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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第三章
52/73

3-4

 朱髪さんと空髪さんの2人に構い続ける訳にもいかない。

 とりあえず2人には、今日はその部屋からは出ないように言い渡す。


 あと、何故だか衛兵みたいな事をしていた倭ノ介へ見張り番を頼んでおく。

 今日は帰って来れない可能性もあったので、食事に関しては犬鬼(コボルト)の御沙樹と御菜江へお願いしておく。


 ついでに、癒し要因としてリリーとコケコを部屋に放り込んでおいた。

 ――二匹とも、ちょっと成長したか?


 新しい居候2人の面倒を見た後は、お仕事タイム。

 居間の天井に吊したままのラミーナに餌を与えつつ、昨日今日の報告を聞いていく。

 報告というか、とある要望が非常に多かった。


 繁殖奴隷が欲しい、と。

 中にはもっと率直な言葉で、性欲の捌け口を用意して欲しいと言ってくるゴブリンもいた。


 ゴブリン達の中にも雌はいるだろうに、その点を指摘すると『見た目が……』というもっともな意見が。

 立つモノも立たないらしい。

 それはどの種族にも言えるらしく、美的感覚は俺とあまり変わらないという新しい発見があった。


 流石に解決策がすぐには思い浮かばないので、その要望は保留しておく。


 食糧難に関しては、大量に仕留めた高級食材(アクエリアンシャーク)があるので窮地は脱した。

 代わりに水不足の懸念があったので、食糧調達の指示を水調達へ変更。

 当然ながら、その任は水にちょっと五月蝿いコボ族へと出す。


 調査を指示していた各集落の状況は、全体の5分の1から3分の1程度の死者が出ていた。

 そのうち2割は飢餓によるもので、予想通り弱い者から順に――次代を担う年少者達と、働き手としてはあまり役に立たない老いた者達――命を落としている。

 残りは、狩りの最中でモンスター達に殺されていた。

 その死因は、単独行動および空腹によるミスがほとんど。

 通常、単独で狩りをする者はあまりいないのだが、ラミーナの圧政に耐えかねてコッソリ抜け出した者達がその結末を迎えた様だ。


 周囲の見回り調査を指示した老人衆の報告では、少し嫌な予感を感じさせる報告があがってくる。

 彼等は長いことこの場所に住んでるだけあって、この付近の事をよく熟知している。


 それによると、迷宮内のモンスターの数が少し少ないのと、迷宮外のモンスターの数が少し増えているらしい。

 迷宮外の方は何となく理由は分かるが、迷宮内の方はよく分からない。

 もしかしたら単純に外へと流れているだけかもしれないが。

 引き続き、出来る範囲で調査を指示しておく。


 さて、これで集落の方は一先ず一息吐いた。

 まだまだ問題は山積みだが、それは一つ一つゆっくりと片付けていけばいい。

 色々あって少し遅くなってしまったが、今度は俺にとって最も気掛かりだった事の確認へと向かうとする。


 脳内地図を呼びだし、最短経路で迷宮内を高速移動。

 隣にある第2階層へと入り、更に進み続けること一刻。

 途中、見慣れないモンスターが通行を邪魔してきたが、適当に()き殺した。


 そして、俺はかつての住まいへと辿り着く。


 もぬけの殻だった。


 ――いや、単なる外出中か。

 貝殻(ベッド)はあるし、生活臭もあるので、この住まいを引き払ったという訳では無さそうだ。

 相変わらず天井にはポッカリと穴が空き――スペックが上がったので試しに壁を蹴って穴から出ようとしたが、見えない壁に阻まれて失敗に終わる――灯りがなくてもそれなりに明るい。

 時刻は夕方ぐらいだろう、若干ながら空は赤みを帯びていた。


 ただ待っているだけなのは暇なので、勝手ながら【掘削】を使って部屋の整備に洒落込んでみる。

 他人の家なのに家主の許可も得ずにリフォームし始める俺は悪人だな。

 帰宅した2人の顔が驚きの色に染まるのが少し楽しみだ。


 我が家の改築で慣らした経験を元に、歪な形状の床や壁をガリガリ削っていく。

 万能の右腕(スライムハンド)が無いので、溶解液を利用した平面化/防腐/塗装などの諸々処理までは出来ないが、まあ2人が帰ってくれば本体も一緒にいる筈なので、それからでも問題ないだろう。


