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神様いっぱい物語  作者: エビムラー
始まり
2/5

神、顕現

"ソレ"は、大きな音と衝撃と共に空から落ちてきた。いや、そう見えただけで空から飛んできたのかもしれないな。だって目の前の"ソレ"は自分が打ち砕いたアスファルトの上で、吹き飛ばした人々の中心で、まるで何事もなかったかのように立っているのだから。


…大きな男だった。それでいて整った顔立ちをした、まるでハリウッド映画にでも出てくるかのような美丈夫だった。刈り込んだ髪と猛禽類のような鋭い目が、近寄りがたい雰囲気を強めているようにも思える。…ただ、その瞳からは、まるで生気のようなものを感じさせないのはなぜだろう。ここまでのことをしているのに、まるで意思というものを感じさせないようなその瞳が、この状況ではやけに気になった。


最もこの吹き飛ばされて地面に這いつくばった状態のオレが何を思ったとしても、相手には関係ないだろうけれど。…そんなことを、まるで他人事のようにオレは考えてしまっていた。


全身が酷く痛む。体を強く打ったらしい。どこかしら骨でも折れてそうだ。腕も擦りむいたのかやけにヒリヒリする。それでも体は起こせそうだけれど、今体を起こすべきじゃあないということはオレでもわかった。


あの男を刺激するべきじゃあない。あの男がなんなのか理解できないし、理解したいとは思わないけれど、あの男が危険極まりない存在なのはわかる。だからこのままこの嵐が過ぎ去るのを待つべきだ。


そう思って地に伏せたままでいると、男の体がふわりと浮き上がった。ああ、安心した。もう大丈夫だ。ほらこのまま飛び去っていく。そう思ったときだった。


「っう…なに…?なん…なの…?」


オレが声をかけようとしていたきれいな人が。うめきながらゆっくりと体を起こした。起こしてしまった。


今、天空に飛び上がろうとしていた男は、ゆっくりと再び地に足をつけた。…きれいな人の方向に体を向けながら。


わかる。顔はこちらを向いていないけれどわかる。あの男は、あのきれいな人にナニかをするつもりだ…!


「ひっ…!い、イヤ…ッ!こっちに来ないで…ッ!」

「………」


男は答えない。答える意味はないと思っているのか、何も思っていないのかはわからないけれど。ゆっくりと歩みを進めていく。


助けないといけない。でも体が動かない。痛みで動かないのじゃなく、恐怖で体が動かない。立ち上がってはいけないと、体の内側から聞こえてくるようだ。向かっていけば間違いなく自分が標的になってしまうと。それが怖くて、どうしても立ち上がれなかった。


ああ、チクショウ。女好きのオレなのに、女の子一人も助けるために動けない。情けない。恥ずかしくって死にたくなる。申し訳なさで胸が張り裂けそうになる。


そんなことを心の中で思っていても、男の歩みが止まるわけじゃない。ゆっくりと、だが確実に、二人の距離は詰まっていた。そんなときに、涙を流して震えるきれいな人と目が合った。唇は小さく動いて、


「助けて」と言っている…ように見えた。


…もしかしたら勘違いかもしれない。そうオレが勝手に思い込んだだけかもしれない。それでも、体の震えが、少しおさまったような気がした。


「…待てよ…」

小さな情けない声が出た。男には届かなかったのか、男は歩みを止めなかった。


「…待てよ…!」

少し大きな声が出た。男の足がピタリと止まった。


「待てよ!」

いつものような声が出た。男はこちらを振り返った。ああ、怖い。でも立ち上がらないといけない。


地面を踏みしめて、震えを我慢しながらオレは、ゆっくりと立ち上がって目の前の男を睨んで見せた。…自分で言うのは恥ずかしい気もするけれど、カッコいいんじゃないだろうか、オレは。


そんな事でも考えなきゃやってられないほど、目の前の男の威圧感は凄まじかった。


わかる。この男が腕を振るうだけで、多分オレはどこか遠くに消しとんでしまう。それが避けようのないことだと、理解させられてしまう。


歯がガチガチと鳴りそうになる。それでも言わなきゃならないんだ。あのきれいな人が無事ですむように。


「お、お前のせいで、オレの出逢いが台無しじゃねねえか。責任、とって貰うぜ」


…声が震えて上手く言えなかった気がするけれど、これだけ言えれば充分だろう。後は不敵に笑ってやれれば最高だ。…体の震えが止まらなくなってきたけれど。


男は虚ろにこちらを向いたまま、腕を振るった。ああ、これで終わるのかオレの人生。


咄嗟に目を閉じ腕で顔を庇いながら、グッバイ、マイライフ。彼女の一人や二人欲しかったなあ。そう思ってオレの意識は途切れる…と、思ったのに。


大きな音が聞こえたけれど、衝撃はなかった。不思議な感覚が腕にあった。痛みではなく、そう、震動のような。


うっすらと目を開ける。そこには先程までと違って驚愕したような顔の男と、光を纏ったオレの腕があった。


「……え?……なんだ…コレ……!?」

「なゼ、キサまマサカ…神ノ力を…ダがドの神が!?」


狼狽と共に、初めて男が言葉を喋る。けれどその言葉は、まるでチューンの合っていない楽器のようにどこかズレている。もしくは音そのものが口と合わずにズレている。


けれど気になる言葉を発した。…神の力?この光が?キサマもって言ったか?…なら、コイツの力は、神の力なのか…?


「…いや、例エナンの神の力を持トウト、コノアレスの力ニハ届くマイ!」

「……ふざけんなよ……」

「…ナんだト?」


怒りが沸々と沸き上がってきた。神の力?つまり神様のせいで今みんなこんな目に合ってるっていうのか?


「ダメだろソレは……っ!」

腕に纏った光が、いや、稲光が一層激しく輝きを強める。オレの怒りに呼応するように。


「その雷光…マサカ…!?」

「神様なら人を幸せにしなきゃダメだろう…っ!」

誰かの声が頭に響く、我が子に我が威を示せという声が。


「ちょっと天空で反省してこいッ!このバカ野郎があああッ!」

「ゼウッ…!?」


…振るった腕から放たれた雷光が男を包むと、天にも昇る光の柱となった。それはまるで…お伽噺のような、綺麗な光景で…。


それを眺めているのは、オレとキレイなあの人で。…あの人のポカンとした、なんだが間の抜けた表情に安心して、



そこでオレの、意識は途切れた。

とりあえずプロローグ終了。

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