐と目合った。

びくっと少年は一瞬驚いたが、狐の優し気な眼差しに少しずつ落ち着きを取り戻し、徐々に近づいてゆく。

「杉さん……だっけ。人と話せる、の?」

「……」

狐はくるくるとその場で回ったり、前足を上げてくれたりで何か伝えようとしてくれるのは少年でもわかったが、何一つとして伝わってくるものはなかった。

――どうしてあの人は会話出来てるんだ…?

「杉さん、これでよかったかえ?」

少年が困惑している間にお姉さんは物置から戻ってきていた。お姉さんの手には、紺色の巾着袋と、オレンジ色の木の実らしきものが乗っていた。

それを見た狐の杉さんがコクリとうなづくと、お姉さんはオレンジ色の木の実を巾着袋の中にい入れ、杉さんに手渡した。

「また、無くなったらきてええからのぅ」

杉さんはそれを口に咥えるとお辞儀をするかのようにまた頭を縦振り、トテトテと歩いて行った。

お姉さんは杉さんを見送ると、なにごともなかったかのように玄関を閉め、何事もなかったかのように囲炉裏に戻ってゆく。

しかし、少年にとってはそうはいかない。こんなシーンを目の前で見せられればそれはもう疑いではなくなる。少年は確信していた。何かがおかしいと。

「ねぇ、おねえさん…なんで狐とはなせるの?」

「ん?なんで?そりゃあ声が聞こえるからのう」

さも当たり前のように答えるお姉さんが少年にとっては怖かった。

「でも僕は聞こえなかった。変だよお姉さん」

「ああぁ、そうかそうか。それはあたりまえじゃよ」

少年に問いただされて、お姉さんは何かに気が付いたようだった。

「え?それってどういう…」

世間話のように軽々とした雰囲気で、お姉さんは一言。こう答えた。

「ばぁばはな、魔女なんじゃ」

「……」

「……」

「……」

「……えっ?」

さきに戸惑ったのはむしろお姉さんの方だった。

「えっじゃないですよ。信じるわけないじゃないですかそんなの」

少年ははぐらかすついでに馬鹿にされたんだと思いふてくされた態度をとる。

「いやいや、マジなんじゃって」

それに対し本気でおどおどとするお姉さんはどう説明するか困っていたようだった。

「う~む……なら仕方ないのう。ちょっとだけ魔法をみせてやるかえ」

「えっ?」

少年は嘘だと思っていた為、割とノリ気なお姉さんの行動に今度は逆に戸惑う。

それに構わず、お姉さんは自分の前に右手を突き出して手のひらを開くと

「ほい」

と、気の抜けるような掛け声を出した。

すると呼応したかのように、物置から竹ぼうきがふわふわと飛んできた。

少年は人生で初めて、目が点になるという感覚を味わった。

そのままお姉さんはほうきにまたがり、ふわりと浮いた。

「天井があるからそんな高くは飛べんけど……これでどうじゃ?」

少年は完全にフリーズしていた。だが無理もないだろう。

こんなファンタジーは少年にとって、本とTVの世界であり、現実には存在しないはずだったのだ。

思わず目をこすり二度見、そしてさらに頬をつねる。が、夢ではなく、実際に少年の目の前でお姉さんは浮いていた。

数秒、たっぷりつかって何とか状況を理解して、少年は気おされながら再び問うた。

「じゃ、じゃあ、狐と話してたのも……?」

「魔法じゃよ」

「ほうきが勝手に掃除してたのも?」

「魔法じゃな」

「椅子が勝手に動いたのも?」

「うむ、魔法じゃ」

「何もないところに向かって話しかけてたのは?」

「何もかった……?そりゃあ、多分テントウムシの島さんじゃろ?小さくて見えなかっただけじゃな」

「……」

「どうじゃ、認める気になったか?」

スゥーっとゆっくり降りてきたお姉さんが少年の前でニッコリと微笑む。少しドヤ顔になっていたかもしれない。

少年の中で今まで見てきた“常識”という価値観が、目の前で起こったことを認めようとしない。だが、認めざるおえないのも事実だった。

少年は途中まで考え、しかし潔く諦める。

「……そうですね」

その返答にお姉さんは満足げになり

「なら、よかったわい。それじゃばぁばは箒しまってくるから先に朝ごはんおたべ、冷めてしまうからの」

と答えた。

――いやしまうのは魔法じゃないのかよ……。

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