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竜に託した願い

 仮想空間の中で対峙する白と黒の竜騎兵。

 先に動いたのは白の竜騎兵の方だった。


「いくよ」

 クリスがそういった瞬間、空間の両端にいたはずのホワイトワンとルインブラックの距離が一瞬で詰まる。

 ホワイトワンの速度はND。つまり亜光速で自身が移動できるのだった。

「くっ」

 序盤から距離をつめてくると思ってなかったクロトは不意をつかれる。


 ホワイトワンがルインブラックと肉薄するとともに右手を振る。すると、その場所に光の刃が生じた。


 光子ブレード。

 通常のレーザー兵器というのは、光がもつ波の性質により保有される振動によるエネルギーを利用して、対象を焼き切るものが多い。

 しかし、ホワイトワンの光子ブレードは、空間内におそろしいまでの密度の光子を集積し、その光圧により文字通り物体を切断する。まさに光の剣といえるべきものだった。

 エネルギーで焼き切るだけの光線兵器なら、それを反射したり透過したりすることで防御できる。

 しかし、本来は微小なはずの光の圧力で攻撃するこの剣は、そんなものでは防ぐことができなかった。

 鏡で防ごうとしても、鏡が光に触れた瞬間、光圧により切断される。

 物体の硬度をあげても、光子を物理的に破壊する術がない以上、光圧がそれを上回れば寸断される。

 防御不能でありながら、光の速さをもつ宇宙最速の剣戟。

 それがホワイトワンの光子ブレードだった。

 しかも、ホワイトワンは目視可能な範囲なら、この光子ブレードを自由に発生させることができるという反則っぷり。


 ただし弱点がないわけでもない。

 その異常なまでの光子密度を実現するために、実体化できる刃の大きさは10メートル程度が限界だった

 また発生してからの到達速度は光速そのままであるが、発生するまでの予備動作はホワイトワンの動作速度に依存する。

 なのでその動きに反応して、刃のでる位置をよめば、一応回避することはできた。

 それでも動作性はA+、速度にいたってはND。それを避けることは、並大抵の動きではできない。

 

 不意をつかれたとはいえ、ルインブラックも動作性は互角のA+、発生した光の刃をなんとか回避する。

「てめぇ!舐めたまねしやがって!」

 クロトは苛立った叫びと共に、肉薄したホワイトワンへ反撃だと腕をふりかぶる。

「甘いよ、クロト」

 だが、ホワイトワンは亜光速でその攻撃範囲から脱出する。


 そしてもう一度、今度は左腕を振り、今度は遠距離から光子ブレード展開した。

「くそ!」

 再び発生をはじめた光子ブレードに、ルインブラックは振りかぶっていた腕の軌道をかえて、その黒い爪を光子ブレードに触れさせる。

 次の瞬間、光子ブレードが、あとかたもなく消失した。


 ホワイトワンは左右の腕を振り、光子ブレードを連続で発生させていく。

 その動きをトレースするように、ルインブラックが爪を振りかぶり、発生しかけた光を消滅させていった。

 仮想宇宙空間に光が瞬いては、消えていく。


 本来はどんな手段でも破壊不能な光子ブレードを消滅させたルインブラックの爪。そのまわりには空間を湾曲させて見える何かか渦巻いている。


 それはゲージ粒子破壊因子と呼称されるものだった。

 ゲージ粒子とは、この宇宙に存在するすべての力を伝播している粒子のことだ。

 グルーオン、ポゾン、グラビトン、そして光。

 原子核の中で陽子と中性子を結びつける力も、原子と電子を結びつける力も、原子が集まり分子となる力も、それらが複合しこの世のありとあらゆる生命や物質を形作る力も、すべてゲージ粒子が伝播している。

 ルインブラックの爪から放たれる因子は、そのゲージ粒子を破壊する。

 力を伝播する粒子を失った電子や陽子、中性子、さらにそれを構成する素粒子は、物質間の相互作用を一切働かせることができなくなる。

 それは存在しないのと同じになることだ。つまり死に等しい。

 強制的に寿命を迎えさせられた素粒子は、それそのものも自壊し消えていくことになる。


 ゲージ粒子破壊因子が死をもたらすのは素粒子だけではない。

 通常の宇宙空間は、対象性を持つ素粒子が相生成し対消滅するエネルギーで、その広さを支えられている。ゲージ粒子破壊因子はその機構に死をもたらす。

 自らを支えるエネルギーを失った空間は、急激に収縮し閉じて消滅する。


 この宇宙に存在するすべてのものを破壊する力。それがルインブラックの爪の力だった。


「ふふふ、相変わらず物騒な力だね。さすがにとち狂いすぎじゃないかなって幼馴染としてアドバイスしとくよ」

 クリスは笑いながら、光の刃を連続で放ちながら、ルインブラックの後ろにひとつ織り交ぜる。

 よんでたかのように、ルインブラックは発生前に全力で前進加速し、後ろから伸びてきた光の剣を後ろ手の爪で引き裂くと、ホワイトワンへと飛び掛った。

「とち狂ってんのはてめぇの方だろ!あいつの真似事なんてはじめやがって!」

 ホワイトワンは手の中に光の剣を発生させ、飛び掛ってきたルインブラックを斬りつけるが、ルインブラックの爪が相手では、つばぜり合いすらできずに消滅していく。

 ルインブラックはそのままホワイトワンへ爪を向ける。

 しかし亜光速の移動速度をもつホワイトワンは、あっさりとその爪が届かない範囲まで逃れる。


「真似ごと?違うよ、真似なんかじゃない。僕は本物になるんだ。彼女がめざしていた、本物にね。それがこの力さ」

「なら俺はすべてをぶち壊す!そのためにこの力を手に入れた!」


 暗い仮想空間の中で、光がはじけては消失していく。

 二匹の竜騎兵の激しい攻防が展開されていった。


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