生徒会
ユーミはベリルとエレベーターで、宇宙船内の小型船用のドックに向かっていた。
ハーヴェルトは大まかに分けて、都市としての機能を有する区画と宇宙船としての機能を有する区画が存在する。
本来、宇宙船には、ハーヴェルトのような都市機構をもたせるのはあまり良いことではない。
宇宙では衝撃や慣性がとにかく多い。
何かにぶつかれば衝撃が走るし、加速や減速をするだけで力がかかり、上下が360度平気で入れ替わる。
そして地上様式の建築物は衝撃に弱く壊れやすい上に、ガレキなどがとべば非常に危険だ。
ハーヴェルトの都市区画が所有する「空」は2.1マィル(3.6キロメートル)ほどある。もし船が逆さ向きに重力に捉えられたりすれば、「空」へ向かって落下する危険を有するということだった。
それは風の制御によって、ほぼ自由に力場を作り出せるようになった今でも、完全には避けられない危険だった。
それでも地上と酷似した様式の都市を船内に作り上げてるのは、殺風景な場所で5年も10年も暮らしていくのは辛いからかもしれない。
ただ、さすがに馬鹿みたいに地上建築を真似ているわけではなかった。
都市区画は、風の力場以外にも、耐衝撃機構などで何重にも守られている。そして都市区画と宇宙船区画は、とても行き来しやすいようにできていた。
高層の建物にはかならず芯と呼ばれる部分があり、そこはすぐに宇宙船区画となっている。都市構造で暮らしていても、緊急時にはすぐに宇宙船区画へと移動できるのだ。
平屋建築の建物においては、かならず地下への扉が存在する。地下は標準的な宇宙船区画となっていて、緊急時のシェルターの役目を果たす。
そしてチューブ状のレールを走る半自由軌道エレベーターが、空も含めて各所に走り、船の主要施設への移動を助けてくれる。
ただし、一般生徒は緊急時や何か指示かあったとき以外は通常区画しかつかってはいけないのだが。
宇宙船区画は基本的に無風状態、つまり無重力状態になっている。
エレベーターの中も無重力なので手すりが設置され、必ずつかまってから乗るように赤文字の大きな注意書きが書かれている。つかまらなかったら、エレベーターが加速するたびに、壁に体を打ちつけられることになる。
ドックには、すでに生徒会の人間と、フェイ=ファラオンなどの上等生が集まっていた。
「きゃーっ!」
エレベーターからでた瞬間、隣のベリルが急に素っ頓狂な声を上げ、ユーミは面食らった。
「いきなりどうしたの?」
「どうしたのって、白の王子がいるのよ!ほらほら!」
「白の王子……?」
「あんた知らないの?生徒会長のクリス=ブランさまのことよ」
「ああ、生徒会から呼び出されたんだから、そりゃいるでしょ」
生徒会の人間たちの中心には、180mを越す長身で、金色の髪と薄い灰色の瞳をした、やたら美形の男がいた。
フェイなどもかなりの美人だし、生徒会もなぜか美形の人間が多いが、その中でも飛びぬけて綺麗な容姿をしている。生徒会用の白の制服もやたらとさまになっていた。
(白の王子ねぇ……。確かに王子様みたいな容姿だけど……)
移動用の壁を蹴ってユーミとベリルは、集団の方に近づく。
「やあ、クリス。元気?」
ユーミはフェイと話してるクリスに近づいたとき、手をあげて挨拶した。
しかし、ユーミの挨拶は、完全にスルーされた。
「ちょっと、ブランさまになに気安く話しかけてるのよ!」
代わりに隣の友達から掴みかかられる。
(ああ……この子、男が絡むとこんなめんどくさい性格になるのか……)
ユーミは友人の新たな一面を知ってしまった。
「いやぁ、ちょっとした知り合いでして」
「ふーん……。でも無視されてたじゃない」
「そうなんだよねぇ。なんでかねぇ」
「どうせあんたが無神経なことしたんでしょ」
「いやいや、わたしは感謝されるようなことしかしてないよ!」
「ユーミさん、ベリルさん、現在は生徒会による事情聴取中です。静かにしてください」
生徒会の人から注意を受けてしまった。ファッション用の眼鏡をかけたまじめそうな子だった。
この時代において度入りメガネというものは存在しない。
目の機能が正常なら、視力ぐらいいくらでも治せるからだ。なので昔でいうメガネは、ファッションアイテムとしてその姿を残すのみだった。
ユーリがつけている視力補助装置はそれとはちょっと違う。分厚くごついフレームがあらわすように、精密機械の塊だった。
その機能の本体はフレームにあり、ガラスや形などはいわゆる旧来の道具に似せるためのデザイン部分でしかない。
フレームについたカメラから映像を取り入れ、神経信号に書き換え、直接人間の神経に投射する。それが視力補助装置と呼ばれるものの機能だった。
きょうび、メガネはふたつに分かれている。
ファッション用のグラスと、視力補助装置だ。
ただグラスはともかく、視力補助装置をつけている人はめずらしい。
なぜなら眼球と同じ機能をもった義眼をつけたり、いっそのこと視覚の機能そのものを機械化してしまったほうが便利で楽だからだ。
視力補助装置の方は、やたらとごっついのでかなり目立つ。
この学校でつけてるのはユーリくらいのものであった。




