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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第三章
59/73

3-11

◆第十一週 二日目 火源日◆


 いつもの様に(地獄の)特訓を行おうとした所、とあるゴブリン2匹の訪問を受けた。

 開口一番、彼等は「お困りではないですか?」と言ってくる。


 物凄く困っていたので、居間に通してお茶を出した。


 実はあれから何度もエルフちゃんに色々と困らされ、家族全員かなり辟易していたのだ。

 決して野放しにしていたつもりはないのだが、エルフちゃんは俺達の目を盗んではフラフラ~っと遊びに出かけ、スライム達に溶かされかかったり、ミミクリーアクアリウム達にまた栄養にされかかったり、ラビリンスワームが作った穴に入って行方不明になりかけたり、突然崩落した土砂に埋まって次元の狭間に落ちて戻れなくなりそうになったり、最長老の魔手に脅かされてみたりと、一晩中元気に色々と起こしてくれた。


 昨日、エルフちゃんは夕方までずっと眠っていたので、その反動で夜は全く眠れなくなってしまい、俺達もそれに付きあわされたという訳である。

 最終的に、俺がエルフちゃんを肩車し、【繭糸生成】で作った繭糸で俺とエルフちゃんの身体をしっかりと結びつけ、更にスライム腕が常時エルフちゃんをしっかり捕獲しておくという手段を用いる事で、ようやく事態は終息した。


 ちなみに、現在エルフちゃんはスヤスヤとお休み中。

 さっきから涎が頭にかかって少し気持ち悪いし、たまに寝惚けて俺の髪をムシッと引っ張り抜くので、俺限定で〝災い〟は未だに降りかかっている。

 流石に捨てる訳にもいかないし……むしろ捨てるともっと酷い〝災い〟に見舞われそうで怖い。


 我が家の卓袱台の反対側に座っているのは、例のイケメンゴブリンと雌ゴブリン。

 遠征に出かけていたメンバーの唯一の生き残りで――他は全員、昨日の件でお陀仏――他のゴブリン達とは一味も二味も異なる雰囲気をプンプン臭わせていた人物、ならぬ()物。

 2鬼がまともな存在ではないという事は、あの質問をされた時点で俺は気が付いていた。


 まずは自己紹介から始めましょうか――などと言ってきたが、それは後回しにして、まずは何とか出来るなら何とかしてくれと要求してみたところ、意外な事に彼等はアッサリとこの問題を解決せしめてくれた。


 頭上で眠りこけているエルフちゃんの細くて折れそうな肩に何やら特殊な魔法もしくはスキルで謎の刻印を打った後、そこから浮かび上がった紋様に俺の腕を触れさせて終了。

 エルフちゃんが俺専用の奴隷になった瞬間だった。


 ――ん?


 奴隷にする事で彼女が持つ危険なスキルを封印する事が出来るらしい。

 どうやら彼等もこの災害指定生物(エルフちゃん)を手に入れた際に色々と迷惑を掛けられたらしく、その所為で敵に襲われるわ道に迷うわ突発的な災害に見舞われるわで、大変苦労したそうだ。

 遠征部隊の数がやたらと減っていたのも十中八九彼女が原因らしい。


 エルフちゃんを含め捕らえた女性達は皆、街道を進んでいた奴隷商人達を襲って手に入れた戦利品で、その際に彼女の主人となっていた奴隷商の男はキッチリ始末した。

 そこから急に運命の歯車が狂いだす。


 檻の中に捕らえられていたエルフちゃんに奴隷化処理を施す前に第三者から急襲され檻が崩壊。

 エルフちゃんは仲間の手によって守られていたのだが、やっとの事で敵を撃退した時、ホッと一息吐いた瞬間にフラフラ~っとエルフちゃんが森の奧へと入ってしまう。

 当然、彼等は極上の戦利品である彼女を追ったが、何故か森には大量の罠が仕掛けられており――何故かエルフちゃんだけ罠が発動しない仕様――これまた多大な苦労をする事となった。


