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「あなたは勇者様ですか?」「いいえ俺は勇者ではありません」  作者: /黒
第二話:ドラゴンと生贄と山奥の村
8/34

2.

【山岳地帯を抜けているカナトとアレックスの前に、一人の少女が立ちふさがりました】


「アッハハ、こんにちは、クソ人間!」

「っ、何だこいつは――?」


 俺達を、宙に浮いた状態で見下ろす少女――、

 黄金に染められた風のごとく長い金髪に、白蝋のようになめらかな肌と、整いくっきりとした目鼻立ち。俗に言えば見るからに美少女然とした容姿をした、まるで絵画の中から飛び出してきた、富豪の娘をも思わせる少女。

 しかしその身に纏うのは、不吉さを漂わせた漆黒のゴシックドレス。そんな雰囲気に加えて全身から魔力、と言うべきだろうか? 瘴気を思わせる、毒々しく刺々しい敵意を隠しもしない気配がにじみ出ている。

 そんな、明らかに異質めいた、到底人間とは思えぬ存在感。それが、紅と碧、左右でそれぞれ異なる瞳でこちらを見下ろしていた。


「あたしの名は、『踊魔王ニコバルトカリ』。全世界にあたし達が挨拶したこと、脳足りんなゴミ人類でも覚えてるでしょう?」

「っ、あの時のドクゼツか――ッ!」

「大魔王のしもべたる三魔王の中でも、最も強大な力を持つ高潔たる存在が、このあたしよ。このあたしにブチ殺してもらえる光栄、犬のフンにも劣るウンコ野郎には身に余るでしょう?」

「排泄物連呼するなよ!? 汚ェな!」

「げげぇ、ニコバルトカリ様ァ――……っ」


 そんな時、俺の旅に同行していたインキュバスが、カエルが踏みつぶされたかのような悲鳴を上げた。女性大好きなハズのコイツにしては、珍しい反応だ。


「うん? あんた、確かソルフェリーノのところの蛆虫の一匹だったわよね? あたしに初めて会ったとき、妙にクサいセリフで口説いてきたのを覚えてるわ」

「お、覚えておいででございましたか――」


 恐る恐る、インキュバス――アレックスは、まさに顔色を窺うと言った様子で、宙に浮くドクゼツの顔に上目遣いを投げている。


「…………」

「…………」


「ふーん、裏切ったんだ」


 沈黙。そして、切って捨てるようなその言葉。アレックスは、見るからにその顔を青ざめている。


「ひぃっ!? ぼ、ぼぼぼ、僕はそそそその、」

「まあいいわ、どーでも。いちいち区別するのも面倒だし」


 ニコバルトカリとか名乗ったドクゼツ魔王が、片手を振り上げた。するとどこからともなく無数の甲冑が現れる。


「《魂無き戦士の宴{ソウルレス・フォックストロット}》」


 出現した当初はバラバラで、組みあがってすらいなかった無数のそれら。だが、魔王が魔法を唱え終えると同時に全て組み合わさり、鎧の兵士として中空に君臨した。

 ――そして、一斉にドスドスと地上に着地する。


「温情を!」

「あんたはゴミ掃除するとき、いちいち埃を仕分けるの?」

「このヒト絶対床に落ちてたら全部ゴミ箱にぶち込むタイプのヒトだッ!?」


 冷たい兵士たちが、一斉に襲い掛かってくる。俺に魔力を吸われ、力を発揮できない今のアレックスではせいぜい肉壁がやっとだろう。

 だが、俺は今。特にそのことに関して嘆いてなどいなかった。


「――俺の方こそ、お前を、お前らを探してたんだぜ?」


 そうとも。探さずに、いられるわけが無い。


「痛い目見る前に、とっとと返すんだな」

「何をよ?」

「決まってんだろ――ッ」


 俺はオカマをぶっ飛ばした時を思い出しながら、身体の内にある魔力に意識を集中させた。

そして、それごとぶつける気迫で兵隊の一体に殴りかかる。


「サイカ・ヘヴァンリィ! 俺の幼馴染をだよッッ!!」


 がむしゃらに、全身全霊を込めた拳。まっすぐ、それは鎧の兵隊に向かう。あわよくば、ぶっ飛ばした勢いであの女に当てて叩き落とし――、


【しかし、カナトの放った拳は、鋼の鎧の前に沈黙しました】


「いっ、」


 何のひねりも無く「痛い」。腕がジーンとする。あのいかにも重そうな筋肉の塊をフッ飛ばしたハズなのに、頭に響く声の通り、目の前の奴は微動だにしない。


「っ、いけない、いけないよ!」


 そんな、状況を整理中の俺の身体が後ろに引かれる。そのすぐ後、立っていた場所を兵隊の剣が叩きつけられた。


【カナトに、もはや抵抗する術はないでしょう。今、彼は目の前に立ちはだかった死の前に、懺悔するしかありません】


「何をザンゲしろってんだよ!」

「え? 懺悔?」

「うるせぇなんでもねぇよ!」


 この頭に響く声。少し前から聞こえるようになったそれは、他の誰かに聞こえる様子はない。

 一人言をぶつくさつぶやくかわいそうなヒトと思われなくないため、適当に誤魔化しておく。


「今の君に使える魔力は無いんだよ! それくらい、自分で自覚したまえ!?」

「なんだって?」


 俺の手を引きながら、アレックスは翼で飛翔していた。魔力すっからかんぴんの現在でも、それくらいのことは出来るらしい。


「あたし、部屋の掃除は結構マメにやるほうなのよ」


 背後で、無数の鎧の兵士の向こうで宙に浮くドクゼツが不敵に笑う。

 鎧の兵士たちは追いかけてこようとはしない。そのかわり――、


「《偽りの邪精は悲しみの舞を踊る{クレズマー・オブ・スヴァルトアールヴ}》」


 広げられたドクゼツの両手から、当たったらどう考えてもヤバそうな黒くオドロオドロシイ魔法弾が無数に飛来してくる。


 ああ、どうしてこんなことになったんだ――。


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