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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第三章
68/73

3-20

◆第十二週 二日目 火源日◆


 敵襲発生。


 再び不死者達が集落に襲い掛かってきた。

 早朝、皆がまだ寝静まっているところを狙ってやってきた様だ。


 しかし残念、運が悪かった。

 たまたま徹夜していた俺達の帰宅時間とバッティングしてしまい奇襲は失敗。

 昨夜も激しかった行為の疲れからスヤスヤと眠っている2人を起こさないように、隠密仕様でサクサクと狩っていった。


 研究用に一体だけ残し、僅か数分で全滅。

 実に呆気ない最後だった。


 捕獲した不死者を俺の【繭糸生成】とスライム腕から分泌される特殊液を混ぜ合わせた〝スライム繭縄〟で縛って動けなくした後、2人を家へと届ける。

 家ではまた御沙樹だけが目を覚まし余計な一言を耳元で囁いてきたが、先約があるので今日は無視。

 気持ちよさそうに眠っている恋人達の寝顔を少しだけ楽しんだ後、捕らえた不死者のもとへと向かう。


 不死者は強引に縄抜けして身体の一部が破損していたが、再びきつく縛って、追加で目隠し猿轡をしておいた。

 気分は悪魔の誘拐犯。


 不死者を連れてダンジョンの外に。

 これから行う事はあまり他人には視られたくないので、誰もいない森の奧へと向かう。

 途中、リトルホーンホースを見つけたので騎乗してみたのだが、やはりというか自ら木にぶつかって自決された。


 肉を回収し【狐火】で炙りつつ摘み食いしながら更に走る。

 ゴブ幸くんが持っているというスキル【広域サーチ】、その有効半径の2倍の距離を取る。

 【広域サーチ】の性能は一通り聞いていたが、他人に全てを教える馬鹿はいない。

 しっかり安全距離を取ってから実験に望んだ。


 捕らえた不死者は蛇女鬼(ラミア)

 実は以前から俺は彼女達の身体に非常に興味を抱いていた。


 美しい容姿、豊満な双丘、一部鱗が混じっているが艶のある綺麗な肌。

 男を魅了するには十分すぎる程の美貌を彼女達は誰もが持ち合わせている。

 それは不死者になった後もほとんど失われておらず――流石に口が裂けていたり顔の皮が剥がれていたりする不死者は除外――生きていたなら是が非でも集落に迎え入れたいと思っていた。


