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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第三章
54/73

3-6

◆第十週 六日目 地源日◆


 スライムが住み着いている。

 家の中にスライムが住み着いている。

 家の中に数百匹のスライムが住み着いている。


 ヤツ等は餌を与えなければこれ以上増えないので、放っておいても良いだろう。

 たぶん。

 最悪、入口を埋めてしまえば無かった事にも出来る。


 問題は先送りにすべし。


 ようやく落ち着いたので、今日から日課を再開する。

 まずはいつも通り、体力作りから。

 何事も体力が無ければ何も始まらない。


 ひたすら走らせる。

 全力で走らせる。

 倒れても無理矢理起こして走らせる。

 気絶しても回復して走らせる。


 昨日から一転して悪魔教官となった俺に朱髪さんと空髪さんは驚いていたが、そんな感情を持て余す余裕は邪魔なので、兎に角走らせて根こそぎ取っ払う。


 どこぞの鬼教官なら汚い罵声を浴びせるのだろうが、俺はそんな事はしない。

 5つの言語で罵声を浴びせるのは面倒すぎる。

 その代わり、始終無言で【威圧】と【幻獣王の威嚇】。

 持ち前の殺気も寒暖付けて浴びせ続け、罵声以上の圧力を加え続けた。


 途中、キレた朱髪さんが獣化して襲い掛かってきたりもしたが、鬼の鉄拳で叩き落とし両腕をへし折った。

 腕は走るのに必要無い。

 すぐに治療したが完治まではさせず、再び走り込みに戻す。

 そのうちそんな痛みすらどうでもよくなるだろう。


 ちなみに、訓練では俺も一緒に走っている。

 但し、全力で走ると色々と周囲にダメージが発生するので、残像が残らない程度の速度で走る。

 それだとまるで疲れないので、全身に重りを付けて走っている。

 いずれは皆にも同様の事をしてもらうと言ったら、既に絶望していた表情からその絶望という感情すら消えていった。


 良い兆候だ。




[アルちゃんは職業《軽剣士(ライトソードマン)》を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《軽戦士見習いイニシエイト・ライトウォーリアー》を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《探索者見習いイニシエイト・サーチャー》を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【スラッシュ】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【ラッシュブレイク】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【ライトブレード】を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《神聖術士(ホーリーメイジ)》を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《火炎術士見習いアプレンティス・ファイアメイジ》を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《戦闘付加術士見習いアプレンティス・バトルエンチャンター》を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【聖弾】を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【聖結界】を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【簡易治療・中】を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【神聖治療・弱】を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【再生力強化・中】を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【清浄】を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【着火】を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【火弾】を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【筋力強化】を対象よりスティール]

[アルちゃんは魔法【頑丈強化】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【杖術】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【杖撃・打】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【神聖耐性】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【神聖力上昇】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【幻魔脆弱】を対象よりスティール]




