風受け
結局、天空域滞在中は、セーブのないシューティングゲームをやることになった。
正直言って、糞ゲーだ。敵の配置がめちゃくちゃで、しかもやたら数をだせばいいと思ってる。
クリアさせる気ないだろう。
あ、またやられた。
「あとどれくらい?」
「もう300秒くらいかな」
後ろではベリルとリーがボードゲームをしてた。
すると、指揮官係り命令で召集がかかった。
召集といっても、わたしはずっと艦橋にいるんだけど。何人か、外で休憩していた人たちが走ってもどってくる。
全員がそろうと、フェイが全員の前に立つ。後ろには整備係りのコンスタンティアが。
みんな何事かといった顔だ。
「コンスタンティア、説明して」
「ああ。みんなに残念な知らせがある。
エンジンデータを解析したところ、右の核融合エンジンに異常が発生していることがわかった。
現状は動いているが、このままだと反応が低下して、道中で止まると思われる」
「故障かー」
「うちらの宇宙船古いもんねぇ」
「シートだってガタガタしてるところあるし」
「制御ソフトも旧式で最新のゲームが入らないんだよ~」
「静かに!」
ざわざわと騒ぎ出したみんなを、フェイが一喝する。
「そこで通常地空域に下降したあと修理する。修理係りはベリルを代表として、操縦船員の半分を回す。もし体調が悪いものがいたら申し出るように」
「はーい」
修理する船員はコンソールに表示されていた。
わたしも修理班だった。別に体調も悪くないしOKした。
それからおおよそ200秒後。
「ミルフィア、目標平面座標に到達しました」
「よし、ミルフィアを停止。その後に風羽を展開しろ」
「はい!」
この空間での推進力は、皮膜の形状によって得られている。前進のときは前方の皮膜が膨らむ。これにより、狭い空間からの圧力を受け前進をしているのだ。
停止時にはこれを球状にする。
「皮膜の形状、球状形態に変遷。ミルフィア、運動停止」
「竜骨を超活性化させます。竜骨活性55%を突破、風羽を展開していきます」
船の周りの青い光が濃くなっていく。わたしたちでは確認できないが、もし観測者がいるなら、空間を斜めに横切る光の羽が見えるだろう。
「ミルフィア、風受けをはじめます」
一般的な話かは知らないが、この宇宙の物体は、実はみんなとてつもない速度で動いている。
たとえば、アンドロメダの銀河のまんなかあたりの星、これはだいたい300km/sぐらいの速度で銀河のまわりをまわっている。わたしたちのM110はもうちょっと遅い。
自分たちも銀河にいるときは、だいたい同じ速度で動いているから何も問題ない。基本的に宇宙空間における速度0とは、この速度のことである。
だが、これが外から進入するとなると話が違う。
もし本物の速度0で銀河の中に出現したりすればどうなるか……。
1秒で何百キロメートルも移動する巨大な質量物体たちに、横合いから殴りかかられ、宇宙のミンチになること間違いなし。
この平面空間では、飛翔した時点で通常空間での運動量は失われている。
だから、相対速度をもう一度、降りる場所にあわせる必要があるのだ。
それが風受けである。
竜たちに言わせると、この宇宙には風が吹いているらしい。
ただ、通常の物質はこの風の1%ほどしか影響をうけてないのだとか。
回転する銀河には同じく回転する風が吹いているし、宇宙の何もないようにみえるところでも、まっすぐだったり、くねくねしてたり、いろいろな風が吹いているらしい。
天空域から下降する船はその前に羽を広げて、その銀河と同じだけの風を受けることにより、銀河を回る星と同じ相対速度を得ることができるのだ。
竜たちの言ではこの風をもっと受けると、もの凄い速さで飛べるらしい。
いちど遊びで100%の風を受けてみたところ、体が銀河のまわりを超光速でまわったあげく、惑星と竜の衝突とか、質量崩壊とか、恒星の爆発とかが一気に起きて、その銀河が吹き飛んでしまったらしい。
わたしたちの銀河では絶対やらないでくださいね。お願いしますから。
「風受け完了しました」
「よし、下降開始」
風を受け終え羽をしまい終えた宇宙船は、通常空間にもどっていく。
藍色の空間が漆黒に染まっていき、星の輝きが外の景色にもどってくる。通常空間に帰ってきたのだ。
ここは、シア連星系から100光年離れた惑星系。
非恒星系の星としては最大級の質量をもつ褐色矮星テセロスを中心にして、その周りを小惑星たちが群れをなし周っているアステロイガーデンと呼ばれる地空域。
いまわたしたちがいるのはその前庭だった。
わたしたちの母船ハーベルトは、現在テセロスと小惑星群の中間地点に停留している。