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3.

「とりあえず、怒るだけで爆破するのは如何なものかと、俺は常々思う」

「そもそも怒らせるような発言をしなければいいのではないかと、ボクも常々思う」


 校舎の、主に俺達の学年辺りが読んでそのまま字のごとく吹き飛んだので、テスト返却後の授業は青空教室になった。今は、ようやく机と椅子を広場に運びこんだところである。


「ヘヴァンリィさん!」

「私達が机を――」

「結構。カナトが運んでくれるからね」


 なお、身体が小さく力の弱い(自称)サイカは、椅子は自分で運んで机は俺に運ばせていた。

自分でやらかしておきながら俺に運ばせるとは、何と度し難いチビだ。


「キミ、今またボクの怒点に触れそうなことを考えてるね?」

「心でも読んだのかよ!?」

「せめて口頭だけでも否定したまえよ!? ミレニアムだとかサードな眼じゃなくても割とキミの考えてることは分かるよっ、このっ! このっ!」

「いでっ、やめろっ、脛蹴るなっ、机運んでて逃げ場無い!」

「爆破しないだけマシと思い給え!」

「温情アピールしてんじゃねーっ! 爆破した後じゃおせーよ!」


 サイカの蹴りに耐えながら、何とか決められた石の地面に机を置く。

今回も余計な手間どころではないことをしでかしているが、こいつが本格的に罰せられているところは見たことが無い。

 勿論注意されはするが、それだけだ。取り返しのつかない怪我人がなぜか出ていないこともあるだろうが、成績優秀で有力貴族、と言うこともきっと関係しているのかもしれない。

 それにしては、なぜか召使いなどを一切連れず、飛び級の話も上がっていたはずなのにそれらを全て蹴って、俺の同級生だったりする奇妙なところもあるが。


 空にヒドイ映像が映し出されたのは、そんな考えても仕方のない思考を巡らせていた時だ。


「な、なんだ――?」

「空が、歪んで――?」

「何? 何が起きるの?」


 周囲で、空を見上げて不安げな声。

 広い大空に映し出された映像。一人の人物。金髪碧眼の、本来は美男子だったであろうその人間。しかし、それは見る影もなく――、


「こりゃあ何とも見事なアヘ顔ダブルピースだねぇ」

「お前なんで少し楽しそうなんだよ」


 当たり前だが、こんな光景は日常にはない。そもそも、空に映像が映し出されると言う事態そのものが、非日常以外の何物でもないのだ。


「――と言うか、アイツは誰だ?」

「キミねぇ、世間にもっと目を向けなよ」


 俺達の周囲では、「お、おい、アレって――」「う、そ、だろ――?」「きゃああああああああああああああっっ!!?」などと言う、この現象が信じられない以上の声が上がっていた。誰もが、あの人物を知っているような、そんな声だ。


「アレは、『勇者』だよ」

「『勇者』――?」

「そう。一年前、この国の城下町を旅だった、選ばれし人間さ」

「選ばれた? 何のために?」

「決まっているだろう。それは――」


『今お前たちが見ているこの光景は、決して夢、幻などではない』

「魔族共の王――魔王と呼ばれる、絶対悪を倒すためだよ」


 ザザザっと映像が乱れ、全身が闇で覆われた何者かが映し出された。不気味に目を輝かせるその人物の背後には、先ほどの勇者が今の通りの見るも無残な格好で壁によりかかっている。


『これより、お前たちゴミムシの時代はアンハッピーに終わりを迎えるのよ』


 それだけではない。その右隣りに、またもや闇に覆われ正体の分からない人物が現れ、見下した態度でそう言い捨てる。


『ヴォホホホホホ! 我ら三魔王と、大魔王様の手によってねぇッ!』


 そして、最初の人物の左隣に、巨躯を誇る闇の影が、奇妙な笑い声と共に並び立った。


『諸君らが今目の当たりにしている通り、「勇者」などと言う戯けた希望とやらは墜ちた』

『つまり、あんた達のカスみたいな希望、期待のホープとやらはもう何の頼りにならないわけ』

『これからはァ、アタシ達魔族があなた達人類を、押しつぶさんばかりの「愛」で抱きしめてあげるわァッ!』


 ソンダイ。オカマ。ドクゼツ。いったい何を言っているんだこいつらは。俺を含めた、その場に居る全員が、胸中の動揺の違いこそあれ思っていることだろう。

 それだけ、この発表は突然すぎた。まるで、世間で話題の有名人の訃報を、突然聞かされたかのようだ。理解しきるには少し遠い。


『――ちょっと、「愛」って何よ? あんた何キトクなことくっちゃべってるわけ?』

『なァんですってェッ!? 「愛」の何が奇特なのよォ! この世界をラヴ・アンド・ピースで満たそうって話だったでしょォ!?』

『クソみたいな妄言もいい加減にしなさいよ!? あたしらは死と絶望を振りまく高潔な存在なのよ!? そんなゲロ並妄想吐かないでよ、貰いゲロするわ!』

『なによォッ!?』

『なによ!?』

『――お前たち、今は仲間割れしているときではなかろう』


 ――本当に、何なんだこいつら?