 なんとかエルフちゃんを捕まえたものの、半日続いた逃走劇により仲間は散り散りになっており、合流するのもまた一苦労。

 更に現在地も不明とくる。


 そのタイミングを見計らったかの様に突然雷雨が発生し、追い打ちのように土砂崩れや大洪水が起こり仲間が次々と飲み込まれる。

 もはやこれまでか――そう皆が思い始めた頃、2人がようやくエルフちゃんに接触する事が出来たので、とりあえず奴隷化処理を施したところ、ピタッと雨が止んだそうな。


 以上の実体験からエルフちゃんが災いの元だという事を彼等は学び、また昨日から今日にかけて俺達がドタバタ騒いでいるのを見て、彼等はそれを確信した。

 こんな早朝にわざわざ足を運んだのも、放っておけば間違いなく自分達にも被害が及ぶとみて、事のついでに処置を施しに来たと言う。


 奴隷にした者には、隷属レベルによって色々な事を命令する事が出来る。

 そして、主人に対して害になるような行為は出来なくなる。

 このエルフちゃんが持っているスキルは、その〝主人に対して害になるような行為〟に該当している模様で、奴隷化する事で無効化する事が出来たのだろうと彼等は推測。


 それは分かったが、そんな便利なスキルを持っているのなら、彼女の御主人様は今まで御前だったんじゃないのか?と聞いてみたところ、彼は横にいる雌ゴブリンをチラッとみてから「所有者はリーダーが相応しいよね」と。

 雌ゴブリンの手が卓袱台の下でコソッとイケメンゴブリンの太腿を抓っていたのを俺は【空間視】で把握する。

 彼にも色々と苦労がある様だ。


 エルフちゃんの元御主人様であったホブゴブリンリーダーを俺が殺してしまった事で奴隷化が解除され、一緒にスキルも解放されてしまった。

 ――うん?

 ならば、彼奴等が夜這いならぬ昼這いをしてきたのは彼女のスキルが影響した訳では無く、自然に起こった出来事なのか――いや、思い返してみれば、あの時は俺が丁度【災いを呼ぶ者】を奪っていた最中だったので、俺がスキルの効果を発動させていた。


 なんだ、結局は俺が原因か。

 迷宮の中で起こった大事件とは言え、迷宮入りしなくて本当に良かった。


 一連の真相が判明したところ本題に入る――前に、奴隷化の効果を確認してみる。

 というか、本当にエルフちゃんが持っている【災いを呼ぶ者】が効果を失っているのか、確認しておきたい。


 今もエルフちゃんが口から垂れ流している涎は俺の頭を汚しているし、奴隷化した筈なのに俺の髪をムシッと引っ張り抜くのは続いている。

 これ、〝主人に対して害になるような行為〟に該当するよな?


 彼曰く、隷属レベルMAXの場合、奴隷に対する命令は心の中で強く願っている事も適用されてしまうらしく、このエルフちゃんの暴挙は俺がそれを望んでいるもしくは認めているからだとか。

 あと、恐らく別のスキルが影響しているのではないかと。

 【天然】は強し。


 奴隷への命令は言葉によるものの方が優先されるという事なので、早速エルフちゃんに命令を出してみる。

 起床、お着替え、歯磨き、ラジオ体操。


 まずは朝の定番とも言える4つの行動を指示してみたところ、2つ目を実行しようとした所で問題が起きた。

 下半身を繭糸で縛っていたので、下着が脱げない。

 つまりお着替えが出来ない。

 俺の頭の上でエルフちゃんが藻掻き、下にいる俺がそれに振り回される。


 余談だが、イケメンゴブリンは雌ゴブリンの手で視界を封じられていた。


 繭糸を解き、エルフちゃんを解放。

 すると、全裸になったところで着替えの服がない事に今更ながら気が付いた。


 命令が実行不可能という事で、エルフちゃんは裸のまま次の動作へと移る。

 しかしここでもまた肝心の歯ブラシがないという事態が――と思ったら、スライム腕が歯ブラシに変形して問題解決。


 最後に、ラジオ体操には見えない妙な踊りを全裸で披露してくれたところで、エルフちゃんの身体の支配権が彼女自身に戻る。


 命令を実行している間、エルフちゃんの意識は平常運転だった。

 自分が今行っている事に対して全く疑っていない様子で、始終今まで通りの様相を呈していた。

 体操を終えた後は、流石に何故裸でいるのか不思議がっていたが、脱ぎ散らかした服と下着を発見して、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめながらそそくさと服を着る。