 瞳の色は失われいて表情が人形じみているが、まるで生きている頃の様に動く不死者のラミア。

 攻撃一辺倒の動きではあるが、動いている以上、そこには〝生きている〟という情報が存在する。

 これから調べる事は、その〝生きている〟情報はむしろ罪悪感を感じさせるのだが、そこは目を瞑っておく。


 必要な事だと割り切って、俺は彼女の身体に手を出した。




◇◆◇◆◇




 結論から言えば、性的なアレは問題無く致す事が出来る事が判明した。

 いや、死んでいるラミアを抱いたという意味では無く。

 彼女達の肉体構造がどうなっているかを調べただけである。


 ラミアは蛇の親戚。

 上半身は人の姿をしていても、生殖器官がどうなっているのかずっと俺は不思議に思っていた。

 何しろ、おへその下から全てが蛇状――股という部位が存在しない。

 つまり何が言いたいかというと、もしラミーナとそういう事を致すにしてもどうして良いかまるで想像がつかないので、事前に予習をした訳である。


 研究資料となったこのラミアには女性の尊厳を奪うような大変申し訳無い事をした訳だが、まぁ死んでいるから問題無いだろう。

 これは死体人形、もしくはただの肉。

 生命の神秘を解明するためには致し方のない事だった。

 南無――安らかに成仏してくれ。

 まだ元気に動いているが。


 あと、賢者になっていた時に現れてくれた襲撃者(モンスター)達にも感謝。

 死体とはいえ、女性の身体を弄くり回すというのは精神的に色々とくるものがあった。

 人の道を外れては、もう外道になるしかない。

 悪魔の外道にだけはなりたくない。


 研究資料となってくれた彼女には、一先ずもう少し役に立ってもらう。

 手をもぎ取ってモノホンの蛇姿にした後、更にいらない蛇の部分――下半身を排除。

 それでも魚の様に元気よくピチピチ跳ねているから不死者とは本当に不思議と言うより他ない。


 蓑虫状態となりほぼ無力化した彼女を、今度は【繭糸生成】で樹の上に作成した分厚い繭の中に放り込む。

 繭に蓋をして完成。

 彼女には引き続き不死者の生態をより詳しく調べるための実験材料となってもらう。

 悪魔の実験開始。


 なんか語呂が悪いな……別にマッドサイエンティスト並にヤバい実験をしている訳じゃないんだが。


 一仕事終え、さぁ帰ろうか――そう思い樹上から周囲を眺めると、男1人に女3人を発見した。

 4人の視線の先は、もちろん俺。

 失敗した。

 つい実験に夢中になり周囲の警戒を疎かにしていた様だ。

 木陰に潜み気配を殺して静かにじっと眺めている様子から鑑みるに、このラミアと色々致していた行為の一部始終が全て観察されていたとみて間違いなかった。


 4人は《混沌の民》で、男は素朴な容姿をしており小綺麗な服のみを着て非武装だったが、その後ろにいる女性3名が着ている軽金属鎧などはどれも実戦に向くシロモノ。

 推定年齢は2人が少女の域を出たばかりの女性で、その2人の後ろで難しい表情をしているもう1人は20代後半ぐらい。

 大雑把に見てもその3人は十分に戦闘慣れしている冒険者だろうと容易く予測出来た。


 一番手強そうなリーダーの女性は大剣を背負っているので武器が丸分かりだが、若い2人は丁度木の陰に隠れてよく見えない。

 だが軽鎧を身に着けているので、剣や盾持ちの軽剣士といった線が妥当だろう。

 剣士2人に戦士1人、その上で全員が女性となると、余程腕に自信があるのか、それとも別行動中なのか。

 男が丸腰なので、彼の護衛任務中なのかもしれない。


 視野を広げもう少し周囲を調べてみると、すぐ近くに草がいっぱい入った籠があった。

 なるほど。

 冒険者――ギルド――クエスト――護衛依頼――森の中――採集、という線が浮かび繋がった。


 両者共に思いがけない遭遇。

 ここはこのままフェードアウトして見なかった事に……出来れば良かったのだが、この4人は見てはいけないものを見てしまった。

 つまり、速やかに証拠隠滅を図るのが得策。

 しかも都合の良い事に3種族分の繁殖奴隷候補が揃っているのならば利用しない手はないだろう――という、悪魔の囁きがどこからとも無く聞こえてきたが、軽く無視して。


 繭を吊るす為に木の上にいた俺は4人の正面に堂々と着地し、まずはコミュニケーションを図ってみることにした。

 コミュニケーション失敗。

 笑顔で話し掛けたというのに、いきなり斬りかかってきた。


 予想以上の速さで迫ってきた大剣に危うく一刀両断されかけて冷や汗を浮かべている間に2人が後ろに回り込み、トライアングル状に包囲される。

 リーダーの女性が勇ましく掛け声をかけると2つの可愛らしい声が斜め後ろから響き、3人同時の連携攻撃が始まった。


 正面から袈裟斬りの【巻き打ち】、1拍遅れて左斜め後方から水平に【払い斬り】、間髪いれず右斜め後方から縦一列の鋭い【三連突】。

 最後にまた正面から大剣が大振り気味に【斬り返し】が放たれる。


 3人の顔には何故か『もう後が無い!』という切羽詰まった表情が浮かんでおり、それを体現するかの様に3人のコンビネーションは針の穴を通すような正確さ。

 あの一瞬でここまで息のあった攻撃を繰り出すとは、彼女達はなかなかに出来る様だ。

 これは舐めてかかると痛い目を見るかも知れない。


 もちろん全て回避した。

 斜め後ろ2人は死角を狙う攻撃を繰り出している事になるのだが、残念ながら俺には【空間視】がある。

 細かな足捌きだけで剣の軌道上から身体を待避させ、ほぼ全て紙一重で避ける。

 そしたらスパッと腕が斬れた。

 ん?

 ふむ……スライム腕が彼女達を不憫に思い、特別サービスでもしたのだろう。


 3人が一度距離を取る。

 俺は追撃を行わず、先程の事は水に流すつもりでニコッと笑った。

 それを嘲笑と受け取ったのか、リーダーの女性がギリリッと唇を噛んで血を流す。

 その血、美味しそうだな……と思ってしまったのは、彼女が非常に活力が漲っている良い女だったのが理由だろう。

 ちなみに少女2人は何故か俺の笑みを威圧と感じたらしく、顔により一層の恐怖の色が浮かんでいた。


 生き血を啜りたくなる様な男勝りの女戦士の命漲る一喝。

 それを合図に、再び3人が俺に襲い掛かってくる。


 今度は本気の一撃なのか、全力ダッシュから地面を蹴って3人は跳躍し、防御を無視した捨て身の【跳重斬撃】、左斜め後方からは後先を考えていない【横一文字払い抜け】、右斜め後ろからも同じく一点突破の【雷迅突】を見事なタイミングで放ってきた。


