竜の遺伝子
ここは人類が生まれた場所、天の川銀河から241万光年離れたアンドロメダ銀河。そのさらに、周りをまわる小さな衛星銀河M110である。
地球がかつてあった場所から、はるか遠くに離れたここでも、人が暮らす社会は作られている。
故郷の星を追い出され、宇宙を流浪する民となり、ついに命がつきかけた人間という種族は竜と出会った。
そして竜は、人を助けた。
気まぐれか、親切心か、竜はわたしたちにさまざまな贈り物をくれた。
そのひとつが竜の遺伝子だ。
遺伝子の病と、宇宙船に蔓延った病気を、竜の遺伝子は駆逐した。
宇宙線が常に飛び交い、空気のない宇宙空間。
そこを渡り歩く竜の強靭なる生命の一部が、人間たちに宿ったのだ。
人間という種族は、これにより新たな変革をとげた。
いまや人間の生態圏は、はじまりの銀河、天の川銀河から、アンドロメダ銀河、そのまわりをまわる複数の伴銀河にまで広がっている。
宇宙規模で膨大な数に増えた人という種族。
そのほとんどが竜人と呼ばれる竜の遺伝子を受け継ぐものたちだ。
M110のほぼ8割を占めるユーニティア銀河政系のもととなったのは、ウーサ船団と呼ばれた宇宙船団の子孫たち。
はじまりの話の船団たちとは別の船団だが、ウーサ船団の人間も彼らに遅れて竜に出会い、竜の遺伝子を与えられ同じような危機を乗り越えた。
そうして、M110で繁栄することになった。
ユーニティア銀河政系では、居住可能な惑星ーー今では移住技術も発達しテラフォーミングに成功した星もたくさんあるーーに住み小さな政府を築くものたちと、宇宙船に乗り宇宙で暮らし大政府に所属するものたちに分かれている。
それを分けるのは、おもに竜の遺伝子の発現率の違いだった。
竜の遺伝子を強く受け継ぐもののほうが、環境変化の大きい宇宙に適応し暮らしていけるのだ。
ユーニティア銀河政系に所属する子供たちは竜の遺伝子の発現率を検査され、一定以上のものは中等生になると学校でもあり宇宙船でもある船に住み、操船技術や宇宙で暮らす術を学んでいくことになる。
その数はだいたい7~8割ぐらい。
たいていのものは宇宙で暮らすことになる。
わたし、ユーミ=ステラもそんなごく普通の学生の一人だ。