わたしたちのはじまり(改稿完了)
むかしむかし、わたしたちの祖先は地球と呼ばれた星にすんでいたらしい。
ちょうど1万年ほど前、わたしたちはその星を脱出することを余儀なくされた。
恒星活動の急激な変化。
祖先たちに太陽と呼ばれていたその恒星は、急速な膨張を開始した。
当時の観測技術では予測できなかったその変動により、地球はまたたくまに死の星へと変わっていった。
当時の代表国たちが技術を集結して、というよりは寄せ集めて作り出した、宇宙空間を航行する機能と、閉鎖循環生態系だけをかろうじてもつ、十何隻かの巨大宇宙船。
それに生き残った人々を集め、宇宙船は空へと旅立った。
それは絶望的な旅だった。
目指すべき移住可能な惑星も、テラフォーミングを行う技術もない。
ただ死にいく故郷の星から逃げ出すためだけの旅。
広大なる宇宙で、それに比してあまりにも小さな船で、人類の生存の可能性を見つけなければならなかった。
わたしたちの先祖はがんばった。
不完全な宇宙船の機能は何度も故障を起こし、その度に犠牲がでて、危険な修理を余儀なくされた。
ろくに資源の補給もできない状態で、船の修繕と改良をほどこし、広大な宇宙をひたすら旅した。
宇宙は広い。
その宇宙船の速度では、ひとつの惑星系から別の惑星系に移動するまでに、何百年という時間を要した。
先祖たちは世代を重ね、命を重ねることにより、その距離と時間を稼いでいった。
それでも居住可能な惑星が、都合よく見つかることはなかった。
宇宙はあまりにも広すぎた。
そしてわたしたちの祖先に、ついに終わりのときがやってこようとしていた。
老朽化し限界を迎えた生命維持機構。種族全体にはびこる遺伝病や、宇宙船全体に蔓延してしまった耐性菌による病。
もはや、人類という種族はこの宇宙で、塵として果てるしかないように思えた。
そんなとき、わたしたちは出会った。
宇宙空間を生身で航行する超生物。
二対の羽と巨大な体をもち、光を越える速度で移動する、人間の科学の常識の外に存在した生物。
竜と呼ばれる存在に。