1.
【昔々――とある王国でのお話。王様が、新しいお后様を連れてお城へと戻ってきました。それはそれは美しいお方だったとのことです。
しかしあるとき、とある騎士が迎えられたお后様や王女様のいるその場でこう言ってしまいました。「王女様の方が美しく徳を備えた方だ」、と。
その言葉に深く嫉妬したお后様。彼女が王女様に魔法をかけると、なんと彼女はドラゴンの姿へと変わってしまったのです。
お后様はこう言います。「王の息子の口づけがなければ、お前は元の姿には戻れない」、と。
しかし、王の息子は、先日行方知れずとなっていました。呪いは、それを知った上でかけられたものだったのです。
王女様はそれでも、希望を胸に待ち続けました。
しかし、現実は非情でした。待てども待てども、王子が帰ってくる事はありません。
戻る術を無くした憐れな王女様。ですがほどなくして、国には病が流行り始めます。
それは身分関係なく、人々を殺し始める恐ろしく、そして無慈悲な病。奴隷も、民草も、王も、お后様も。みんなみんな、全て、全て、平等に。
――そんな中只一人、例外として免れた者が居ました。
それは王女様でした。ドラゴンの姿となり、無敵の肉体を手に入れたおかげで、皮肉にも疫病の影響を免れたのです。――他の全てを失いながら。
全ては、昔々のお話。今もどこかで、かつて王女だったドラゴンは、悲しげに吠えている、と聞きます】