 大変、眼福でした。


 もっとも、雌ゴブリンに繭糸で目隠しされ、その上からスライム腕が覆い被さって隙間を塞がれていたが、俺には【空間視】があるので問題なし。

 敢えて言うなら、モノクロ映像だったのが残念。


 結局〝災い〟云々は今後の経過観察を行わないと分からないので、とりあえずエルフちゃんには家の中で遊んでいろと命令を出して――但しスライム牧場へは立入禁止――部外者をこの部屋から排除。

 改めて2鬼に向き直り、本題を始めてもらう事にする。


 そして俺は、自分が置かれている状況をより詳しく知る事になった。




◇◆◇◆◇




 まず最初に、彼等の自己紹介から。


 イケメンゴブリンの種族は《上位子鬼(ハイゴブリン)選良種(エリート)》。

 この世界での(ヽヽヽヽヽヽ)名は、ゴブ(ゆき)

 名前は自分で付けたらしいが、名前の由来は彼が好きだった小説から。


 産まれてから4年が経過し、実力は(くだん)のホブゴブリンリーダーよりも上だが、面倒な事を背負(しょ)いたくないため、月一で開催される武闘大会には参加していない。

 4年も生きていれば一線を退いて長老になる事も出来るのだが――長老になれば色々と融通がきくらしい。主に種付けとか――洞窟に引き籠もっているより外に出て狩りをする方が楽しいので、未だに現役。

 あと、この世界に飛ばされてから41962周目。


 ん?

 41962周目?


 ゴブ幸くんのお隣にいるちょっと可愛い雌ゴブリンの種族は《亜子鬼(ゴブレット)地獄種(ガイアース)》。

 地獄種とは随分と物騒な派生種名だが、よくよく聞くと地属性のことをこの世界では地獄属性というらしい。

 また一つ俺は賢くなった。


 彼女の名はゴブ(ひめ)で、これも本人が付けている。

 年齢は2歳で、最近になって『存在進化』したばかりなので実力は未知数。

 本人曰く、このコミュニティでナンバースリーは確実とのこと。

 とはいえ、次の武闘大会には腕試しで絶対に参加するのでお手柔らかにと言っていた。

 このコミュニティは女の子の扱いがなっていないので、リーダーになって革命を起こすそうだ。


 そんなゴブ姫ちゃんは、15783周目?にしてようやくまともな生活を送る事が出来て喜んでいるとの事。

 しかもゴブ幸くんという同郷かつ恋人に出会えて、折れていた心が修復。

 約48年振りに出会ったゴブ幸くん(こいびと)はかなりエッチなモンスターに成り下がっていたが、これからじっくり時間をかけて矯正していくので、悪の道にゴブ幸くんを引きずり込まないよう注意してくださいと脅された。


 彼等が元々この世界の住人ではない事は、昨日質問された時点で察していた。

 俺と同じ様に異世界から何らかの理由で転生した者達。

 俺という存在がいるのだ、別に不思議な事ではない。


 彼等の前世での名前が幸刀柄(ゆきとうづか)白貴(はくたか)四陽(しよう)由輝姫(ゆきひめ)と和名だった事も、同郷である可能性を事前に検討していたので別段驚くような事ではなかった。

 ゴブ姫ちゃんが本名を明かした瞬間に俺のスライム腕がゴブ姫ちゃんに襲い掛かるという一悶着は起こったものの、なんとなくそんな気はしていたので――明らかにスライムらしくない行動ばかりが目立っていたからな。このスライムが同類なら納得がいく――ゴブ姫ちゃんがスライムの洗礼を受けている間、俺はゴブ幸くんと一緒にズズズッと暢気にお茶を楽しんでいた。

