4.歌声
昨日、あれほど荒れていた海は穏やかな波の音をたてています。
ポカポカあたたかくて気持ちがいい朝の海です。木が揺れる音と小鳥のさえずりが聞こえてきます。
嵐の海にのまれたクウは必死になって泳いで、なんとか陸にたどり着くことができました。
けれど、真っ暗だったので自分がどこにいるのか、わからなかったのです。
そして、クウはそのまま寝てしまい、朝を迎えていたのでした。
「ここはどこなんだろう」
目を覚ましたクウはまわりを見ます。けれど島にこんな場所があったのかなと不安になってきました。声をあげようと思ったのですが、昨日の夜に人間の話を聞いたばかりです。
――人間が近くにいるかも。見つかったら殺されてしまうかもしれない。
そんなことを考えると、こわくて助けを呼ぶこともできません。
クウが動けないでいると、歌声がどこからか聞こえてきました。
――誰の歌声なんだろう。
そう思いながら、クウは長い首を伸ばします。長い首を伸ばすと遠くまで見えるからです。
すると、大きな大きな石造りの家が見えました。高い塀や水の堀に囲まれている立派な家です。クウはその時は知りませんでしたが、それはお城でした。
歌はその大きな家の上のほうの窓から聞こえてきていました。
そこにはクウが見たこともない生き物がいました。すぐにクウはわかりました。
――あれが人間なんだ。と。
――人間はこわい生き物。
けれど、クウは仲間とは違う美しい声にひかれて、人間を見つめ続けていました。