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◆第七週 四日目 星源日◆
本日の午前中は、成長した子供達の力を確かめるために全員でハンティングする。
最初の頃と比べて、子供達の体つきと顔つきは変わっていた。
特にゴブリンは3種族の中で最も成長が早いだけに、一番化けている。
醜い顔は相変わらずだったが、成長を一番感じさせてくれる。
まぁそれでも3種族の中では一番弱いままだが。
獲物はハウンドヴォルフ。
喉を【部分変化】でハウンドヴォルフに似せ、仲間を呼び寄せる【遠吠え】を使い誘き寄せる。
あとついでに【不幸・弱】を一時的にオンにしてみた。
そうしたら、リーダー格付きの数十匹が現れ一気に囲まれた。
いきなりの状況に子供達が死を覚悟していた。
以前とは反対の状況だ。
俺も流石にこの状況は予想していなかった。
えっと……ざっとみて三十匹ぐらいいないか?
ウォーラビットやハウンドヴォルフから得た【威嚇】とラミアから得た【叫声】があって本当に良かった。
それらに合わせてラミアから得た【魅了ノ魔眼】とナイトヴァイパーから得た【蛇の瞳】を同時に行使し、先制でハウンドヴォルフ達に多大な精神的負荷をかけ、怯んでいるところを群のリーダーを真っ先に殺らなければ、俺は兎も角として子供達の誰かは間違いなく死んでいただろう。
いや本当に、調子にのりすぎると碌な事にはならないな。
数の暴力と包囲戦は素晴らしい。
戦いはやはり物量とタコ殴りに限る。
無事に切り抜けられたとはいえ、子供達もかなり負傷した。
特に、腕をガブリといかれたゴブリンの子供は腕をだらんと下げ、虫の息に近い。
流石に布の服だけで狩りをするのは危なすぎるか。
武器防具の入手にも力を入れないとやばい。
まぁそんな苦労話は置いといて。
大変便利な回復スキル【破邪の癒し手】でサクッと治療。
数匹は逃げられたものの、仕留めた獲物は二十匹を越えている。
折角なので、子供達に処理の仕方を伝授していった。
一仕事終えた後、毛皮と肉をまとめ、木ゾリでダンジョンへと戻る。
荷車も欲しくなる今日この頃。
爪と牙は後で草糸を通して首飾りと腕輪にでもするかな。
◇◆◇◆◇
焼き肉パーティーで腹の虫を駆逐した後、午後は昨日と同じく土木作業。
但し、毛皮と肉が大量に手に入ったので、コボルトとゴブリン達から正式に人手を借りて、子供達はハンティングに出す。
あと冗談で、利子は一日十割だから早く返さないと大変な事になると脅しておいた。
俺、悪魔だし?
俺自身は現場指揮官として肉体労働者達に指示を出しつつ、武器防具の製作に取り組む。
これからは彼等だけでハンティングさせる予定なのだが、そのための準備はしっかりしておかないといけないなと先程痛感したばかりだからだ。
皮を鞣し、複数重ねて叩いて圧縮し、革装備を作っていく。
詳しい知識など無いので、ほとんど適当。
だが時々ゴブリン達がコツを教えてくれるので何とかなった。
ハウンドヴォルフの毛皮で作った猟狼革の鎧2着は、コボルトの子供達用。
すぐに成長するので頑丈な草糸で部位同士を繋ぎ合わせているだけの簡易装備である。
コボルトは機動力があるので、その特性を殺さないように重装備にはしない。
武器として用意した物も、お馴染みのキラーフィッシュの小骨剣。
爪装備や牙装備も作れれば良かったのだが、残念ながらハウンドヴォルフのそれでは上手くいかなかった。
パワーファイターのバグベア達には、フォルが使っていたレイククラブ装備一式の改良版を用意する。
あんなゴチャゴチャした痛い見た目の装備ではなく、きちんとした全身鎧である。
やはり成長を考えて、パーツ同士は頑丈な草糸で繋ぎ合わせている。
加えて、レイククラブの甲殻盾を用意。
武器は釘バットならぬ、キラーフィッシュの骨棍棒。
重戦士の出来上がりである。
さて、ゴブリン達用の装備なのだが、ショートボウとクロスボウを作ってみた。
ゴブリン達はコボルトやバグベアに比べると近接戦闘能力が低く、動きの方もあまり特質すべきところがない。
PTバランス良くするため、後衛として育てていこうと考えている。
本音は、前衛ばかりでは詰まらないから。
身の守りはキラーフィッシュの鱗で鎧を作ってみた。
ジャラジャラと五月蝿くて隠密には全く向かないが、そこはそのうち改善するとして。
狩りは隠密が基本なのに相反する装備を着せてしまう事になるが、却ってそれで隠密行動の大切さに気が付いてくれるかもしれない。
教えられるだけでなく自分で気付く事も大事だろう。
コボルトが嗅覚と機動力で索敵。
バグベアが先陣をきり、敵の注意を引き付ける。
ゴブリンが遠距離の死角から攻撃。
コボルトは戦場を駆け回り敵を撹乱、およびメインアタッカー。
俺の考える彼等の戦術としては、こんな感じか。
ここからどう化けていくかは彼等次第。
ここで暮らしている3種族は、基本的に種族間での連携はしていないようなので、あの子供達がその先駆けになってくれる事を願う。
俺が3種族のリーダー的存在として指揮するにしても、連携の出来ない個々の部隊だけではどうしても戦術の幅が狭くなってしまう。
種族ごとにまとまっていれば個々の特性が部隊に現れるので運用する側としては確かに分かりやすいが、それだけだ。
偶発的に戦う事になってしまったラミアの軍団。
彼女達を仮想敵として頭の中でシミュレーションしてみたが、どうにも勝つビジョンが見えてこない。
今後あの様な戦が起きないとは言い切れないので、少しずつでも動いていく必要があるだろう。
俺の【不幸・弱】がどこまで影響を及ぼしているか分からないし。
――などと考えに耽っていると、突然に悲鳴が。
見ると、掘削作業を続けていたコボルト達が大量の水に飲まれ流されていた。
おお、まさかこんなにも早く掘り当ててしまうとは。
逃げ惑う彼等の悲痛な叫び声とは裏腹に、俺は口元に笑みを浮かべるのだった。
[リトちゃんはスキル【尾撃】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【尾撃跳躍】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【這進】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【猛毒耐性】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【水氷耐性】を対象よりスティール]
[リトちゃんは魔法【水弾】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【甲羅防御】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【脱皮】を対象よりスティール]
[リトちゃんはスキル【万寿】を対象よりスティール]