 大量にまた目新しい職業や魔法、スキルが手に入った。

 【ライフドレイン】で一通り奪った後、コツコツ攻撃して【ライフスティール】で熟練度を稼いでいく。

 職業は手に入れてもレベル1のままなのでどうやって成長させればいいのか分からない。

 が、上位の職業は補正値も高いらしく、あっても損はない。

 〝見習い〟はいらないが、〝下級〟や無印は大歓迎だ。


 他にも、有用そうな魔法やスキルもちらほらとあった。

 試しにステータス上昇系の魔法【筋力上昇】を使ってみる。

 殴る力(こうげきりょく)地面を蹴る力(しゅんぱつりょく)が僅かながら上昇し、走るのが楽になった。


 この【筋力上昇】の魔法は他人にもかけられるらしい。

 丁度、乙女達のあられもない姿を眺めに最長老が現れたのでかけてみた。

 曲がっていた腰が伸び、最長老が元気になる。

 実験後は叩き出した。


 最終的に、いつものような光景になったところで、俺は食事の準備にかかる。

 昨日、空髪さんに台所を任せると言ったばかりだが、それは夕飯の話。

 特訓を行う午前中にそんな体力が残っている筈が無い。


 コケコが毎日産んでくれる卵を2本の腕で片手割りしながら、残る2本の腕でかき混ぜていく。

 その中にアクエリアンシャークの切り身を漬けた後、熱した鮫油でカラッと揚げていく。

 パン粉とか小麦粉などがないので若干不格好だが、リリーと一緒に味見をしてみたところ、もう一切れ摘み食いしてしまったのは他の者達には内緒だ。


 他、森で採れる山菜も天ぷらにして皿一杯に盛る。

 少し胃に重たいものを作ってしまったが、あまりに美味いので誰からも文句は出ないだろう。


 食事の用意が出来た所で皆を呼びに行くが、誰も幽鬼のように起き上がっては来なかった。

 お腹が空いてはいても、体力も気力も底をついているので当然の反応か。

 今日はちょっとやり過ぎたようだ。


 スキルや魔法で体力を回復させても眼は死んだままで動く気配が無い。


 仕方なく、一人一人の口に天ぷらをあ~んしていく。

 リリーとコケコも天ぷらを口に咥えて手伝ってくれた。

 半分は自分の胃に収まっていたが。


 食事が終わると、全員の意識がいつの間にか闇に落ちていた。

 お腹が満たされたので、効率良く心身の疲労を回復するために脳が自己防衛に動いたか。

 呻き声が一転、スヤスヤという9つの寝息が耳に届けられる。

 人とモンスターが同じ部屋で仲良く寝ているという光景は、少し心温まるものがあった。


 ――約30分後。


 叩き起こして訓練を再開する。

 さっき食べたのは朝食だからな。

 午前の特訓時間は、まだ折り返してもいない。


 特訓が終わった時、人とモンスターの間に種族の壁を越えた強い絆が生まれていた。

 半日でこれなら、人間と魔物も共存も夢物語ではないのかもしれない。




◇◆◇◆◇




 昨日は6対1対2という険悪な構図が出来ていた我が家。


 俺を崇拝し傅く、3種族からプレゼントされた子供6人。

 何故か俺を敬愛し慕ってくる、身元を引き受ける事となってしまったラミーナ。

 遺憾ながら俺に恐怖しつつ保護を求めてくる、冒険者の人間2人。


 裸の付き合いをすればすぐに仲良くなるだろうと思い一緒に風呂に入れようとしたら、9人全員が嫌がったために、昨日は俺だけ風呂に入った。

 その間、9人は部屋の中でずっと互いを牽制しあい、睨み合っていた。


 しかし今。

 死を目前にしてそんなどうでもいい垣根が取っ払われた9人は、仲良く一つの風呂に入っている。

 正確には、全員特訓で動けなくなっているので、俺に成されるがままだったとも言うが。

 それでも昨日まであった互いの反目は今はなく、疲れた身体を溶かすような気持ち良い風呂の心地に誰もが蕩けるような表情を浮かべていた。


 そんな彼女達の身体を一人一人丹念に洗っていく。


 子供達6人を洗う時は兎も角。

 他3人の身体を洗う時には少し申し訳無い気持ちが沸いたものの、彼女達は長いダンジョン暮らしで不衛生極まりなかったので、綺麗好きな俺にはもう我慢がならなかった。

 動けないのを良い事に、一人一人風呂から連れ出して、洗い場であますことなくその身体を清めさせてもらった。


 ラミーナは見た目には確かに美人だ。

 妖艶な美貌に男を虜にする豊満な胸、引き締まった腰、露出度の高い衣装。

 下半身はアレだが、男ならば一目見ただけで一夜を共にしたいと思うだろう。

 【魅了の魔眼】【妖艶ノ香】というスキルを持っているならば尚更だ。


 だが、一方的に男を捕食する側のモンスターだからか、ラミーナは自身の容姿や衛生にはほとんど気を使っていない。

 灯りを翳し、よくよく肌を見れば汚れが酷いこと酷いこと。

 そんな不衛生な状態で抱き付かれでも全然嬉しくない。


 朱髪さんと空髪さんは人間の女性なので一応は気を使っている。

 しかしダンジョン内で水の確保は難しく、身体を布で拭うのもままならなかった様だ。

 空髪さんが持っていた魔法を見ても、水を生み出せる魔法がないので、全て現地調達。

 水さえ見つければ【清浄】の魔法があるので何とかなっていたのだろう……と思っていたのだが、どうやらこの魔法は水を綺麗にする魔法ではなく、水を聖水に変えるだけの魔法だった様だ。

