落ちこぼれの竜騎士
「これより定期測定実験を開始します。被験者のユーミ=ステラは、竜騎兵を発動させてください」
白い防御壁と強化ガラスに覆われた部屋の中で、部屋に設置してあるスピーカーからユーミの耳に指示が届いた。
「はい!」
ユーミは自分に眠る竜の力に命じ、細胞を活性化させる。
瞬時に彼女の手もとに、細身の剣が現われた。
「竜騎兵出現。データ観測完了。
感応性 Z(ゼット)
破壊力 Z(ゼット)
速度 Z(ゼット)
動作性 Z(ゼット)
防御性能 Z(ゼット)
騎兵コード 0108021132 登録名称 騎士劇の幕です」
「ありがとう、ユーミさん。ちゃんと観測できたわ。
あと鉄と炭素の合金を用意したの。厚さは0.5ミリぐらい。
一応、切りかかってみてくれる?」
そういうと、床から競りあがるように、鉄板を乗せたテーブルがでてきた。
ユーミはその指示に、胸を叩いて答えた。
「おまかせください!」
「てやあっ!」
ユーミの竜騎兵、ナイトシュラウドが用意された金属板にむかって振り下ろされる。
その剣が鉄板に触れた瞬間!
ポキッ、グサッ。
あっさり折れたナイトシュラウドの刃先は、ユーミの頭に突き刺さった。
「あううー……」
涙を流すユーミに、研究者が申し訳なさそうに謝る。
「ごめんね、無理いっちゃって……。もう実験は終了だから、医務室で治療してもらってから帰ってね」
「わかりました。ありがとうございます」
ユーミはその指示に頭をさげると、研究室をでていった。
「あいかわらず、酷い数字だな」
実験に同伴していた女教師が、ナイトシュラウドの測定データをみてつぶやいた。
「他の数字も酷いですけど、特に感応性がひどいですよね。普通、どんなタイプの竜騎兵でも、感応性はC+以上はあるんですけど、Zなんて数値みたのはじめてです。
「観測値は基本的に小さい順にでますから、彼女のオールZのステータスの中でも一番低い数値ってことになりますよね」
「竜騎兵は竜騎士の願いに反応するっていうけど、感応性がZの彼女の場合はそれがまったく反応してないってことになるのかしら」
ハーヴェルトの研究者たちが、彼女の分析データへの感想をのべていく。
「まあとにかく、長年教師やってるけど、こんな酷い竜騎士みたことないよ」
「あら、でも別の視点から見れば、彼女はとても優秀ですよ」
ひとりの研究者が、女教師の言葉に反論するように言った。
ユーミとスピーカーで直接話していた研究者だった。
「優秀?あいつがか?」
「はい、竜騎兵を出すときの細胞の活性化プロセスは、ここの学生たちの中であの子が一番スムーズです。竜気兵を出す速度も、ほかの子と比べてずば抜けてます。発動中も竜子がものすごく安定していて、暴走の心配がまったくありません。
だから、彼女がこの研究所の竜子観測サンプルにも選ばれてますし」
「はぁ、なるほどねぇ。でも、それはあの子の竜騎兵がしょぼくて、発動が楽だからじゃないのかい」
「うーん、そういう見方もあるかもしれないですけど……。
わたしたち研究者からすると、あの子は一種の天才に思えますよ。あの子が竜騎兵を発動させていたのは、小政府管理の惑星下にいた小等生のころからだったらしいです。だから最初のコードも01(一般)なんです」
竜子細胞の活性は、年齢ごとにかわっていく。
普通、竜騎兵をだせるものでも、それができるようになるのは、宇宙にでて成長期を向かえ、竜の力の発動の訓練を受ける中等生以降だった。
そして竜騎兵を扱えるようになると、騎兵コードが振り分けられる。その最初の数値は、02が大政府所属の成人者、03が大政府系の学生、そして01は例外コードとしてあらゆる「一般」を指す。
基本、数値が動くのは、学校を卒業して03から02、もしくは03から01になるときだけだ。
「はぁ、天才ねぇ。いくら天才でもあんなに弱い竜騎兵じゃ、しょうがないと思うけどねぇ」
教師の立場からは納得しにくい話だったらしい。
学校の成績は勉強で決まる。竜騎士の成績は竜騎兵の有用性で決まる。まあ、仕方のない話ではあった。
「あいつの力も、何か役に立てばいいんだけどねぇ」
女教師はため息を吐いた。