 後で思い切り怒られたが。


 そんな訳で、お互いの自己紹介が終わったところで――俺の情報は適当に誤魔化しておいた――今度は彼等が体験した無限ループについて聞く。

 先程も聞いた通り、ゴブ幸くんは41962回、ゴブ姫ちゃんは15783回ほどこの世界で転生/死亡というループを――転生回数は比較的覚えやすいスキル【オラクル】によって知る事が出来るらしい――経験している。

 しかも、転生先は必ずゴブリン。


 御存知、ゴブリンは弱肉強食世界の最底辺とも言えるモンスター。

 兎に角半端無く生き難いので、何も出来ないうちに死ぬ事も多かった。

 産まれて一日経てば何とか自分で動ける様になるが、その一日ですら生き抜く事が難しく――餌を与えられず衰弱死、他モンスターに餌とされる、誤って踏み潰された、同族に口減らしで殺された、等々――この様な異常な転生回数となっている。

 何度死にたいと思ったことか、と彼は言う。


 しかし1万回を越えた時点でボーナススキルを手に入れる事が出来たので、そこからは決して悪い事ばかりでは無かったとか。

 特に女性関係。


 それは兎も角――サラッと流してみたらゴブ姫ちゃんに睨まれた――死んでもやり直せるというその素敵仕様はいつになったら終わりを迎えるのかと聞いてみたが、やはりというか2人とも分からないという回答。

 そもそも、2人は今回のループで初めてアタリの人生を引き当て、これまでにないほど長く生きているうえに同じ境遇に置かれている者に出会った。

 2年という差はあるものの、この事が判明しただけでも本当に奇跡。


 それなのに、俺という別種の存在にも出会えた。

 これはきっと運命だ、と2人はハイテンション気味に言う。

 そして、物凄く羨ましいとも。


 そこからなんか、いきなりモンスターという種族の話になった。

 ちょっと語りたいらしい。


 この世界のモンスターは、大別して9種類に分けられている。

 上から順に、


 カテゴリーⅠ:竜種

 カテゴリーⅡ:悪魔種

 カテゴリーⅢ:幻獣種

 カテゴリーⅣ:不死種

 カテゴリーⅤ:器物種(人形種)

 カテゴリーⅤ:人鬼種

 カテゴリーⅥ:動物種

 カテゴリーⅦ:昆虫種

 カテゴリーⅧ:植物種

 カテゴリーⅨ:無形種


 基本的に数値が小さいほど種としての危険度が高い事を意味している。

 器物種と人鬼種だけ同じカテゴリーに属しているが、これは器物種が昔は不死種と同じ扱いにされており、後で分けられた際に仕方なくこの様な形となった。


 また、カテゴリーⅣ以降の数値はあくまで参考値であり、あまり気にしなくてもいい。

 物理攻撃が意味をなさない霊体が含まれている不死種は厄介な事から、人鬼種は積極的に群れて多種族を害する事から上位の方に配置されているだけで、実際にはゴブリンの様な雑魚モンスターも含まれている。

 例え一番低い無形種のスライムでも、種類によっては不死種以上に厄介な性質を持っているモンスターもいるので、数値は分類上のものでしかない。


 しかし、カテゴリーⅢ以上は違う。

 ほとんどが化け物じみた強さを持っている種族ばかりで、その強さも天井知らず。

 十万年以上を生きている竜種は神々すら殺す程の力を持っているというぐらいなので――いったい誰が確認したんだか――如何に他の種とは違うという事が分かるだろう。


 そして、俺はその次に脅威とされているカテゴリーⅡ、つまり悪魔種に該当する。


 中間に位置しているカテゴリーⅤとはいえ延々とゴブリン人生を繰り返している2人にとっては、是が非でも変わって欲しいと思うのは仕方がないだろう。

 実際に、彼等は「何とかして下克上出来(いれかわれ)ないかな……」と真剣に考え始めていた。


 ――そんな感じで、俺の知らない事を知っている両名から色々な情報を引き出していった。

 俺の方は提供できる情報がほとんどななかったため、腕っ節の強さを担保に、2人が今後やりたい事に尽力する事を約束させられる。

 故郷云々の話はまた今度。


 いつまでも部屋に閉じこもって茶飲み話に興じていても詰まらないので、折角なので2人を誘ってハンティングに出かけた。


 一応、出かける前に子供達に向けて「俺が帰ってくる前に誰かが訪ねてきたらスライム牧場にお連れするように」と言明しておいたので問題無い……多分。

 まぁ、もし手違いが起きても死にはしないだろう。

 ラミーナはあれで結構強いし、朱髪さんにも護身用にシミターを返したし――殺害数が一気に増えたからか、ゴブ幸くん曰くキラー属性がついているとのこと――空髪さんという回復魔法の使い手もいる。