『まあ良い。それでは、手筈通りに頼むぞ。「獄魔王ソルフェリーノ」』

『ヴォホホホホホッ! まァッかせなさァーいッ!』


 空に映し出された映像が薄らいでいく。否、無数に分割され、幾多もの空間の穴となる。


「――ねぇカナト。明らかな宣戦布告に、無数の空間の穴。何を意味しているか分かるかい?」

「少なくとも、花束が降ってこないことだけは分かる」

「ご明察だカナト。その通り、魔族の大軍団パレードさ――ッ!」


 サイカがそう言うなり、空間に開けたそれらから、無数の化け物が飛び出してきた。

 それは遠目の俺達にもわかるほど。バラバラと地上に降りていく奴ら、バサリバサリと翼を羽ばたかせてこちらに向かってくるやつら。

 多彩な魔族のご登場は、周囲の生徒たちを恐れ戦かせる。そればかりか――、


「う、うわぁああああああああああああああああああああああああああああああァーーーッ!」


 この真上にも魔族が召喚されていたのか、上から様々な姿の魔物がスタリと降りてくる。

蝙蝠っぽい羽根を生やしたいかにもな奴らや、象のような足の奴ら、不気味な形の鎧を着た兵隊みたいなやつまで、さまざまだ。

 そして、そいつらは周囲の生徒たちを目にすると、捕縛し周りを取り囲んだ。


「っ、あいつら――ッ、何をするつもりだ!?」

「ひ、ぎゃ、あああああああああああああああああああああああああああああァァーーーッ!?」

「――っ!?」


 他方で、空気を破り裂くような悲鳴が上がる。そして、さらに連鎖するように同じくして痛々しい悲鳴が次々と。

 追いかけまわされる人々。同じように捕らえられた者達は、皆一様に何事かをされていた。飛び交う金切り声が止むころ、そこに残されたのは――、


 それはもう顔をしかめたくなるほどのアヘ顔ダブルピースだった。


 しかも、ファンシーなドレス着用のオマケ付きである。ああ、アイツ学年トップクラスのモテ男なのに――。


「逃げるよカナト!? あんな姿曝されたら、とてもじゃないけど二度と外なんて歩けない!」

「お、おう!」


 生命的にではなく、精神的に奴らは人間を殺そうとしている、と言うことだろうか? ぶっちゃけ意味が分からないが、それでも今は、サイカの言っていることに異論はない。

 俺だって、あんな惨めな姿にはなりたくない。


「おおっとォ、女の子、逃がさないよォ!」


 と、これから校舎内に逃げようとする俺達の前に、背中に蝙蝠のような羽を生やしたイケメンが立ちはだかった。

 イケメン。とりあえず、他に形容する言葉が見つからない、銀髪で長身の男。優男のようにも、チャラくケーハクなチンピラっぽくもあり、そして何より胡散臭い雰囲気が全身からにじみ出ている。

服装は漆黒のスーツで、胸を無意味にはだけさせ、気取った様子で着こなしていた。それでいながら、だらしなさを感じさせないのは素直にすごいが――個人的には、こう言うタイプ、見ているだけで調子に乗ったサマがイライラする。


「ハァッハッハッハ、僕と危険な夜のお遊びしないかァい! きっと気持ちいいよォ?」

「だったら真昼間に来ないでくれたまえ!」

「夜ならいいのか!?」

「ボクはそう言う事言ってるわけじゃない!」


 それもそうだろう。俺は、先ほど運んできた机の脚に手をかける。


「邪魔だクソヤロウ!」

「オヴッ!?」


 そしてそのままそれを振り回し、エロ悪魔の足に叩きつけた。いいところに当たったらしく、「ガッ」とも「ゴッ」とも擬音できるような音が響く。

 おまけに、相当効いたのか、うずくまるようにしてプルプル震えている。


「ナイス! 逃げるよ!」


 サイカは俺の手を取ると、引きながらそう言った。


「に、逃げるったって、こんだけ奴らがいる中どこへ――」

「校舎さ!」


 サイカは振り返らず、ただただ俺の手を引きながらそう言った。


「キミにやっておくべきことが、一つあるのさ」


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