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紛争

「海賊船団?」

「ええ、おそらく」

 わたしたちが急いで艦橋にもどると、艦橋のほうに待機していた船員が状況をおしえてくれた。

 不審な船団がわたしたちの船に近づいてくるのがレーダーに映ってるらしい。

 一応、信号は商船に偽装しているが、この宙域ではほとんど商船は通りかからない。来るのは学校関係者の政府系の船ぐらいだ。それが5、6隻も連なってるのでは、ばればれである。


 海賊船は文字通り不法者たちが乗る船のことだ。

 宇宙は広い。この時代になっても、隠れるような場所はいくらでもある。それにユーニティア政系にも汚職はある。海賊たちの身辺隠しや物資の横流しに協力している政務官はきっといるだろう。

 しかし、最近、特に海賊の活動が活発になった原因は、エーフェ銀河帝国の影響が大きい。

 エーフェ銀河帝国はM110において、15%を支配する国家だった。

 だからといって、彼らはユーニティア政系より小国というわけではない。

 彼らの本領はアンドロメダ銀河の20%をしめる地空域だ。それだけでユーニティア政系の何倍もでかい。

 しかし、彼らは同じくアンドロメダ銀河に領域をもつソーヴィエ・シーナ民主連邦と戦争状態にある。

 そして戦況はあまり芳しくない。


 そこで目をつけてきたのが、天空域では近場であり、あらかじめ領空域を持ち、資源惑星もそれなりにあるM110である。

 少しでも戦力を増強したい彼らは、ユーニティア政系にエーフェ銀河帝国の属国に下れと要求してきた。

 だが、わたしたちが先祖の移民船団から受けついだ言葉は「自由」と「正義」。

 わたしたちはその要求を突っぱねたのだった。


 それからは彼らは、小国とはいえ2方面と戦火を交えるのはまずいと思ったのか、ちくちくとした嫌がらせをはじめてきた。

 そのひとつが海賊船団への援助だった。

 いろんな地方で、海賊活動の活発化や、装備の充実が伝えられている。


「小惑星群に隠れてたみたいで、近づくまでは感知できなかったの。構成はわたしたち同じ小型船が4隻、母艦と思われる中大型船が1隻。この戦力でハーベルト相手は荷が重いから孤立した船を狙ってきたんでしょうね」

「うーん……」

 みんな困った顔になる。

 エンジンが万全なら、逃げるという手もある。

 しかし今、こちらのエンジンが一機故障している。

 さすがにこれでは逃げ切れるか怪しい。


「エンジンの修理にはどれくらいかかりそう」

 フェイがコンスタンティアにたずねる。

「圧力室がやられてるみたいだから、溶接作業が必要だ。少なく見積もって3時間はかかる」

「敵の到達までは1200秒もない……。無理ね……」


「武装は?」

「まともな武器は竜子転移機雷が2個だけ。あとは小岩石排除用のプラズマ砲ぐらいです」

 竜子転移機雷は、触れた部位を問答無用で3次元格納2次元拡張空間に飛ばす兵器だ。

 強力だけどさすがに2つじゃ足りない。

 プラズマ砲にいたっては、宇宙船の装甲を破れるかすら怪しかった。


「もう一回、天空域に逃げ込めない?」

「飛翔航行したばかりだから、活性が回復するまでは時間かかるよ」

 どうにも手詰まりな状況だった。


 解決策のでない話し合いに、フェイが決心したように腕を組んで宣言した。

「仕方ないわね。竜騎兵を発動させましょう」

「竜騎兵ですか!?」

 フェイの言葉に、みんなざわざわする。

「乗船員には必ず一人、竜騎士を搭乗させる決まりだったはずよ。出てきて」

「あ、はい。わたしです」

 わたしが手をあげた。

 なぜか後ろでベリルたちがあちゃーっと額をおさえている。


「あ、えっと…、ユーミさん……。他に……、いないかしら?」

 フェイがいつもと違って歯切れの悪い口調でたずねなおす。

「いませんよ。だってわたしが随伴竜騎士担当してますし」

 何を当たり前のことを。優秀な指揮係りであるフェイらしくない質問だった。

 フェイの言ったとおり、竜騎士は必ず一人搭乗させる決まりになってる。

 規則的に一人いればOKなので、基本一人しか乗らない。


 次の瞬間、みんなが頭を抱えだした。

「ユーミってあの伝説の!?」

「模擬戦連敗記録を1000年ぶりにぶっちぎりで塗り替えた!?」

 わたしとあまり親しくない子たちが叫ぶ。


「誰よ。この子でOKだしたのは!」

「だって安全空域だったし、まさかこんなことになるとは思わなかったんだもん!だいたいエンジンが故障しなければこんなことにはならなかったじゃないですか!」

「なに!?エンジンが故障するのなんて宇宙では当たり前のことだ!そういうときに備えて二重三重の備えをしておくのが、きちんとした仕事というものだろう!」

 上等生たちが責任の押し付け合いをはじめた。


「あんたが悪いわけじゃないけどさぁ……」

「この状況でないわぁ……」

 友達まで!?