 ついでに、本来の用途とはちょっと異なるが【繭糸生成】で作った繭糸に畳一辺の距離を目印として付け、部屋のサイズを畳がキッチリ収まる大きさにする。

 その結果、部屋は54畳分の広さとなった。


 更に、隣部屋の池へと続く道も整え、曲がりくねったものから直道へと変える。

 池部屋は四角部屋ではなく、丸部屋へ。

 部屋の半分が池だったのを、壁を削りまくって倍の広さにすると同時に池を部屋の中央部とする事で、池の周りをグルグル回って逃げられるようにする。

 池の底で別の場所へと繋がっているので、基本的に池の水が枯渇する事も無い。


 そんな感じで部屋を掘削していると、たまに鉱石がボロッと出てくる事がある。

 俺の家がある第一階層では、主に銅っぽい鉱石や、半透明の白い石の計2種類が採れていた。

 しかしこの第二階層では、銅っぽい鉱石と鉄っぽい鉱石、米粒の様な形をした真珠もどき、そして稀に紫水晶っぽいものの計4種類が採れる。


 残念ながら【道具鑑定】の対象外らしいので、早く鉱石鑑定とか宝石鑑定などのスキルが欲しいところ。

 銅っぽい鉱石は3種族でも武器防具などで使っているので、恐らく銅で間違いないだろう。

 どれも集めておいて損は無いだろうから、動物の皮で作った大袋に入れていく。


 池部屋の改築が終わっても、フォル達は帰ってこなかった。

 仕方ないので、今度は内装を弄っていく。

 と言っても、最初から部屋に置いてあるのは寝台用の貝殻と、食材保管庫用の貝殻と、それ以外の物を入れておく貝殻ばかり。

 キラーフィッシュの骨やレイククラブの甲殻の残骸もあったが、こちらはほとんどゴミだろう。

 何やら武器や防具を作ろうとした失敗作もあったが。


 さて、何を作ろうかと悩んだが、まずは壁に灯明台を置く窪みを作ってみた。

 油ならば昨日仕留めたアクエリアンシャークから搾り取れたので、実はお裾分けとして持ってきていたりする。

 俺達が住んでいる集落では洞窟内なので換気出来ずちょっと使い勝手が悪いが、ここなら天井が空いているので空気が淀む事はないだろう。


 丸みを帯びているレイククラブの甲殻を適当な大きさに割り、無骨だが灯明台の代わりにする。

 その上に油を少量入れ、リトルホーンホースの鬣と【繭糸生成】で作った糸を合わせて作った紐を浸して、先端を灯明台から出す。

 あとは紐が落ちないように、重りで固定。

 少し洒落て、紫水晶っぽい石を削ったものを重しにする。

 簡素な作りだが、それを壁一辺に対し3個ずつ配置していった。


 早速、灯りを付けてみる。

 すると、水晶の内部を通った光が散乱し、仄かに部屋を紫色に染めた。


 ……物凄く妖しい部屋になった。


 いったい何処の風俗店だ。

 泣く泣く、重りを米粒真珠もどきに変えた。


 灯りの次は、ちょっとした飾り物でも作ってみる。

 本当はテーブルや棚を作りたいが、此処には素材がない。

 洞窟の外にいけば森から幾らでも木材が採れるが、流石に此処まで運ぶのは面倒だ。

 ちょうど良い大きさの石もないし、土で作るのは流石に味気ない。

 せめて天井に空いている穴の場所が分かれば、上から木材を落とすのだが。


 ――よし、完成。

 キラーフィッシュの骨が大量に余っていたので、マッチ棒宜しく使って、恐竜の骨の模型を作ってみた。

 ほとんど何の役にも立たないオブジェだが、灯りで照らせばそれなりに恐怖を煽ってくれるので、ちょっとした侵入者対策になるだろう。

 この世界には骨モンスターとか普通に存在していそうだしな。


 いやいや、俺はいったい何を作っているんだ。

 恐竜模型の出来映えに暫く満足していると、突然にハッと我に返った。


 しかもそのタイミングでフォルとクズハが帰宅。

 謎の骨モンスター(かざりもの)と、見た事のない化け物(おれ)を見て、2人は悲鳴をあげて逃げていった。


 おーい……。




◇◆◇◆◇




 閑話休題。


 2人は悲鳴をあげて、逃げて、追いかけられて、追いつかれ、必至に抵抗し、倒された。


 俺は悲鳴をあげられ、逃げられ、仕方なく追いかけ、追いつき、何故か抵抗され、イラッときたのでぶちのめした。


 肩に担いで彼等の家に連行。

 道中、2人が仕留めてきたと思われるモンスターの回収も忘れない。

 どうやら今日の夕食はウォーラビットの肉の様だ。


 家に着くと、恐竜模型に(スライム)が付いていて、作成者である俺の方が驚かされた。

 何を遊んでるんだ、あのスライムは。

 スライムの癖に、相変わらず知能が高い。


 ……。

 …………お?


 ヤツを見ても、そこまで恐怖を感じない。

 もしかしてトラウマを克服したのだろうか?

