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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第三章
53/73

3-5

◆第十週 五日目 風源日◆


 朝、目が覚めると腕が2本増えていた(ヽヽヽヽヽ)


 別にもういらなかったというのに。

 どうやらヤツはどうしても俺の腕でありたいらしい。


 俺の右腕は、この世界にやってきた時に失われている。

 その代わりをヤツはしてくれていた。


 それから暫くして、俺はあのキマイラもどきとの戦いで左腕の二の腕から先を炎で焼滅させられていた。

 つまり、その時点で俺は両腕を失っていた。


 しかし今回の『存在進化』で、俺は新しく2本の腕を手に入れる事となった。

 最初は当然驚いたが、元々の2本が失われていた事が幸いして、意外と簡単にその新規の腕2本に順応してしまう。

 その状態でも、失われた右腕の付け根は以前通りで、失われた左腕の二の腕の状態もそのまま。


 つまり、先ほどまで俺は本来の位置から生えていた腕ではなく、3本目4本目に相当する腕で生活していた。

 四腕の阿●羅マンもどき、うち1本は根元からなく、もう一本はちょん切れているというシュールな見た目も相成って、俺という悪魔の立ち姿はかなり不気味だったことだろう。


 そんな訳で?戻ってきた腕の調子を確かめるため、午前中は久しぶりに2人の稽古をつけてみた。


 後には死屍累々の屍が2つ残った。

 少しは逞しくなったと思っていたのだが、どうやら言い渡していた毎日の修行はサボっていた様だ。

 肉体スペックは上がっていても、技術は離れる前より落ちていた。


 これは俺の監督不行届だな。

 『存在進化』した御陰で移動時間も短縮出来ている事だし、もう少しマメに通う事にする。

 そう言うと、2人は嬉しいような悲しいような顔をした。


 しかし……改めてみると、クズハはやはり将来がとても楽しみな容姿をしていると思う。

 狐は元々妖艶な種族。

 前よりもかなり健康的となったことで、仄かな灯りと、滴る汗の効果で、何となく目のやり場に困った。


 着ている服もウォーラビットの毛皮を適当に繋げたものなので、露出度がそれなりに高い。

 そして修行直後のため、盛大に着崩されている。

 『存在進化』前は7歳児程度の容姿だったので全く気にならなかったが、流石に成長後だとちょっとヤバイ。


 本人の精神年齢は成長していなくとも、隣にいるフォルの視線がちょっとアレな色に染まっていたので、クズハもそのうち勘付いてくるだろう。

 ただ、きつい修行のせいで体脂肪が削られるので、胸の方はもしかしたら残念な事になるかもしれないが。

 まぁなるようになるだろう。


 そんな事を考えながらも、今は3人とも子供なので一歳に気にせず一緒に風呂へと入る。

 風呂は、例の綺麗な水場に作ったあそこだ。

 少し距離があるが、修行の最後の走り込みの終点にしたので全く問題無い。

 俺の帰り道でもあるしな。


 この風呂場も懐かしい。

 我が家の風呂よりも随分と小さく、また俺とクズハが成長してしまったため更に小さく感じてしまったが、またそこが良かった。

 風呂が小さい分、密着度が格段にあがる。

 久しく感じる人肌に、帰ってきたんだな、という実感をここでようやく感じた。


 ……まぁ、人肌だけでなくスライム肌も堪能する事となったが。

 風呂が小さい分、スライムが入ると湯のネバネバ度が格段にあがる。

 これではスライム風呂だ。


 ただ、スライム風呂にも利点はある。

 それは、身体を洗わなくても綺麗になる事だ。

 スライムが勝手に身体中をまさぐり、汚れを食べていく。

 流石ダンジョンの掃除屋と言われるだけの事はある。

 一家に一匹欲しい。


 とはいえ、普通のスライムはここまで知能は高くないので、このスライムだけが特別だとは思うが。




[アルちゃんは職業《粘液生物調教士見習いアマチュア・スライムテイマー》を対象よりスティール]

