出逢い
ヤマさんが部屋を出てからどれくらい時間がたっただろう。この部屋時計がないから時間の感覚狂うんだよな…。三十分も経ってはいないと思うけど…そんな風に考えていると、部屋の扉が勢いよく開いた。
驚きと共にそちらに目を向けると、そこには金糸のような髪が目を引く女の子が立っていた。…オレと同い年くらいだろうか、カワイイ子だ。スレンダーなところもいい。ところで…なにか顔が怒っているような…。
「えっと…キミは「お前、どうしてこんなところにいる」
遮られた。いやどうしてって聞かれても…。
「い、色々あったっていうか「ここに来る奴は皆色々ある。私が聞いているのは、どうしてまだこんなところでウジウジメソメソとしているのかだ」
少女は怒りを隠そうともせず急ぎ足でオレの方に近づいてくる。
「お前は一生をここで過ごすのか?こんなところで、永久に家畜のように飼われ続けたいのか?」
「か、家畜って…そんなの」
「そう、嫌な筈だ。なら答えは決まっている。だというのに何故そこから立ち上がろうとしない」
少女はオレの隣に立つと唐突にオレの腕を掴み、どこにそんな力があるのか一気に引っ張り立ち上がらせて歩きだした。
「うわっ!?」
「着いてこい。お前の心を解き放ってやる」
「ちょ、どこに…!?ていうかオレここから勝手に出ちゃダメなんじゃ?ていうかヤマさんも帰ってきてないし、それにキミは誰!?何者なんだ!?」
「質問が多い、一つだけ答えてやる、一つに絞れ」
「キミは誰!」
「平良優乃。お前と同じ……神格者だ」
「平良さん、いったいどこに…!」
「一つだけと言った、他は答えない。…あと、名字で呼ぶな。さん付けも不要だ」
「じゃあ優乃ちゃんで「ちゃん付けも止めろ。私はお前と同じ年齢だ。優乃でいい」
オレの腕を引いて歩いていく彼女…優乃は、オレと同じ神格者だという。でも、彼女はいったいいったいどこに行く気なのだろう?
扉を抜けた先の白い廊下、そこには光が射し込んでいて、光を追って目を向けると天窓が見えた。今はどうやら昼間らしい。なんだか久しぶりに時間を感じることができたな、そんなことを考えていると、立ち止まったらしい優乃にぶつかった。
「何をボーッとしている。しっかり前を見て歩け」
「ご、ごめん。でもなんでここで立ち止まったんだ?」
「外に出るからだ」
「外に?どこから?ここ出口なんかないように見えるけど」
そう言うと優乃はオレから手を離し上を指差した。つられてオレもそちらに目を向けると、そこには先程見た天窓がある。天窓しかない。
「あそこから出る」
「………オレには天窓が見えるんだけどな」
「そうだ、彼処から出る」
「………オレには天窓まで結構な距離があるように見えるんだけどな」
「飛ぶから問題ない、掴まれ」
「は?飛ぶ?」
天窓に向けていた目を優乃に向けると、優乃は両腕を拡げていた。天窓から射し込む光が優乃の金の髪に反射して輝いている。なんだか天使のようだ。……いや、そうじゃない。
「あの、それはいったい?」
「飛ぶから掴まれ。落ちても困るから私を抱き締めろ。但し変な所を触れば振り落とす」
「目がマジだ!ていうか飛べるのか!?」
「くどい。さっさとしろ」
「さっさとって…」
オレは優乃の肩に恐る恐る手を回す。やっぱりスレンダーだ。…でも、柔らかいし、なんかいい匂いがする。陽だまりのような安心する匂いが。そんなことを考えていると、優乃もオレの体に手を回してきて、柔らかな感触を体に感じた。………これはもしや……おっぱい………。
「飛ぶぞ。いいな」
「え、ちょっタイいいいいいいいい!?」
オレの制止を聞くこともなく優乃とオレは天窓に向かって飛び上がった。思っていたより速い!そして怖い!
「ていうか窓空いてないんだけど!?」
「問題ない。このまま突破する」
「先にぶつかるのオレなんですけど!?」
「問題ない」
「問題しかないよなああああ!?」
そう言っている間に天窓は近付いてくる。ああ、ダメだぶつかる絶対痛い!優乃を抱き締めてるから腕も出せない!ほらもうぶつかっ………た………?
オレと優乃は天窓を壊すことなくそのまますり抜けると、外に飛び出した。
「……な、なんでだ?今窓を……」
「そんなことはどうでもいい。…見ろ」
「見ろって何を………あ………」
飛び出した先には、世界があった。
下にはオレ達がさっきまでいた施設があって、その周りは草原が広がっていた。
少し先には森があった。映画でしか見たことのないような大きな森が。
遠くには街が見えた。大きな時計台が目を引く、活気のありそうな街だった。
遥か先には海が見えた。コバルトブルーの綺麗な 海を、初めて見た。
「………すっげえ………」
「降りるぞ」
「え、あ、わかった……」
飛び出した時とは違い優乃はゆっくりと下に降りていった。オレにこの世界を、少しでも長く見せようとしてくれたのかもしれない。それに感謝しながら、オレは美しい世界を眺めていた。