 まぁ、俺もヤツとはそれなりに付き合いが長いからな。

 一緒に風呂にも入っているし。

 ようやく抗体やら免疫やらが出来たのだろう。


 それはそれとして。

 改めて仕留めた獲物2匹(フォルとクズハ)の姿を見る。

 正確には、クズハを見る。


 ……前回見た時よりも、頭半分ぐらい成長している気がする。

 クズハはこんなにも大きかっただろうか?


 フォルとクズハを床に並べて寝かせてみる。

 やはり大きくなっている。

 以前はフォルの方が僅かに背が高かった筈なのに、今はクズハの方が明らかに背が高くなっていた。


 心なしか胸の膨らみも当社比増。

 実際に実物をそっと拝見してみると、やはり大きくなっていた。

 ――気付かれる前に胸元をそっと元に戻す。


 顔付きの方も、美や艶の彩りが増している。

 以前が7歳の幼女なら、今は10歳の童女といったところか。

 幼く見える童顔なら、実年齢はもう一声して12歳にしておく。

 俺も12歳ぐらいの容姿?なので、一緒の年齢だと言っておけばクズハも喜ぶかもしれない。


 そんな事を思いながらクズハの顔をジロジロと見ていると、その瞳がパチッと開く。

 その先は予想出来たので、悲鳴が上がる前にクズハの口を抑えた。


 そして定番のあの台詞――『騒ぐな。静かにしろ』――などと言ってみる。


 そしたら、頭をスパンっと何かで叩かれた。


 後ろを振り向くと、先端がスリッパの形になった触手が恐竜模型からニュッと伸びていた。

 見なかった事にしておく。

 あのスライムは深く考えてはいけない気がする。


 クズハにネタばらしをして和解。

 そんな気は微塵も無かったのだが、ドッキリになってしまった。


 ネタばらししたのにクズハはまだ俺を怖がっている様だが、それは仕方がない。

 以前の姿も決して愛らしいとは言えなかったが、『存在進化』後の俺はハッキリ言って怖い顔をしている悪魔だ。

 体付きも随分と筋肉質になっているので、威圧感も半端ない。

 ラミーナ曰く、それでもかなり格好良いとの事だが。


 恐怖を払拭するには時間が必要だろう。

 もしくは餌付けが必要だ。


 アクエリアンシャークの美味しい部分を持参していたので、サササッと調理して鮫ステーキを出す。

 途中で匂いにつられてフォルも目を覚まし、やはり俺を見て怯え始めたが、鮫ステーキを与えるとその感情は一気に吹き飛んだ。


 美味いは正義、美味いは何にも勝る。

 美味い食事というやつは、本当に便利だ。


 飯を食い、リラックスした2人に改めて挨拶する。

 元気そうで何より。

 2人の面倒を見てくれていたスライムにも鮫ステーキを放り投げ――恐竜模型の口からカメレオンみたいに舌が伸びてキャッチされた――一応挨拶しておく。

 どうやら言葉が通じる様だし、そのうち筆談でもしてみるか。


 ――あまりに鮫ステーキが美味しすぎたのか、ずるずるとスライムは溶けていた。

 まさに身体がとろけるような美味さ。

 あとには恐竜模型も残らない。

 ああ、折角の力作が……。


 お互いに色々とあったので、その辺の所を適当に情報交換していく。

 どうやらクズハも『存在進化(ランクアップ)』したらしい。

 《狐獣族(ウェアフォックス)混血種(ミクスブラディ)》から《妖獣族・二尾種(ツインテール)》に。

 その影響なのか、急激に成長してしまったのだとか。


 獣人族の『存在進化』は種族によってどんな風に進化するかはまちまちなのだとか。

 狐獣族の場合は、基本的に尻尾が増える事が多い。

 それは種族名にもハッキリと明記されている。


 ただ、成長が促進されるという話は聞いた事がないらしい。

 だから不思議なのだとか。


 ちなみに、獣人族が『存在進化』する時には、一部の種族を除いて俺の様に殻に籠もる事はない。


 まぁ2人もまだ子供なので知らない事も多いだろう。

 学校に行っていた訳でも無いらしいし――学校が何かすら知らない様だ――人里から離れた小さな集落で暮らしていたので得られる知識も少ない。

 この世界自体も文明はそこまで発達していない様なので、大抵の謎は解明されてなさそうだし。


 その日はそんな感じで積もり積もった話に花を咲かせながら、3人プラス1匹で過ごした。


 尚、クズハの髪形を種族名にちなんでツインテールにしたのは言うまでもない。

 ポニーテールがツインテールにバージョンアップ。







子狼「凄い部屋になったよね~。あ、お風呂までついてる(チラッ)」

子狐「え、お風呂? 水草さんを沈めて水場にするための池じゃない?」

子狼「あ、そっか。そうだよね……(ガクッ)」

子狐「(私の狐火の火力だと、あの大きさのお風呂は無理!)」

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