 これまで通りきっと大丈夫な筈だ。


 そんな訳で異世界人同士でハンティングに出かけた俺達が最初に見つけたのが、リトルホーンホースだった。

 見るからに筋肉質な体躯に、普通の馬よりは少しばかり小さな身体。

 騎乗するには丁度良い大きさで、今後の事を思えば是非とも我が家で飼いたいと思うモンスタ―。


 ただ、怪力を誇るバグベアでも彼等の手綱を握るのは難しく、またプライドが非常に高く他者を背に乗せる事をこの上なく嫌うので、捕まえて調教というスタンスでは騎乗する事は叶わない。

 強者の威圧で屈服させたとしても、いざ背中に乗ると自ら木に突進して自害してしまう。

 ゴブ幸くんもかつて同じ事を考えた事があるらしい。


 そんなモンスターが、集団で移動していた。

 あまりこの近くでは見かけない筈なのだが、まるでサイの大移動の様にリトルホーンホース達の群が壁を作り、俺達の行く手を塞いでいる。

 豚肉に続き馬肉までが大量に手に入るとあって、俺達の食生活をより華やかにすべく狩りを実行した。


 初撃は空中高く跳んだ俺がモンスター達のど真ん中に突撃。

 着地後、【叫声】【嘶く】【幻獣王の咆哮】で前方にいるリトルホーンホース達を恐怖に叩き込む。


 ゴブ幸くんも別の場所に突撃。

 群を3等分したところで、俺とゴブ幸くんに挟まれる形となった哀れなリトルホーンホース達をゴブ姫ちゃんが麻痺毒を仕込んだ矢を投擲――弓の命中率は絶望的だそうな――していき、俺達2人も攻撃開始。


 攻撃の結果、俺が無造作に殴るとリトルホーンホースが一撃で絶命してしまう事が発覚し、途中から弾力性のあるスライム腕に攻撃を任せる。

 事前に彼等から「寄生よろ」と言われていたからだ。

 他にも、リトルホーンホースは殺してからすぐに血抜きをしないと加速度的に鮮度が落ちていくため、大量に狩る場合は気絶や麻痺を狙い、後でゆっくり生きたまま解体するのがベスト。


 とはいえ、麻痺毒だけではすぐに動けなくなる訳では無く、痛みで激しく暴れ出す個体がほとんどだった。

 ゴブ幸くんでもあの麻痺毒を受けるとすぐに動けなくなるというのに――もちろん、実体験談――麻痺耐性系のスキルが手に入らない事からして、凄まじい生命力だと呆れる他ない。


 などと感心している間に、麻痺矢を受けた一匹が最後の悪足掻きか俺へと標的を定め、額から伸びている小さく堅い角を突き出すように、怒りにまかせて突っ込んできた。

 周囲にいる馬よりも一回り大きい事からしてこの群のリーダーだろう、そのリトルホーンホースは仲間すら弾き飛ばし、道が完全に開けると一駆けでトップスピードへと加速。


 爆発的に速度を増し迫って来るその様は正直キモが冷えた。

 対処が遅れていれば間違いなく心臓を串刺しにされ、そのまま百メートル以上引き摺り回されただろう。

 普通に回避行動を取っても、ぎらつく瞳が間違いなく俺の姿を追いかけ軌道修正してくると予想出来たため、直前に【光喰い】の魔法で視界を奪ったうえで横に避け、角を掴み脚を払い首をすくう様に空高く投げ飛ばす。

