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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第二章
43/73

EX# とあるケカコックの夢想物語

◆エピソード:

 とあるケカコックの夢想物語 第七週目頃◆


『コケー、コケコココココッ(母様、また鶏の王子様の話を聞かせて)』

『コケッ、コココ。コッコッコッコッ……(はいはい。あなたはこの話が好きね。むかーしむかし……)』


 子供の頃、母様から聞いたあたくし達種族に伝わる伝説の物語があたくしは大好きでした。

 タイトルは『鶏の王子様』。

 母親が娘に読み聞かせる有り触れた物語です。


 とある森のお姫様が悪い人間に捕らえられてしまいました。

 そのお姫様を助ける為に、隣の森に住んでいた王子様が人間を倒しに旅に出ます。

 王子様は辛く厳しい旅を続け、遂に人間のいる場所に辿り着く事が出来ました。

 だけど人間はずるがしこく、お姫様を人質に取り、王子様も捕らえようとするのです。


 王子様はとても悩みました。

 もしここでお姫様を助けても、森に帰ったら王子様は別の鶏と結婚しなければなりません。

 しかしここで人間に捕まれば、一目惚れしたお姫様と一緒に暮らせるのではないか、と。


 自分にとっての幸せは何か?


 王子様は悩んだ末、一つの答えを導き出します。


 王子様は人間の不意をついてお姫様を助ける事に成功しました。

 そしてお姫様と一緒に駆け落ちしました。


 二羽の行く末にはそれからも数多の困難が待ち受けていましたが、王子様とお姫様は決して諦めず、最後には……。


 ――物語はそこで終わっていました。

 とても中途半端でモヤモヤするような内容ですが、あたくしは今でも大好きです。

 この物語を思い出すたびに、あたくしにもいつか王子様が現れるのだと……そして、物語の最後をあたくし自身が作るのだと思っています。


 それは物語の中だけだと理解出来る年になっても、あたくしは……。


 あたくしが産まれた時には既に父様はいませんでした。

 母様は遠くに旅立たれたと言っていましたが、あたくしもモンスターの一匹、もう亡くなっているのだと理解しています。


 ですが、あたくしは母様がいれば十分でした。

 女手一つであたくし()を育て上げた母様。

 愛情は兄弟姉妹の数だけ目減りしていましたが、平等に注いでもらい、父様がいなくても全く寂しくありませんでした。


 母様は、あたくしが独り立ちする前に亡くなりました。

 仲良く育った兄弟姉妹も一緒でした。

 お腹を空かせたモンスターの群に襲われ、偶然窪みに落ちて見つからなかったあたくしだけが助かりました。


 そして訪れる孤独の毎日。

 住んでいた森は大変豊かで食事に困る事はありませんでした。

 ですが、あれほど五月蝿かった日々が急に静かになってしまい、胸にポッカリと穴が空いてしまったような感じです。


 母様は、いずれそういう時が来るかも知れないので覚悟しておきなさいと言っていました。

 覚悟していても、この寂しさは耐えられるものではありません。


 あたくしはいつか、自分も死んで早く母様達の所に行きたいと思う様になります。


 ああ、せめて人間があたくしを捕まえてくれれば、いつか王子様がやってくる夢を見ていられるのに……。


 そんな思いを最後に、あたくしは獣道の真ん中で眠りに落ちます。

 きっと寝ている間に獰猛なモンスターが現れ、あたくしの命を奪ってくれる事を願って。


 目が覚めた時、そこは真っ暗闇の世界でした。

 何も見えません。


 もしかして此処は死後の世界なのでしょうか?


 なら、母様は?

 兄弟姉妹は?

 父様は?


 ……うひゃっ!?


 ザラッとした何かに舐められました!


 ななな何ですか!?

 まさか、食べられるのはこれからなのですか!?

 痛いのは嫌です!


 いやーっ!


 食べられる~っ!




◇◆◇◆◇




 あたくしは食べられませんでした。


 とても悪い人相をしているモンスターさんが笑いながらあたくしに話し掛けてきます。

 ……それはあたくしの名前でしょうか? 

 というか、何故あたくしはこの方の言葉が分かるのでしょう?

 不思議です。


 またザラッとした舌で舐められました。


 あたくしのすぐ横に見た事のないモンスターさんがいらっしゃいます。

 もしかしてあたくしの事を歓迎してくれているのでしょうか?

 なんだかくすぐったいです。


 他にも色々な方があたくしの頭を撫で、抱き付き、甘噛みしてきました。

 どうやらこの方達はあたくしを新しい家族に迎えるつもりのようです。

 その代わり……。


 ええ、分かっていますとも。

 あたくしにその気はありませんでしたが、捨てた命をこうして拾ってくれたのですから、その恩には報いたいと思います。


 母様から何度も聞いた『鶏の王子様』。

 その物語では、人間が何故あたくし達を捕まえようとするのかも語られていました。


 命が宿らない卵――それを、あたくし達は魔法で産む事が出来ます。

 これといって用途のない魔力を使って産むその卵は、あたくし達にとっても大変便利な非常食です。


 魔法を使うのはちょっと疲れるのですが、朝一番に使うと妙にスッキリする事が出来ます。

 ただ産んだ卵はあたくし達だけでは処理しきれない量となるため、当然捨てる羽目になります。

 そうなると、その卵を狙ってモンスター達が次々と寄ってくる様になります。

 つまり身の危険が格段にあがります。

 なので、あたくし達は普段この魔法を使いません。


 恐らく、あたくしのこれからの人生は、死ぬまでずっとこの場で卵を産み続ける事になるのでしょう。

 狭い空間に隔離され、美味しくない御飯を食べさせられ、来る日も来る日も卵を産み続けるだけの毎日。


 もしかしたら時には知らない殿方と子作りさせられ、子供をたくさん産む事になるかもしれません。

 そしてこの絶望的な未来が約束された子供達は、何も知らないまま家畜のような生き方を余儀なくされるのです。


 ああ、なんて酷い未来でしょう。


 でも、きっといつか王子様があたくしの事を助け出してくれる筈です。

 そう考えていなければやっていけません。


 あたくしはなんて可哀想なのでしょう。

 まるで物語のお姫様みたいです。


 お姫様の父様は、お姫様が産まれた時からいらっしゃいません。

 あたくしの父様も産まれた時からいらっしゃいません。


 ――っは!


 まさかあたくし、実はやんごとなき森のお姫様なのでは!?

 まさかまさか?

 いえ、そのまさかでは?


 きゃーっ。

 おうじさま~。

 早くあたくしをここから助け出してー。


 首を長くして待ってます♪




☆コケコはお姫様の様な待遇を受けています。

☆コケコは毎日を幸せいっぱいに生きています。

☆コケコはいつか王子様が迎えに来てくれる事を心から信じています。







Q.プルプルプル?

猫「ニャー」

鶏「コケッ」

悪魔「いや、質問者も質問相手も間違ってるだろ……」

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