アクシデント
天空域に上昇してからは、やれることは少ない。
レーダーに浮かぶのは、この周辺域の地図だ。
天空域は狭いといっても通常宇宙に比べればの話であり、小さな人間たちが見渡せるほどには広くない。
レーダーには場所ごとの三次元座標とこの空間での座標が表示されている。
ところどころ斜めに横切ってる線は時空の断層だ。そこからは三次元座標が一気に変わるので気をつけなければならない。
そしてとても大きな丸は、おひるねする竜たちがいる場所だ。
彼らには政系の法律で一定以上は近づいてはいけないと決まってる。
同時にこの巨大な竜たちの波動が、この空間を移動する上での目印の役目をしてくれる。
近くにいる竜は、パロメスと呼ばれる中型の竜だ。
中型といっても、わたしたちの船よりははるかに大きいけど。
「進行方向、パロメスから2時方向固定できました」
「それじゃあ、このまま慣性航行に移るわ。ミルフィアは4860秒後にアステロイフロントの地空域に対して下降。通常宙域を航行して、母船ハーベルトに合流します。
下降までの間は休憩だけど、基本的には自分の担当の場所にいるようにして」
そう言われて、わたしはコンソールにインストールしてあるゲームを起動した。
本当はいけないのだけど、宇宙では暇な時間があるので黙認されている。
わたしはいくつかあるゲームのうち、RPGを立ち上げた。セーブはすでに三つ埋まってる。
わたしはその中で一番レベルの低いデータを削除しようと、カーソルを動かした。
「あー!それわたしのデータ!消すのやめて!」
するとうしろにいた同級生のベリルが叫んだ。
「えーっと、じゃあこれを」
「それはわたしの!」
今度は砲手係りのリーの叫び声があがる。
最後のひとつにカーソルをやると。
「だめだめ!それわたしのなんだもん!」
衛生管理係りのアビーが。
「ふむ……」
わたしはあごに手をあて一瞬、考え込んだ。
「わたしにはこのデータを消す自由と権利がある!」
そして全部消去すべく、オールデリートの文字にカーソルを合わせた。
「だめっていってるでしょ!」
「ふざけるなヨ、この視力補助装置!」
「もう、ユーミちゃん、やめてよ~」
ゴスッ!ポカッ!バシィッン!
わたしの自由と権利は、三人がかりの暴力的な措置により床に張り倒された。
「あうー……」
これが民主主義か……。
ちなみにいつもかわいこぶってるアビーの一撃が一番痛かった。
「フェイ、ちょっといいかな」
「どうしたの」
「ちょっと、ここのグラフを見てくれないか。エンジンの出力なんだが……」
わたしたちの後ろではフェイと、整備担当のコンスタンティアがなにやらまじめな話をしていた。
(エンジン……?)
このミルフィアは、お世辞にいっても、最新艦船ではない。
もしかしたら、故障でもしたのかもしれない。