 その後を追って俺も跳躍し、空中で四肢をキャッチした後、スクリュー筋肉ドライバーを行った。


 リトルホーンホースは首より上が地面にめり込み、四肢が完全に折れていたが即死には至らず。

 引き抜くときに少し重労働になったが、それ以外は実に順調なハンティングだった。




[アルちゃんはスキル【集団移動】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【受精率上昇】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【異性誘虜・同種】を対象よりスティール]




 3人とも怪我もなく、最終的に仕留めていくゴブ姫ちゃんの経験値はウハウハ。

 1回目の『存在進化』を果たしても所詮はゴブリンなので、今回取得出来る経験値総量を考えると笑いが止まらないらしい。


 一応、共闘した俺達にも戦闘ボーナス経験値は手に入るらしいのだが、それはきっと俺にとっては雀の涙。

 俺が倒した所で誤差の範囲内だろうから、これっぽっちも惜しいとは思わなかった。


 流石に3人だけでは全て解体する事も運ぶ事も出来そうにないので、ゴブ幸くんがダンジョンに戻り応援を呼ぶ。

 大量の肉があっても長く保存出来る訳ではないので、昨日の事を早く忘れるためにも、今夜は焼き肉パーティーにする事が即座に決定。


 応援がやってくるまで俺がせっせとリトルホーンホースを持ち上げ、ゴブ姫ちゃんがトドメを刺すと同時に血抜きしていく共同作業が繰り返される。

 毛皮の矧ぎ取りと肉の切り分けを始める前に応援部隊が到着したので、後の処理はダンジョンに帰ってからになった。


 ダンジョンに帰宅すると、早速焼き肉パーティー開始。

 リトルホーンホースを運んだ力自慢の者達によって準備が行われ、その間にダンジョンに残った者達が総出で解体していく。

 そして早くノルマが終わった者からスライム酒が振るわれ、肉を食べる権利が与えられるようにした。


 当然、功労者である俺達3人は一足先に食い始める。

 物凄く美味しそうに肉を食べ酒を飲む事によって、せっせと準備と解体を行っている者達の労働意欲を煽り、しかし雑な仕事をした者達には容赦なく駄目出しをしてお預けを命ずる。

 初めて解体を経験するラミーナやエルフちゃんにも厳しく接し――エルフちゃんの馴染みっぷりが却って怖かった。流石、精神年齢は子供、環境適応力が半端ない――モンスターに混じって解体作業する事を嫌がった朱髪さんと空髪さんには解体が終わった後に俺が直々に料理した馬肉料理を振る舞い労をねぎらう。


 その後はいつものように色々騒いで、普段通り皆が酔い潰れた頃合いを見計らって家族と共に帰宅。

 日々グレードアップしつつある貝殻(ベッド)に入るとエルフちゃんが俺の寝所に潜り込んできたので、そのまま一緒に寝る。


 酒に酔っていた所為と、エルフちゃんの容姿があまりにも美しく、そんな美女が目の前で無防備な姿を曝していたため、思わず手を出してしまった。

 ――仕方ないよな?


 だが、その手がエルフちゃんの肌に触れる直前。

 心の中に悪魔の顔をした天使が現れ、天使の表情を浮かべている悪魔とバトルを繰り広げた。


 それから悶々とすること数秒。

 最終的に、幸せそうにスヤスヤと眠るエルフちゃんの顔を眺め続けた事で悪魔顔の天使に勝利の女神が微笑む。

 無垢な姿が愛らしすぎてヤバイ。


 ――もしかしてエルフちゃんを襲おうとした面々も、そんな姿を見てその気がなくなってしまったのだろうか?

 それとも、奴隷化でもどうする事も出来ない更に上位のスキルでも持っているのか。

 謎は深まるばかり。


 そんなタイミングを見計らったように、朱髪さんと空髪さんも寝所に突撃してくる。

 ヤっちゃってる最中でなくてちょっとホッとしてしまったのは御愛嬌。


 いつもは身体中を覆って物色してくるスライムちゃんも今日ばかりは遠慮してくれたのか、それ以上貝殻(ベッド)が狭くなるような事は無かった。


 久しく感じる人の温かさに包まれながら、俺は今度こそ意識を手放した。







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