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頂上決戦?

 ユーリが都市区に戻ってくると、食堂前に設置されている大型スクリーンの前に人だかりができていた。

 周囲を見回すと、薄情なベリルもいる。

「あ、無事だったんだ」

「当たり前だ」

「それより、もうすぐ模擬戦がはじまるのよ。ブランさまの応援しなきゃ!」

 ユーリをドックにひとり置いていったベリルは、まったく悪びれる様子なくユーリの帰還を流し、彼女が夢中な白の王子へと話題を移した。


 食堂近辺にいる人間はみんな集まってるのではと思うほど人は多かった。

 今回の模擬戦にみんな興味津々のようだ。

(わたしのときは、誰も集まらないくせに……)

 ユーリは世の不平等を恨んだ。


 いろんなところでこの模擬戦についての話が交わされている。

「生徒会長と黒獣。事実上の頂上決戦かぁ」

「あれ、でも会長は若手騎士の1位だけど、黒獣は4位だし、まだ間に二人いるんじゃねーの?」

「黒獣は授業さぼったりするから、上層部が評価を低くしてるんだよ。実際は会長に並ぶぐらいの使い手だっていうぜ」

「どうなるかなぁ。やっぱり本命は会長だろうけど」

「いやぁ、でもクロトの竜騎兵ももの凄いぜ」

 生徒会長であるクリスも、普段は怖れられているクロトも、竜騎士としてのまわりの評価は抜群に高いようで、みんなこの対戦に興奮が抑えられないようだった。


「だ、大丈夫かな。ブランさま怪我したりしないよね」

「怪我するわけないでしょ……。シミュレーションなんだから……」

 王子様への恋情で頭の沸いたようなことをいうベリルに、ユーリはうんざりとした気分で言った。


 模擬戦はいわゆる仮想空間でおこなわれる。

 超大型宇宙船のマザーコンピューターを利用したもので、かぎりなく現実に近い。

 各竜騎士の竜騎兵のデータはあらかじめ測定されていて、それに基づいて仮想現実上でもシミュレートされる。

 感覚などは直接神経に伝播されるので、慣性や衝撃などもほとんど現実のように感じられる。


 わざわざ手間をかけてこんなことする理由は、竜騎士同士で闘うと殺し合いになりかねないからだった。

 各々の竜騎兵の性質を理解し、活用の仕方を身につけること。

 見学している生徒たちは、そこから竜の細胞の扱い方を学ぶこと。

 これがこの訓練の名目だった。

 実際のところ、見学する生徒たちには娯楽にしかなってないが。


 特に若手騎士のチャンピョンが決まるというこのカードは、学生たちをいろんな意味で白熱させていた。

「おーい、もう賭ける奴はいないかー。現在倍率は会長が1.86、黒獣が2.10だ!締め切りは試合開始までだぞー」

(賭けなんかやって……。見つかったら怒られるぞー)

 そう思いながらもユーリは少し考えて、賭けの募集をやってる人間を呼び止めた。

「クロトとクリスに10UNドルづつで」

「え?いいんですか、お客さん。確実に損しますよ」

「いいのいいの。電子端末のお金で大丈夫?」

「あ、すいません。現金だけなんです」

「あいあい」

 同じ生徒なのにお客さんって何だと思いながら、ユーリは財布からお金をだして渡した。

 すると、クロトとクリスに賭けたことを示す紙を二枚渡された。 

 確認してみると、ご丁寧に透かしまで入っている。

(本格的だこと。こりゃ、新聞部も絡んでるなぁ)

 ユーリは苦笑いした。

 恐らく電子データが絡むと足がつきやすいので、こうやって物理メディアで全部すませてあるのだろう。これを考えた人間は、それなりに頭がまわりそうだった。


「おい、はじまるぞ!」

 集まった人たちからそんな声が上がると同時に、スクリーンに映像が映った。

 遠くまで広がる黒い空間と、そこに浮かぶ岩や石などの星屑たち。標準的な宇宙空間だった。

 そのスクリーンに映る左端と右端に、二人の生徒が向き合って立っていた。

 クロトとクリス。

『それではこれより、若手騎士順位第一位クリス=ブランと、若手騎士順位第四位クロト=キサラギの模擬戦を開始します』

 スピーカーから声が流れる。

 民間の映像メディアのような煽情的な声ではなく、機械的な平坦な音声だった。当然だが。

 それでも場は一気に盛り上がる。

 二人の体が青く輝きだした。

「でるぞ!」

 誰かが叫ぶ。

 二人の体が同時に光に包まれた瞬間、二体の竜騎兵が出現した。


 奇しくもふたりの竜騎兵は似ていた。

 その外見は竜がまるで人間のように二足歩行となった形態フォーム

 いわゆる人型近竜-竜騎兵と呼ばれるタイプ。

 違うのは、その色と翼、それと装備してるものぐらいだ。


 クリスの竜は宇宙に輝く真っ白な体に、機械のような硬質の翼をつけている。

 そしてその右腕には、先が二又に分かれた金属製の剣が据え付けられてる。


『竜騎出現。データ観測完了。

 破壊力 A+(エープラス)

 防御性能 A+(エープラス)

 動作性 A+(エープラス)

 感応性 A+(エープラス)


 速度 ND(擬竜ニアリードラゴン


 騎兵コード 0308025201 登録名称 真なる白ホワイトワンです」


 クロトの竜は宇宙に溶け込む漆黒の体に、悪魔のような黒い羽をつけている。

 その腕には鋭くて長い、五本の黒い爪だけがある。


『竜騎出現。データ観測完了。

 速度 A(エー)

 動作性 A+(エープラス)

 防御性能 A+(エープラス)

 感応性 A+(エープラス)


 破壊力 ND(擬竜ニアリードラゴン


 騎兵コード 0308025202 登録名称 破壊する黒ルインブラックです』


 二匹の竜騎兵が宇宙空間を隔てて、にらみ合うように対峙する。

 そして戦いがはじまった。


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