竜が与えてくれたもの
竜と出会った人間はその遺伝子を与えてもらい、船内すべてに蔓延していた遺伝子病やいろんな病を駆逐することができた。
そして以前より少しだけ強くなり、生息環境に少しだけ余裕をもつことができたわたしたちは、バイオスフィアを建てなおし、種族生存のための旅を再開することになった。
そんなわたしたちに竜が教えてくれたのが、
竜曰く『近場のお前たちでも住めそうな星』である。
それを聞いたわたしたち人類は喜んだ。
全滅の危機から救ってもらえただけでなく、人類があらたに生きていける場所まで教えてもらえる。
自分たちの宇宙船よりも大きな体をもつ、神のような巨大生物に感謝した。
そうして教えてもらった人類の第二の故郷になると希望を抱いた星は1万4600光年先にあった。
わたしたち人類が何十と世代を重ね、ついには全滅しかけながら必死に進んだ距離が42光年。
どう考えても絶望な距離だった……。
宇宙船ミルフィア1305の艦橋。
オペレーター係りになっているわたしは、目の前のホログラフに表示されている文字を読み上げた。
わたしがかけている視力補助装置がカチャリッと鳴る。
「現在座標、グーノス首から弧度1.2π、距離1324.3LR。カルターゴ首から弧度0.34π、距離324.5LR。シルヴァン首から」
「竜首法はわかりにくいから、地空域名で言って」
(マニュアルではこれが正しいのに……)
「えーっと、シア連星中心から距離約12.35億マィルのサザンドラ地空域です」
「もうすぐ目標の上昇点ね」
ミルフィアは0.2マィル(340メートル)ほどの小型艦船だ。
30人ほどで操舵できる。艦橋では、わたしと同じ学校の生徒たちが、それぞれの持ち場で作業をしている。
指揮をするのは上等生のフェイ=ファラオン。黒髪の怜悧な美人だ。
この小さな船がわたしたちの学校というわけではない。
買い出し用や、研修、雑務用の船だった。
いまはシア連星系の居住可能惑星リシアに買い物にいった帰りなのだ。
シア連星系は、中心部にふたつの恒星をもつ、この銀河の時代でもわりとめずらしい連星の恒星をもった恒星系だった。
ふたつの恒星はほぼ同じ周期で、この恒星系の中心を8の字をえがくようにまわっている。
だからか、この連星系の居住可能惑星である第四惑星のリシアは、やたらと20日程度で季節が変動するせわしない星だった。
「上昇ポイントまでは、あとどれぐらい?」
「えっと、3982秒で上昇ポイントの地空域まで到達します」
わたしの反対側に座るジェニーが、フェイの質問に答える。
「わかったわ。竜骨をそろそろ起こしましょう」
「はい、竜骨の活性化させます。活性開始、0.02%…0.08%…0.12%…、数値順調です。到着までに、上昇可能数値まで到達するはずです」
いまの時代、宇宙船は竜骨と呼ばれる竜の骨を軸にして船体が作られている。
この時代になっても、わたしたちは光速航行をすることはできない。
一方、竜は光の速さをはるかに越え、その数倍から何千倍もの超光速航行を行うことができる。
竜たちに言わせると、わたしたちには根性が足りないらしい。
曰く、『確かにちょっと抵抗みたいなのはあるけど、がんばれば普通に越えられる』のだそうだ。
竜と出会い、新たな居住可能惑星の場所を教えてもらい、それがはるか彼方にあると知って、わたしたち人類はふたたび絶望した。
そんなわたしたちに竜は『もしかしてお前ら光よりはやく飛べねーの?』と、きわめて不思議そうに聞くのだった。
当時の船の速度が光速の1~2%ほど、それでも気の遠くなるような距離を、貴重な燃料を常に消費しながら加速しようやく到達できた速度だった。
この速度で教えてもらった星につくのは軽く見積もって100万年後。
一度助かった命とはいえ、そこから軽く10回ぐらいは絶滅できそうな時間だった。
そんなわけで困り果てたわたしたちに竜が与えてくれたのが、竜の骨だった。
訂正 420光年→42光年
訂正 竜首法のセリフ内の数字を短くしました。LRを小文字から大文字にしました。
捕捉(読む必要ないです)
竜首法は、通常の宇宙空間で眠っている竜の首を0とした角度と、そこからの距離によって座標をあらわす方法(という設定)です。
船に装備された竜骨の力で、三匹の竜の位置を感じ取り、そこからの角度と距離を測ります。
それぞれの竜はブラックホール内で休眠しているという設定で、体の位置や角度は固定されています。
グーノスがM110の中心部、カルターゴはM110の外にある孤立したブラックホール、シルヴァン首はアンドロメダ銀河中心部(のブラックホール)にいる竜です。
LRはそのまま光年をあらわしますが、言葉がなまったせいで今のlyからLRに変わってしまっているという設定です。
細かく数字を書かないと、もの凄くアバウトな距離になってしまうのですが、その細かい数字も桁だけなんとか取り付くろったもので、数字自体はかなり適当だったので目がすべるのでやめることにしました……。
自分用にメモを残しておくと数字は小数点13桁まで書いてました(たぶん)。船の大きさのひとつ上のキロメートル単位まで表現できるようにと思って設定した気がします。
これを地の文に書きたかったのですが、入らなかった上に、ほぼ死に設定になりそうなのであとがきに書いておきます……。
訂正 船の名前間違ってたので訂正しました。