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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第三章
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3-21

◆第十二週 三日目 水源日◆


 本日から特訓を再開する。

 色々あって一週間も休暇を与えた事ですっかり鈍ってしまっていた身体に鞭を打ち――もちろん俺の身体ではない――まずはダンジョンを百周。

 恋人関係にあろうが険悪関係にあろうが等しく扱い、力尽きても無理矢理叩き起こして走らせる。


 昨日出会った女戦士達の強さは、正直言って攻め込まれれば先の不死者襲撃事件並の被害は軽く出るだろう事が予想出来た。

 ああいうレベルの冒険者がゴロゴロいるのであれば、ハッキリ言って今のままではいつか殺される。

 モンスターである御沙樹たちは問答無用で殺されるだろうし、容姿の美しいラミーナも【魅了】に失敗すれば同じ運命を辿る事になる。

 朱髪さん空髪さんエルフちゃんも下手をすれば殺されるだろうし、殺されなくともその先に待っている運命は言わずと知れよう。


 一応、この集落にはゴブ幸くんというちょっと別格の存在はいるが、あの女戦士達3人を相手に勝つ事は出来ても、その上の存在がいたり数で攻めてこられれば一溜まりもない。

 何となくゴブ幸くんなら逃げきってしまいそうだが、それはほとんどスキルの御蔭なので、もしその逃走スキルを封じる様なスキルやアイテムが存在した場合にはサクッと殺されるだろう。

 モンスターを通さなくする結界とかたぶんありそうだし。


 という訳で、これからは家族に限らず年寄り以外は全員鍛えていく事にした。

 一日の長がある大人の戦士達の体力は御沙樹たちよりも上回っていたが、やはり体力が尽きた後のガッツは全く足りず、次第に大人達に鞭を打つ回数が増えていく。

 今日は初日という事で徹底的に走らせて思考する気力も奪い尽くす。

 走る事が本能であるかの様に刷り込み、執拗にただただ走らせる。

 身体と心が壊れてしまう者が自己申告で続出したが、飴は一切与えないように心掛けた。


 その結果、今日行う予定だった土木工事が完全にストップし、午後は全員がぶっ倒れたままウンともスンとも言わなくなったが、まぁそういう日もあるだろう。

 これでエルフちゃんの性根(天然)も叩き直す事が出来れば良いのだが……寝言を聞いている限り、うん、その可能性は随分と低そうだな。


 余談だが、ゴブ幸くんとゴブ姫ちゃんは気が付けば姿が見えなくなっていた。

 まぁ2人なら死んでも次があるから別に良いか。

 次に見つけたら容赦するつもりはないが。


 夕食時になっても誰も起き上がってこないので、仕方なく俺が全員分を用意。

 年寄り連中によってせっせと増産されているスライム酒も振る舞って祭り気分を出そうと試みるも、そんな体力は何処にも無いという事で、ただ旨い飯を食べてすぐ寝て鋭気を養う者がほとんどだった。

 俺の特訓に慣れている9人も、やはり身体がすっかり鈍っていたのだろう、今日だけは他の者達同様にダウンを継続。

 少し張り切り過ぎてやり過ぎたか?


 俺も2轍中だったので、今日は早めに寝る事にした。

 ああ、そういえばそろそろ風呂を復活させないといけないな。

 一応、濡らした布で全身を拭いてあげたのだが、隣で寝ている朱髪さん空髪さんの両名から仄かに汗の臭いに混じって別の匂いが香っていた。

 それを嗅ぎつけたスライム達が、牧場からずるずると……。


 うん、俺は何も見ていない。


 朱髪さん空髪さんだけ回収し、意識を闇へと沈ませる。






◆第十二週 四日目 星源日◆


 午前の訓練を始める前、日が昇るよりも早く起きて森を散策する。

 明日は女戦士と密会する日なので、その前に何か仕込まれていないか確認するためだ。

 あと、脳内地図の未踏破部分の確認か。


 森を歩いていると、これまで出会った事のないスライムと遭遇する。

 体色は白みがかった半透明色で、ダンジョン内でよく見るスライム達に比べると3倍近い体積があり、まるで尺取り虫の様に身体を伸び縮みさせながら移動していた。

 そのスライムが通った後にはぐずぐずになった草や土が残り、確認してみるとやはりというか溶かされており、触れた手も少し火傷を負ってしまった。


 とりあえず、相棒にお願いして手懐けてみる(テイミング)

 ……。

 どうやら失敗したらしい。

 普通に襲われた。


 体全体を薄く伸ばして覆い被さってきたスライムをそのまま攻撃すると武器にも影響が出そうだったので、まずは〝風切りの剣(ウィンドソード)〟の属性攻撃を試してみる。

 しかし何も発動せず。

 ウィンドカッターとかそういう類の飛ぶ斬撃でも放てると思ったのだが、よく考えるとその攻撃の仕方が分からない事に今更ながら気が付いた。

 どうやら単純に剣を振れば良いという訳ではないらしい。


 剣を止めて素手で殴ってみるも手応えが全く無く、逆に酸によるダメージが。

 しょうがないのでスライムの弱点である火炎属性の魔法【火弾】を使用して火炙りに。

 だが、いまいち効き目が悪く、周囲を【火弾】で取り囲んで暫く待ってみてもなかなか蒸発消滅する兆しが見えてこない。

 どうやらスライムの癖に火に強いという厄介な性質をこのスライムは持っているらしかった。


 ならばどう倒せば良いのか。

 穴を掘って埋めてみた。


 十分後。

 掘り返してみると随分と小さくなったスライムの姿がそこにあった。

 手乗りサイズとなったスライムは素手で触っても溶かされる様な事は無く、相棒の声にも耳を傾けて(脅していた様な気も)大人しくなったので結果オーライ。


 小さくなった理由は酸を放出し過ぎたためだろう、掘り返した土の一部は半熔解状態にあり、水分が揮発するか雨が降るまで危ないので埋めておく。




[アルちゃんはスキル【火炎耐性】を対象よりスティール]




 それからも同様に森を散策していると、そのスライム――ペルシドスライムホワイティを見つけたので、順次狩っていく。

 2時間ほど森を駆け巡って約十五体。

 全て地面に埋めてから掘り返し、弱くなった所を手懐けて絹布製の袋に放り込んでいく。


 合計十六体になるので、もしかしたら次に袋をあけた時にはキング化した個体2匹になっているかもしれない――そんな事を考えながら何度も袋をあけて確認するが、そこにはぷっちんゼリーの様な小っちゃいスライムしかいなかった。

 残念。


 スライムをお土産にダンジョンへと帰ると、蜘蛛の子を散らすように皆が逃げていく。

 一匹ずつ捕まえて昨日同様に走らせた。

 特訓は毎日続けるからこそ効果がある。


 ゴブ幸くんとゴブ姫ちゃんの姿は既に無く、午後になってからダンジョンの奧の方から帰ってきた。

 なんでも朝狩りに行っていたのだとか。

 俺に渡す袖の下、仕留めた獲物も大量にある。


 俺はにこやかに笑い、2人に悪魔の特訓を施した。


 結局その日も土木作業はほとんど進まず。

 今夜もまた朱髪さん空髪さんとイチャイチャして夜を明かした。







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