導入
神様は理不尽だ。
幸せそうな人々が行き交う日曜日の夜の街のベンチに腰掛けながらオレ、天上真人はがっくりと肩を落としていた。
「みんな幸せそうだね、でもオレは幸せじゃないんだごめんね。さっきデートを断られたからな!…ああチクショウ。オレの二時間と少しを返してくれ。誰だよ春は出逢いの季節とか言ったヤツは。オレの目の前に連れてこい縛り首にしてやる。だいたい四月の頭とはいえ夜は寒いんだぞわかってんのかわかってないよねでもそんなとこも好きだったんだよチクショウめ小悪魔系ですかそうですか。ていうか連絡するならもっと早くにしてきてくれれば良かったんじゃないかなあ!」
一人で捲し立てるように叫びながらベンチから立ち上がると、周りの人が引いていくのが見えた。いいよ別に。今更そんなの気にならないよ。
…そう、本日デートの予定だったオレはドタキャンをくらい大ダメージなのであった。
先日、春休み明けの始業式でオレは、カワイイ女の子をデートに誘うことに成功した。まさかOKしてくれると思っていなかったオレは喜色満面に夕方から待ち続けていたが…。
彼女は来なかった。悲しいことに。
…恨み言をいくらか呟いたりもしたけれど、それでも彼女を嫌いになれそうにないのは、多分生来の性格のせいなんだろう。
昔からオレは女の子が好きだ。どうしてかと言われると困るけれど、女の子が好きなんだから仕方ない。
優しく微笑む姿とか、悲しそうな瞳とか、薄着でわかる体のラインとか、屈んだときのうなじとか。…後半はなんか違うかな…。とにかく女の子が好きだ。そんなオレだから青春真っ盛りな今は女の子とイチャイチャしたい。
…そのがっついた姿のせいか、学校では浮いてしまっているけれど。だからこそ今回のデートを楽しみにしていたのだけれど。『遅くなってごめんね。今日いけなくなっちゃった』のメールが辛かったのだけれど!ダメだ辛さが増してきた。項垂れるってこういうことなんだろうなってくらい肩落ちてきた。
仕方ない、帰ろう。ため息をつきながらそう思って前を向いた時だった。
きれいな人を見た。
腰まで届く黒髪が目を引くきれいな人が。周りの人を惹き付ける輝いた瞳を持つきれいな人が。陶磁器のような美しい肌をしたきれいな人が。男が唾を飲むような抜群のスタイルをしたきれいな人が。まるで美の女神の顕現のようなきれいな人が、オレの目の前を横切っていった。
…運命かもしれない。
今日デートを断られたことが。ここで二時間近く待ち続けたことが。今正面を向いたことが、全て運命なんじゃないかと思えるくらい、彼女に惹かれた。
声をかけよう。この人に声をかけないなんてあり得ない。例え断られるとしても、声をかけなきゃいけない、そう思った。
「あの!すいませんお姉さん!」
高鳴る心臓の音を感じながら声をかけると、その人は振り替えって、なんだか不思議なものでも見るような目をしていた。
「オレ、あなたに、」
一目惚れをしてしまった。そう告げようとしたときだった。
空を引き裂いて、神様が降ってきたのは。