[アルちゃんは職業《狼獣戦士ウェアウルフ・ウォーリアー悪魔従者(デモンヴァレット)》を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【熔解】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【捕食】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【変身】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【分裂】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【分裂体支配】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【分裂体操作】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【並列思考】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【重列思考】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【自動思考】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【心眼】を対象よりスティール]

[アルちゃんはスキル【補液再生】を対象よりスティール]




◇◆◇◆◇




 風呂を最後に、フォル達と別れた。

 昨日は3時のオヤツ時に家を出たのだが、今から帰れば同じぐらいの時刻に家に着くだろう。

 風呂に入ったばかりだが、一日に二度三度風呂に入っても全然問題ない。


 風呂を沸かす俺がいなかった事で子供達はすっかり不衛生体に逆戻りしていた。

 今日は存分に洗ってくれよう。


 朱髪さんと空髪さんも長い洞窟暗しでかなり汚れている。

 ついでに一緒に洗ってしまうか。

 心がちょっと躍る。


 ちなみに、さっき手に入れたスキルは、全て風呂の中でいたした(ヽヽヽヽ)結果だった。

 コッソリ使った新スキル【ライフドレイン】の効果によるものだ。


 嬉しい事に、この【ライフドレイン】は意識的に発動しなければならないアクティブスキル。

 しかも触れているだけで良かった。


 正確な効果は分からないが、【ライフスティール】では低確率でしか手に入れる事が出来なかった職業を、この【ライフドレイン】では一発目でスティールする事が出来た。

 反面、既に持っているスキル/魔法/職業はもうスティール出来ないか、【ライフスティール】よりも低成功率の様である。


 スライムから新たに手に入れた大量のスキルも、最初の一回分――つまり熟練度1しかスティールしていない。

 つまり、現状ではスキルを持っているだけで、ほとんど役に立ちそうもない状態。


 というか、スライムの癖にやたらと良いスキルばかり持ってるな。


 余談だが、その後も風呂に溶けているスライムや、俺の両腕に寄生している分裂体に対して【ライフスティール】と【ライフドレイン】を繰り返してみたが、ライフスティールをガードする事でも出来るのか、以降は一度も成功する事が無かった。

 いや、残念。

 本当に残念。

 【並列思考】とか【分裂体操作】とか有用すぎるだろう。


 あと、フォルとクズハの職業が変わっていたのだが、とりあえずスルーしておく。

 フォルは兎も角、クズハの方はそのうち何かを見せられる可能性も無きにしもあらず。


 スライムの球乗りとか、スライムの火輪潜りとか。

 ああ、ナイフ投げをする時には是非にやらせてもらおう。

 誤って刺さっても全く問題なさそうだし。


 家に帰る途中、また何かを轢き殺した。

 高速移動していたのでチラッとしか見ていないが、何だか人型をしていた気がする。


 【空間視】だけだと、この移動速度では細部までは分からない。

 今度時間がある時にでも少し調べてみる。

 朱髪さん達が言っていた謎の強敵モンスターの事も気になるしな。


 家に着くと、まずその朱髪さん達の様子を確認する。

 良い具合にリリーとコケコが2人を癒してくれていた。

 美少女2人にペットという光景は和む。


 俺も一緒に癒されたいが、走って帰ってきたため汗を掻いているので今は止めておく。

 風呂に入ってサッパリした後でモフモフしよう。


 3種族の中で一番怪力のバグファンとバグフェに、風呂に水を張っておくように指示した後は、居間にて報告を聞いていく。

 相変わらずラミーナが部屋のオブジェと化しているが、反省の色が見えないのでもう少し放置しておく。

 吊された美人は眼の保養にもなる。

 ラミーナの胸は結構見応えがある大きさなので、報告に訪れた各部族の雄達へのちょっとした褒美みたいな事にもなっていた。


 報告を聞いた後は、我が家の改築状況の確認を行う。

 優先度が低かったので後回しにしていた。

 さてさて、どこまで魔改造されているのか。


 まずは、何故かドアまで付いていた部屋へと入る。


 ……うぞうぞ。

 ……ずるずる。

 ……うじゃうじゃ。


 回れ右してドアを閉めた。


 一発目からハズレを引いてしまった。

 なんだあの部屋は。

 なんであんなにスライム達がいる。

 しかも物凄く広い部屋だった。

 牧場みたいに柵まであった。

 世話をしているらしきゴブリン達の姿もあった。


 俺の家で、いったい何を飼っているんだ……。


 ラミーナにアイアンクローをかけて再び尋問開始。

 御前はスライムフェチか何かか?