 それらの攻撃とまともに付きあう気はないので、サックリ無視して男の方を仕留める。

 一瞬後、突撃した3者が衝突、3つの悲鳴があがった。

 そして漁夫の利……は使い方が間違っているか、兎も角もみくちゃになっていた3人をそんな感じで即座に叩きのめして戦闘終了。


 あとには繭縄に縛られて絶望の表情を浮かべた4人の捕虜が出来上がった。


 では、もう一度コミュニケーションを……いや、ここは酒を飲ませてノミニケーションで攻めてみる事にする。

 強ばった感情を酒で解してやれば種族の垣根などあっというまに無くなるだろう。


 しかしてその試みは半分成功し半分失敗に終わった。


 下戸プラス催淫効果で、非常に苦しんでいる若いお嬢さんが2人。

 胸や股を擦り合わせて何かと必至に戦っている彼女達は、それを一種の拷問だと認識しているようで、もはや質問云々ではない御様子。

 鎧姿の女性達が悶える光景は眼福ではあるものの、それは別に意図して行った結果ではなかったため非常に困ってしまった。

 まさか発散させる訳にもいかず……。


 それに対し、意外とイケる口である女戦士の方は、スライム酒が気に入ったのか、もっとこの酒を飲ませてくれないと何も喋らないの一点張りで、こちらもまるで話が進まない始末。

 耐性持ちなのか催淫効果もほとんど効いておらず、酒を飲ませる前よりは間違いなくフレンドリーに話せそうな雰囲気ではあるものの、酒の貢ぎ物がなければ交渉に応じない姿勢を頑なに取られてしまい、ほとんど最初の状況と変わらなかった。


 ちなみに男の方は、酒の原料がスライムだと言った瞬間に酒を吹きだして気絶中。

 やっぱこれが普通の反応なのか。

 なんだかこの男とは気が合いそうだ。


 しかしそれでも分かった事はあった。

 女3人は冒険者で、男はただこの森で出会っただけの他人。

 彼女達がたまたまこの近辺で狩りをしていたら怪しい男を発見したので後ろから近づいていくと、男が覗き見していた光景を見て絶句。

 悪魔(おれ)が想像を絶する悪魔の様な行為を行っていたのを目撃してしまい、逃げるのも忘れて立ち竦んでしまい……そして今に至るという。


 そんな事よりも、近くにある町の情報などが欲しかったのだが、流石にこちらの情報に対しては非常に口が堅かった。

 名前ぐらいは教えて欲しかったが、それもまだ聞かせてもらっていない。

 彼女達は戦闘中も互いの名を呼び合う事は無かったため、良く訓練されていると思った。

 やはり本職の人間は違う。

 朱髪さん空髪さんも一応本職だが、基本的にソロを好んで活動していた男性と共にずっとパーティーを組んでいたためか、あまりそういう知識は無い様だった。


 それはそれとして。

 女戦士の方に貢ぐ酒はもうこの場にはなく、かといってこのまま家に連れ帰る訳にもいかず――新しい繁殖奴隷を捕らえてきたと皆に思われてしまうのは別に良いのだが、俺はそもそも彼女達を解放する予定なので、彼女達に住処の場所を知られる事の方が問題だと考えている――さてどうしようかと考えているうちに、悶えていた2人の限界がどうやら近づいてきた模様で、腕と足を縛られた状態にも関わらずモゾモゾと俺の方へと寄ってきた。

 もはや人としての尊厳は捨て去ったのか、芋虫の様に地を這う彼女達は呼吸困難に陥っているかの様に涙を垂れ流し、土で顔が汚れるのも構わずほとんど無いに等しい距離を必死に埋め――。