 しかも熟練度不足で、汚水を使うと聖水は生まれない。


 まぁ、それも仕方のない事だろう。

 2人はまだまだ子供だ。

 年齢を聞くと10歳という答えが返ってきたので――おかしいな、もう少し上かと思っていたんだが。そんなものか――修行不足も良いところ。

 むしろそんな年齢の子供2人を連れて世界を旅し、ましてや危険なダンジョンに連れて行くなど、この2人の面倒を見ていた男の正気が知れない。


 冒険者ランクDだとか関係無い。

 まだ生きているなら絶対に説教だ。


 全員をピカピカに磨いた後、風呂好きのリリーに身体を預け、コケコ産の温泉卵をツマミに極楽を堪能。

 尚、安全のため【処女の血潮】【強精】などはきっておいた。





◇◆◇◆◇




 昼風呂と洒落込んだ後は、仕事を行う。


 果たして仕事と言って良いのかは分からないが、現リーダーであったラミーナをアッサリと降した俺は――俺が寝ている間に今月のリーダーを決める武闘大会が開催されたらしく、その大会でラミーナは優勝していたらしい――このコミュニティで間違いなくトップに立っている。

 別に望んで手に入れた地位ではないが、傍若無人に振る舞うだとか我関せずというのはどうもな。


 それに迷宮造りは面白そうだし。

 こっちが本音だ。


 ただ、残念なのはこの迷宮には訪問者が圧倒的に少ないという事か。

 立地条件が悪すぎる。

 その御陰で3種族は今も無事に繁栄し続けているのだが、出来ればもう少し刺激が欲しいと思うのは俺の我が儘だろう。

 もう少し出会いが欲しい。


 今俺がいる迷宮第一階層のダンジョンエリアの入口があるのは、〈カーウェル皇国〉領内にある〈アーガスの森〉の中。

 入口は森の南にあり、そこから人のいる村や町までは少し距離があった。


 この国に住んでいる主な民は《混沌の民》。

 森はモンスターに占拠されているので、こんな所まで彼等がやってくるのは稀でしかない。

 まぁそれ以前に、この森にはキマイラもどきがいたので、辿り着く事もままならなかっただろうが。


 森に住んでいるモンスター達も、ダンジョンの中はめぼしい物がほとんど無いのでまず入って来ない。

 それどころか、この迷宮は入ると必ず|3種族が暮らしているエリア《モンスターハウス》に行き着いてしまう。

 3種族を狩っても全く美味しくないので、基本放置が常。


 つまり、ハッキリ言って魅力が無い。


 言い換えれば、魅力ある場所にすれば、少しは寄ってくるということ。

 そのためのダンジョン改造を今、俺は行っている。


 俺達の住処を回避出来る様に、迂回路の作成。

 これはもうすぐ終わる。

 その後すぐにバグ族の住居を造った後、迷宮らしいダンジョンを造る予定である。

 この時点をバージョン1.00と呼ぶ。


 このダンジョンに外にいるモンスター達を呼び込むためには、余った食糧をダンジョン入口付近に配置する事を考えている。

 他にも、水飲み場を作ったり、寝床となりそうな洞窟をダンジョン近くに作ったり、草木の手入れも検討中だ。


 ダンジョンの入口が草に覆われて発見し難くなっていたのは3種族の知恵だろうが、思い切ってバッサリ。

 ダンジョン周囲の食べ物もあらかた3種族が食い尽くしていたので、その辺りも改善。

 森を少し切り開けば農業も可能なので、余力が出てきたらダンジョンから少し離れた土地に農村を作っても良いだろう。


 そこまで考えたところで、俺はこのダンジョンに名前を付けた。

 この迷宮には《宝瓶之迷宮アクエリアス・ラビリンス》という歴とした名前がついているが、それだけだと色々と不便だろう。

 幾つものダンジョンが合体しているのだから、そのエリアごとに名前があっても良い筈だ。

 もしかしたらもう既に誰かが名前を付けているかもしれないが、誰も知らないので却下。


 水瓶座にちなんで、〈アルバリ洞窟〉と名付ける。

 飲む者の守り、呑み込む者の守り星、などという意味があるらしいが、とりあえず一番端にあった星をまず選んだだけだ。


 同様に、フォル達がいる隣の第二階層を〈サダルスウド洞窟〉――幸運中の幸運――とこれからは呼ぶ。

 不幸なクズハに少しでも幸運が訪れるよう、ちょっとした験担ぎにもなる。


 さて、後はこの〈アルバリ洞窟〉の名産でもあると良いのだが。


 こういう事は年長者に相談すると良い案を出してくれるかもしれない。

 という訳で、暇そうな最長老に丸投げ。

 万が一にでも良い案が出たら儲けモノだと思う事にする。


 ――後日、まさかのアレが名産になってしまうなどとは夢にも思わなかった。







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