 別に趣味が悪いとかそういう事は言わないが、人の家でスライムを放牧というか養殖というか妙な事をするのは勘弁して欲しい。

 それでなくとも、ついこの間まで俺はスライムがトラウマになっていたというのに。

 まさか俺の弱点をついて言う事を聞かせようとでも画策していたのだろうか?


 ……。

 …………ん?

 なに?

 先にスライムが住み着いていたから、てっきり俺がスライム好きだと思って保護しただと?


 子供達に確認する。

 すると、全員から同様の答えが返ってきた。


 どうやら、いつの間にか空き部屋に住み着いていたらしい。

 しかし俺に話を聞こうにも、俺は『存在進化』の為に殻に籠もってしまった。


 その後は、勘違いしたラミーナの指示で、訓練用に作っていた大部屋に移して本格的にスライムの保護を開始。

 餌を与えていたらすぐに増殖。


 殺す訳にもいかず、更に部屋を拡張。


 数が増えると、当然餌も大量に必要になってくる。

 餌を与えれば更にスライムは増えていく。

 増えたスライム達が窮屈しないように、また部屋を拡張。

 その繰り返し。


 ――ああ、なるほど。

 3種族がほぼ総出で俺の家を拡張していたのと、食糧難に陥っていたのは、すべてあの部屋のスライムが原因だったのか。

 少し納得がいった。


 全ては勘違いが招いた事故のようなもの。

 ラミーナは圧政を強いろうと思っていた訳では無く、あのスライム達を保護するために、この集落の労働力と食糧を投入し続けた。

 近いうち目覚めるだろう俺のためを思って。


 結局、大本の原因は『存在進化』を始めて音信不通になった俺だったという訳か。

 スライムが知らず知らずのうちに空き部屋へと住み着いた理由は分からない。

 ただ、今回は色々な事故が偶然重なってしまい、この様な状況に至ってしまった。


 容疑が晴れたので、ラミーナを天井縛り吊りから解放する。

 そして、よく事情を聞かずに罰してしまった事を謝った。


 だからと言って、よく考えずにただ一途な想い?だけで突っ走り続け、結果的に多くの者達を死に追いやってしまったラミーナの罪が全て許される訳ではない。


 今日の夜は、家族全員が初めて一同に介し、色々と微妙な空気の中で互いに自己紹介しあった。

 全員が全員、使っている言語が違うので、通訳がとても大変だったが。


 飯も俺が作った。

 空髪さんは料理が出来るという事なので、明日からは任せようと思う。







右腕S「プルプル(今度のお仕事は利き腕か~。ちょっと鬱だね~)」

左腕S「プルルッ(なんで~? いつもサボれるから楽じゃん)」

右腕S「プルルン(君の性格だとそうだよね~。でも、僕って暴れる君なんだよね~)」

左腕S「プルルル(あ、なら変わる~?)」

右腕S「プルプル(それ無理~。一応ローテ組んでるから~……って、キミ新人君?)」

左腕S「プルルッ(うん、そうだよー。型番はS298だって~)」

右腕S「プルルン(あ~、もうそこまでいってるんだー。世代交代早いな~)」

左腕S「プルルル(みたいだね~。なかなか君みたいな優秀個体は生まれないみたいだねー)」

右腕S「プルプル(だね~。僕の何が気に入られたんだか)」

左腕S「プルルッ(ちなみに、君の型番はいくつー?)」

右腕S「プルルン(S007だよ~)」

左腕S「プルルル(ラッキーだね~)」

右腕S「プルプル(うん、ラッキーだね~)」

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