 急にビクビクっと震えたかと思うと、股の間から黄金色の液体を放出した。


 ……。


 いや、暢気に眺めている場合では無かったか。

 女戦士は一瞬目を白黒させたあと、何が起こったのかを正確に理解したうえで実に楽しそうな笑みを浮かべて俺の方を見てきた。

 仲間が大変な目にあったというのに女戦士は『これも経験だね』の一言で済ませ、俺を責めてくるどころか賞賛してくる始末。

 重ねて言うが、俺はこの状況を意図して引き起こした訳ではないのだが、そこは俺が悪魔だからと女戦士は納得している様だった。


 兎も角、力尽きた彼女達を女戦士の指示に従って処置を施していく。

 名目としては風邪を引かないようにとの事だが、どこからどう見ても身包みを剥いでいるようにしか見えない。

 まさか身包みを剥ぐという言葉がこの様な形で実行させられる羽目になるとは思わなかった。


 ついでに女戦士の身包みも剥ぎ――流石に自分が脱がされる番になると抵抗してきた。だが断る――必要以上にペタペタと肌に触れて好色を装いつつ色々と奪う。




[アルちゃんはスキル【巻き打ち】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【跳重斬撃】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【斬り返し】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【見切り】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【捨て身】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【剣撃・撃】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【剣撃・断】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【斧撃・斬】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【斧撃・撃】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【リーダー】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【連携指揮】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【女好き】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【蟒蛇】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【恐怖耐性】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【睡眠耐性】を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《重戦士(ヘビーウォーリアー)高弟(アリズェン)》を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《狂戦士(バーサーカー)》を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《重剣士(ヘビーソードマン)》を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《冒険者(アドベンチャラー)》を対象よりスティール]


[アルちゃんはスキル【払い斬り】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【横一文字払い抜け】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【下戸】を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《剣士(ソードマン)》を対象よりスティール]


[アルちゃんはスキル【三連突】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【雷迅突】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【剣撃・突】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【腐の因子】を対象よりスティール]


[アルちゃんはスキル【薬草採集】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【薬草鑑定】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【薬草生成】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【調合】を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《下級調合士ノーヴィス・ブレンダー》を対象よりスティール]




 久しぶりの大収穫だった。

 不死者達はスキルをスティール出来なかったので、この出会いはきっと死神が縁を取り持ってくれたのだろう。


 女戦士から得たスキルが一番多かったが、むしろ嬉しいのは男が持っていた鑑定スキル。

 思わず気絶している男をボコボコにしてスキル強奪に励んでしまい女戦士からあらぬ疑いを掛けられてしまったが、そんな些細な事はどうでも良かった。

 得られた熟練度も高く、男が籠に集めていた薬草を鑑定してみると、薬草名と品質だけでなく簡単なレシピまで知る事が出来た。

 恐らく鑑定スキルと生成スキル、調合スキル、職業が揃っているからこその追加情報だろう。


 少し釈然としなかったのが、攻撃系スキル。

 もっと多くのスキル技を持っていてもおかしくないというのに、手に入れられたのはたったこれだけ。

 攻撃系スキルには何か特殊な条件が関わっているのかもしれない。

 今度時間がある時にでも《軽剣士》であり《軽戦士見習い》である朱髪さんに少し相談――そういえば俺の持つスキルの秘密をまだ2人には打ち明けていなかったか。夫婦にも等しい彼女達にこの秘密を打ち明けても良いものか、少し悩む――しようと思ったが、今はまだ時期尚早か。

 まぁいい、そのうちピンとくる時があるだろう。


 もう一つ分かった事と言えば、《下級調合士》を得た後に職業一覧を確認してみると、元々持っていた《調合士見習い》が消えていた。

 どうやら上位の職業を手に入れると下位の職業は不要のため削除されるらしい。

 女戦士が持っていた《重戦士・高弟》は感じからして最低2回は『職業昇格(クラスチェンジ)』している職業だったためか、手に入れた瞬間に体感で何となく分かる程度に身体能力が上がった気がしないでもなかった。


 俺が職業を持っていても宝の持ち腐れかと思っていたのだが、これは本当に【ライフスティール】【ライフドレイン】というスキルはチート能力かもしれないな。

 惜しむらくは、職業レベルの成長を楽しめないことか。

 どこかにそれを可能とするスキルを持っている者はいないだろうか?


 色々と嬉しい事が重なりホクホク顔のまま、戦利品を良く見える様に並べていく。

 男を血祭りにあげてスッキリしていると女戦士はきっと思っているはず。

 まんま悪魔だな、俺は。


 女戦士が使っていた大剣〝クレイモア〟は頑丈一点張りで、大きすぎず重すぎず使い勝手の良さそうな武器で、銘は特にない量産品。


 気絶した女剣士の片方が持っていたのは、風嵐属性の力が少しだけ篭められている〝風切りの剣(ウィンドブレード)〟で、こちらはマジックアイテム。

 恐らく俺の腕を斬ったのはこの剣が持っていた追加効果だろう。


 もう一人の女剣士が振るっていた刺突細剣(レイピア)は俺の攻撃を咄嗟にそれで受けてしまったため破砕しており、ほとんど柄の部分しか残っていない。

 一応、名持ちの武器だった様だがアッサリと折れた事からパチモンを掴まされていた口か。


 各部位を繋ぎ合わせて着装していた〝ブレストプレート〟に、脱がすのに少し苦労したレザーアーマー2着、それとブーツ3点にグローブ2点、指貫グローブ1点、ブレスレット1点までを地面に並べ、残りは軽く水洗いして木の枝にかけて干していく。