「もう、おしまいだー!」

 わたしが手をあげただけで、船内はパニックに陥った。


「みなさん落ち着いてください!」

 わたしは彼らを落ち着かせるように、部屋中に響き渡る声で叫んだ。

「大丈夫です。みんなの心をひとつにすれば、あきらめるような事態じゃありません」

 みんなの視線がわたしに集まる。

 そんな彼らにわたしは笑顔で自分の胸をたたいてみせた。

「この竜騎士ユーミ=ステラに、どんっと任せてみてください!」


「あああああああああ、おしまいだああああああああ!」

「ここでしぬのかあああああ!ちくしょううう!まだ17歳なのにいいいい!」

「ユーミ…、あんたが悪いわけじゃないけど、やっぱ恨むよ……」

 まったくパニックはおさまらなかった、どころかさらに酷くなった。


「ユーミの言うとおりよ。みんな落ち着いて」

 その恐慌パニックを貫くように、フェイの声が響いた。

 いつもの落ち着いた表情に戻ったフェイは、真剣な顔で船員たちを見つめる。

 船員たちの声も静まり、フェイへと注目が集まった。

 フェイの口が開く。


「みんな心を落ち着けて、今から神にお祈りをしましょう。きっと奇跡はおきるわ」

 そのままフェイは手を結び、あらぬ方向をみつめて、何かをぶつぶつつぶやき始める。

 ああ、一番だめなパターンだった……。

「フェイって神奉主義者だったのか……、いまどき珍しい」

「神っているの?」

「万が一いたとしても、地球が滅びたとき死んでるでしょ」

 この銀河の時代、神を信じる人間は絶滅危惧種だ。

「で、どうするよ……これ……」

「指揮係りがこれじゃあなぁ……」

 フェイの取り乱しっぷりに、まわりは落ち着いてしまったが、だからといって渦巻く絶望的な空気は変わらない。


 そんなとき自動ドアが開き、ひとりの少女が飛び込んできた。

「いたわよ!」

 食料係りのケニーだった。一見すると地味な少女だが、よく気がつくと一部では評価が高い。

 そのケニーに襟元をつかまれ半ばひきずられるように、小柄な少女が艦橋に運ばれてきた。


 流れるような長い黒髪に、あまり表情の読めない黒い瞳をもつ少女。

 なぜか、その左腕には買いだしで買ったはずのココア味のたんぱく質食料が何袋も抱えられていた。

 そしてケニーに襟首をひきずられ、みんなの注目をうけてもなお、少女は無表情でひとつ開封しているココア味のたんぱく質食料に手を突っ込み、ひたすら口もとに運び続けていた。

 この少女を、船内にいる誰もが知っていた。


「マオ=メイリ!?」

「若手十騎士の第六位の!?」

「ちゃんとした竜騎士がいたのね!」

「あれ、でも船員登録されてないわよ」


「密航してたの。食料庫の質量変化がおかしいから、誰かが盗み食いしてないか監視してたんだけど、この子が原因だったみたい。コンソール見てたら、みんな艦橋に集まってたのに、また数字が変わってたから見に行ったら」

 そんなことを話してる間に、マオはひとつめのたんぱく質食料を食べ終え、ふたつめを開封して食べ始めた。

 あまりにも堂々としすぎていて、彼女がいることに戸惑っているわたしたちのほうがまるでおかしなようだった。


「なんで密航なんてしてたの?」

 アビーがもっともな質問をする。

「シア連星系のたんぱく質食料はおいしい」

 彼女の答えは簡潔だった。

 どうやら食料目当てだったらしい……。見ればわかるけど。


「密航は規則違反だけど……」

「これは見逃すしかないよねぇ……」

 宇宙船の食料に手をつけるのもかなり重大な規則違反だけど、もうすでにみんなの心は決まってた。


 全員が神に祈るように、マオに手をあわせてお願いする。

「マオさん!わたしたちかなりピンチなの!エンジンが故障してるのに、海賊船に狙われているみたいで。お願い、竜騎士として出動して!」

「わかった」

 三袋目のたんぱく質食料を口に運びながら、マオ=メイリはあっさりと頷いた。


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