竜人(ノーマル)の力
通常宙域に戻ってきたわたしたちだが、一度宇宙船を停止して修理に入ることになった。
指揮をとるのは整備係りのコンスタンティア。
「船外の外圧はもちろん0、宇宙線量は恒星系じゃないので低いですが、油断はしないように
全員、竜子細胞を30%以上活性化させて。調子の悪い子は、前も言ったけど別の子と交代すること」
宇宙船の外にでるための加圧式扉。その前に、10人ぐらいの少年少女が待機している。
わたしたちは宇宙服をつけていない。
それというのも、竜ほどめちゃくちゃではないが、わたしたちも不思議な力をもってるからだ。
みんなの体を淡く青い光が覆いだす。
自分たちの中にある竜の力を呼び起こしているのだ。
「それじゃあ、この区画を遮断。扉を開けるわ」
船内に繋がる通路から隔壁が降り、宇宙へと繋がる加圧式扉が開く。
一瞬で、わたしたちの周囲は真空と化した。
普通の人間――といっても今はほとんどの人が竜人なので普通の人のほうが珍しいのだが――なら一瞬で血液が沸騰し、体が破裂して死に至る環境。
それでも、わたしたちは平気だ。
竜子細胞を活性化させた第一状態。この状態なら、わたしたちは宇宙空間で空気がなくても活動できる。内圧と外圧の差や、宇宙線、ほとんどの環境変化から体が防御される。
持続時間は人によるが、3時間から24時間ほど。
外政府管理下の学校に通う子はみんなこれができる。
ほかにも慣れれば姿勢制御や、運動量にちょっとした変化をつけるぐらいならこの力でできる。
わたしたちはミルフィアの外に飛び出し、エンジンの方へと向かう。
「壊れてるエンジンはどっちだっけ」
同じく修理班に選ばれたベリルが聞いてくる。
「艦橋から見て右のほう」
「あっちかぁ」
空気はないけど、会話もできる。
先行していたコンスタンティアに追いつくと、困った顔をしていた。
見ると、エンジンに細くて長い岩石片が刺さってた。どうも金属が主成分らしい、周囲の光に照らされきらきら光ってる。
「あちゃー、ずいぶん深く刺さってますね」
エンジン本体には刺さってないみたいだけど、圧力調整部位ぐらいには到達してるかもしれない。
このせいで、エンジンの圧力がうまく調整できなくなって、停止しかけているのだろう。
「かなり細いから、宇宙塵排除銃にも反応なかったのかもしれませんね」
「うちのは精度悪いからねぇ」
「どう?中にはいれそう?」
「これが邪魔になってて、だめみたい」
厄介なことに、わたしたちの船にぶつかった岩は、エンジン部分の扉をふさぐように突き刺さっていた。
「ユーミ、なんとかできない?」
ベリルにそう言われ、わたしは胸を叩いた。
「まっかせなさい!」
わたしが右手を広げると、そこに剣が出現する。
わたしはそれを振りかぶり、エンジンへの扉をふさぐ岩石片に対して振り下ろした。
次の瞬間。
わたしの剣はぽっきりと折れて、飛んだ先端部分がわたしの頭に突き刺さった。
ぴゅーっと頭から血が吹き出る。
「あうー……」
「ごめんね、頼んだ私が馬鹿だった」
「わたし真空突出機もってくるね」
何事もなかったように、まわりのメンバーは作業を続行しようとする。
そのとき、警報がなった。
コンスタンティアがさっきまでとは違う緊張した面持ちでみんなに叫んだ。
「指揮官係りから緊急命令!みんなはやく船内に戻って!」