3-15
かつての仲間を歓喜しながら殺そうとした不死者の男性を形が無くなるまでボコボコにし、二度とそのような事が出来ない様に【熔解】で徹底的に存在を消し去る。
かなりのショックを受けていた朱髪さんと空髪さんから過去の男の記憶を消し去る為に【妖艶ノ香】をコッソリ使って半催眠状態に落とし、俺の拳雨に潰されていくヤツの身体と共に2人の記憶の中にあるヤツの思い出も潰していく。
家族を泣かせた罪は非常に重い。
それでなくとも家族を殺されていた俺は怒り心頭だった。
その強い想いが乗った拳の一撃は、物質界だけでなくそれ以外の場所にもダメージを与えているような感じがしたが、そんな事はどうでも良かった。
この広場にいた男とラミア達を生物としての形が無くなるまで破壊し――頭を潰そうが心臓をえぐり出そうが此奴等は活動を止めなかった。腕だけになってもマ○ハンドよろしく襲い掛かってくるという不思議生物っぷり――ようやく一息吐けるかと思ったところに、また気分を激しく害する新手が現れる。
それはかつての同胞達の成れの果てだった。
肉体に何らかの欠損が生じているまだ真新しい血の跡を身体中に付着させたままの虚ろな瞳の不死者の集団。
無惨な姿を曝しながらゆっくりと近づいてくるそのゾンビ達は、当然ながら俺の呼びかけに耳を傾ける事無く、逆にあちらの世界へと熱心に俺達を勧誘し始める。
彼等のしつこい勧誘を物理的に排除するのは、正直、精神的にとても辛った。
まだ青褪めている朱髪さんは、まるで何かに取り憑かれたかの様に一心不乱に容赦なく彼等の身体をシミターで斬り刻んでいた。
既に魔力が尽きていた空髪さんも、手にした杖の先で淡々と肉片を潰していく。
ホラーに滅法弱いらしいエルフちゃんは耳を塞いで丸まったままブルブル震えているのでスライム腕がおんぶ。
コボルトゾンビ/ゴブリンゾンビ/バグベアゾンビ達はラミア達と比べると動きは非常に遅く下手したら生前よりも弱かったので少しも脅威には感じなかったが、精神的な疲労だけはラミア達と殺りあっていた時よりも多く感じたのは間違いないだろう。
ようやく駆逐し終わると、過呼吸気味の朱髪さんと空髪さんは地面にペタンと座り込み、空髪さんに至っては膝を抱えて鬱状態になっていた。
瘴気を遮る【聖結界】は俺が代わりに発動させているが、その効力は空髪さんのソレとは比べるべくもないため、その影響も少しずつ出始めているのだろう。
休養が必要と判断。
空髪さんの細い腰に手を回して抱え、赤髪さんの首根っこを摘み――2人とも借りてきた猫の様に大人しかった――自宅へと向かう。
頑丈に作ってある家のドアは足で開けた。
家に入ると、ゴブ幸くんが出迎えてくれた。
だが――。
その顔には魔王っぽい笑みが浮かび――。
その瞳は何かに想いを馳せているのか閉じられ――。
その右手には闇色の液体が入った透明な杯が握られ――。
その左手は肘掛けの上で頬を支え――。
その両足は王者の如く組まれ――。
そこには無い筈の玉座にゴブ幸くんは座っていた。
……ああ、なるほど。
これは、そういう事なのか。
積み重ねられた同胞の屍。
夥しい量の血が流れ、紅く濡れ染まった床。
噎せ返る程の血の香りと、濃厚な瘴気に満たされた空間。
苦痛を浮かべた表情を浮かべている死人達の顔と、生きていた頃に浮かべていた表情が脳裏を駆け巡る。
至る所からあがる断末魔の悲鳴。
脳に響き渡る怒声と叫声。
衝突する金属と金属の耳障りな音色。
肉と臓腑が断ち斬られ骨が砕ける旋律。
――そんな聞こえもしない音が鼓膜を震わせる。
俺の心を蝕んでいく。
世界が徐々に遠く小さくなっていった。
視界の端に闇が広がり、景色から色を奪い去っていった。
身体中から熱が急速に失われ、それは心にまで波及していく。
それなのに表層だけは異常な熱さを帯びて、狂おしいほどの熱気に包まれていた。
――気が付けば、俺は朱髪さん達をその場に放りだし、眼前にいる敵へ斬り掛かっていた。
不死者の男が持っていた大斧を、あらゆる物を断つ勢いで振り降ろしていた。
決して許す事の出来ない暴挙を働いた彼の者を、この世界から消し去る為に。
俺の中に眠りし鬼が、顔を出す。
[秘匿スキル【修羅の因子】が《根源之闇黒神》によって限定解除されました]
[秘匿スキル【羅刹の因子】が《根源之闇黒神》によって限定解除されました]
修羅と羅刹が――悪魔と化した。
 