 こういう時、【水弾】の魔法が使えるのは非常に便利だなと思う。

 力加減を間違えると折角手に入れた戦利品――肌着各種3点セット――に穴が空いてしまい二度と使えなくなるのだが、まぁもしそんな事になっても最近開発が成功した絹布製品をプレゼントすれば問題ないだろう。

 というより、裸にひんむいたままでは流石に可哀想なので、下着とTシャツは既にプレゼント済。

 却って目のやり場に困りそうな格好になってしまったが、今朝方まで朱髪さん空髪さんと過ごしていた今の俺にはあまり効果はない。

 むしろ淡々と作業する俺に、女戦士が少し傷付いていたぐらいだった。

 微妙なお年頃。


 さて、邪道を進むならば悪魔の囁きに従って身包みだけでなく彼女達自身も根こそぎ奪う展開だが、それは流石に笑えないので却下。

 しかし何もせずに解放するのも少し味気ない。

 ここは一つ、この女戦士とお友達になる事から始めたいと思う。


 ――このスライム酒、いくらなら買う?


 これがただの酒ではない事は見ての通りだが、女戦士は純粋に酒として気に入っている様子だったので、敢えて裏の効果には触れずに売買を持ちかけてみた。

 それなりの量は定期的に卸すことも可能、個人で買って楽しむのも自由、どの様に楽しむのかも買い手の自由、転売自由――そんな破格条件を提示したうえで、金額の方は女戦士に決めさせる。

 相談する時間は取らせない、今この時に決断する事も条件に付け加えておく。


 裏の商人とかに持ちかければ間違いなく一発で交渉成立しそうな危ない商品を、一介の冒険者相手に、しかも間違いなく飲まされる方である女性にわざわざ売り込んでいるのは、正直言えば裏があった。

 交渉相手の選別は勿論大切だが、安易に悪魔の酒をばらまくのは人道に反しているとしか思えないので、搦め手というか良識の範囲内で〝酒〟という商品を酒好きの人間に提供するのがきっと正道。

 正しい認識の下に、悪用しない可能性が高いタイプの人間に個人で楽しむ分だけを融通する、それが重要だと思う。


 最終的に、女戦士はほぼ即決で金額を提示し、しかも前金まで払ってきた。

 相手がモンスターだろうが悪魔だろうがお構いなし。

 有り金全部を――気を失っている3人の持ち金も含めてだった――俺に支払ったうえで、更に自分の武器以外を担保するという気前振り。


 知らない間に仲間によって身包み全てを俺に提供する羽目になった他3人にむしろ同情を覚えてしまうぐらいに――いや、そんな事をされなくともこれらは全部俺の物になる筈だったのだが。上手い具合に交渉材料に使われていた。むぅ――女戦士の目は本気で酒しか見えていない様子だった。

 話を持ちかけた俺の方が引くぐらいに。


 交渉が成立した後、お互いに握手をして――何時の間にか女戦士が縄抜けしていた事はこの際見てみぬ振りをするべきだろう――三日後にまた此処で合う事を女戦士と約束してその場を後にする。


 結局、町の事も女戦士の名前も聞けなかったが、それは3日後にまた出会う事が出来れば――女戦士が逃げたい一心で嘘八百を並べていなければの話だが――きっとその時に聞く事が出来るだろう。

 こちらが誠意を見せればモンスターであっても人の世界で生きていく事は決して不可能ではないという事を最長老から聞いていたので――いきなり襲われて殺される覚悟が必要ではあるらしいが――その手始めの第一歩と、この世界の冒険者がどの程度信用がおける存在なのかを確認するには丁度良い。

 女戦士が俺の思った通りの人間であれば今日の出会いはきっと良い方向に働く、もし間違っていればまた別のアプローチを行えば良い。


 女戦士と別れた後、土木工事したりこれからの事を考えたりと普段通りに過ごし、今夜も徹夜でガッツリと熱い夜を過ごした。

 この2徹1睡が少し癖になりそうで怖い。








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